足場を確かにしないと交渉ごとは始まらない

前原外相が、千島領土交渉について「交渉そのものを根本的に見直すことが大事だ」と述べたというニュースが流れていた。事実上、これまでの日本政府の交渉方針の破綻を認めたものといえる。

では一体どうするつもりなんだろう? と思っていたら、共産党の志位和夫委員長が「歴代自民党政権の日ロ領土交渉方針の根本的再検討を」という見解を発表して、政府に申し入れた。

北方領土交渉「根本的に見直す」前原外相:読売新聞

日ロ領土交渉/歴代政権の方針の根本的再検討を/志位委員長が政府に提起:しんぶん赤旗
歴代自民党政権の日ロ領土交渉方針の根本的再検討を/2010年11月9日 日本共産党委員長 志位 和夫:しんぶん赤旗

共産党の指摘のポイントはこうだ。

  • 日ロ領土問題の根源は、第2次世界大戦終結時に、スターリンがヤルタ会談(1945年2月)で、ソ連の対日参戦の条件として、千島列島の「引き渡し」を要求し、米英もそれを認め、この秘密取り決めを根拠に、千島列島(占守島から国後島まで)と、北海道の一部である歯舞・色丹島を占領したことにある。これは、連合国が戦争目的を明らかにしたカイロ宣言(1943年11月)の「領土不拡大」の原則に反するものだった。だから、日ロ領土問題解決の根本には、この「領土不拡大」の大原則を破って、スターリンがすすめた領土拡張の不公正を正すことがおかれなければならない。
  • ところが、歴代政権は、「国後、択捉は、サンフランシスコ講和条約で放棄した千島列島に含まれないから、返還せよ」と主張して、歯舞・色丹とあわせた「4島返還」を主張してきた。しかし日本政府は、サンフランシスコ講和会議の場でも、同条約を批准する国会の場でも、日本が放棄した「千島列島」には国後、択捉両島も含まれると公式に認めていた。だから、あとになって「国後、択捉は千島列島に含まれないから返還せよ」と主張してみても、国際社会に通用しない。
  • そもそも、領土問題では、日ロ両国間で平和的に画定された国境線がどこだったかということを歴史的に再確認して、それを土台に交渉をすすめる必要がある。1855年の「日魯通好条約」は、国後・択捉両島は日本領、得撫島から占守島まではロシア領としたが、同時に樺太(サハリン)は日ロ混住の地としていた。これを、1875年の「樺太・千島交換条約」で、樺太はロシア領とするかわりに千島列島全体を日本領とすることで、最終的な日露国境が画定された。したがって、千島列島は、日本が侵略で奪った領土ではない[1]。この歴史的な事実を土台にして、領土交渉をすすめる必要がある。

領土問題は解決しなければならないが、それを戦争という手段でおこなうわけにいかない。表面的な「強硬姿勢」をとってみても、大国ロシアにとっては、蚊が刺したぐらいの騒ぎにしかならないだろう。まして、軍事的圧力をなどと言い出したら、わけのわからないところへ突っ込むことは明らか。そうである以上、大事なことは、相手からみても否定しがたい道理ある立場を日本が示して外交交渉をすすめることだ。

今回のメドヴェージェフ大統領の千島列島訪問は、「第2次世界大戦の歴史の捏造を許さない」という触れ込みでおこなわれたものだが、千島列島のロシア占領こそ、第2次世界大戦の戦後処理で残された唯一の「歴史の偽造」[2]といわなければならない。そこを鋭く突っ込んで批判してこそ、国際社会にたいしても、日本の千島列島返還要求の正当性が主張できるはずなのだが、自民党にも民主党にもそういう立場はまったく見られないのが残念だ。

北方領土交渉「根本的に見直す」前原外相

[2010年11月9日09時17分 読売新聞]

 前原外相は8日の衆院予算委員会で、ロシアとの北方領土交渉について「北方領土の『ロシア化』が強まっていることを踏まえ、交渉そのものを根本的に見直すことが大事だ」と述べ、交渉のあり方を再検討する考えを示した。
 外相は、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問した背景として「石油や天然ガスの価格が高騰して、今まで手のつかなかった北方領土までお金が来ることになった」とし、ロシア政府によるインフラ整備や漁業観光支援などで北方領土の「ロシア化」が進んだと指摘。
 日本が交渉のテコとしてきた経済支援の効力が薄れたとの見方を示した。ただ、政府内には、外相の発言について「日本としては経済支援を軸にする以外に有効な手法は見当たらない」と戸惑う声も出ている。

日ロ領土交渉、歴代政権の方針の根本的再検討を 志位委員長が政府に提起

[2010年11月10日 しんぶん赤旗]

 日本共産党の志位和夫委員長は9日、国会内で仙谷由人官房長官と会談し、日ロ領土問題の解決にむけ、歴代自民党政権の日ロ交渉方針の根本的再検討を求める菅直人首相あての申し入れ文書(全文)を渡しました。会談には、穀田恵二国対委員長が同席しました。

 会談で志位氏は、メドベージェフ・ロシア大統領の国後訪問と歯舞、色丹訪問計画について、「日本の歴史的領土である千島列島と、北海道の一部である歯舞、色丹の不当な領有を将来にわたり固定化する新たな強硬姿勢であり、絶対に容認できない」と表明。こうした強硬姿勢を許した根本に、「歴代自民党政権が、国際的道理のない立場と方針で対応し続けてきた」ことがあると指摘しました。
 日ロ領土問題の根源には、第2次世界大戦終結時におけるソ連のスターリンの覇権主義的な領土拡張政策があります。スターリンは、ヤルタ協定を根拠に、「領土不拡大」という戦後処理の大原則をじゅうりんして千島列島を併合し、北海道の一部である歯舞、色丹まで占領しました。志位氏は、「この不公正を正すことこそ、問題解決の根本にすえられなければならない」と強調しました。
 志位氏は、「なぜ戦後65年たって日ロ領土問題が解決のめどすらたっていないのか」について、(1)1951年に締結したサンフランシスコ条約2条C項で千島列島に対する権利を放棄したこと(2)その「枠内」で「解決」をはかろうと、「国後、択捉は千島ではないから返せ」などという国際的に到底通用しない議論を持ち込んだ――という「二重の根本的な誤り」があると指摘。この立場に固執した結果、日本側だけの一方的な譲歩だけがくり返される事態になったとのべ、1993年の「東京宣言」以来の一連の「合意」の問題点を明らかにしました。
 志位氏は、日本共産党が、1969年に千島政策を発表し、南北千島列島全体の返還と、歯舞、色丹の早期返還を求めてきたとのべるとともに、民主党政権について、「自民党政権時代の二重の根本的な誤りを清算できるかどうかが問われている」と強調。(1)ヤルタ協定の千島引き渡し条項とサンフランシスコ条約の千島放棄条項を不動の前提とせず、条約そのものを根本的に再検討すること(2)日ロ間で平和的に画定された国境線は何だったかを歴史的に再検討し、交渉の土台とすること―を提起しました。
 会談で志位氏は、スターリンがおこなった領土拡張のうち、バルト3国の併合やポーランドの一部併合などほとんどが解決を見ており、残されているのは千島列島だけであることも指摘し、「政権交代したのだから、これまでの自民党政権による領土交渉を根本的に再検討することが必要だ」とのべました。

「スターリンの行動は『領土不拡大』という原則をじゅうりん」(仙谷長官)

 志位委員長の提起に対して、仙谷長官は、「スターリンのとった行動は、いわれる通りだ。『領土不拡大』という戦後処理の原則をじゅうりんするものだったと思う」とのべました。同時に仙谷氏は、「サンフランシスコ条約は戦後日本の出発点となるもので、それを覆すのは難しいと思う」とのべました。
 志位氏は、「サンフランシスコ条約のすべてを廃棄せよなどとはいっていない。2条C項を見直すべきといっている。沖縄の施政権を米国に渡した(同条約)3条は『立ち枯れ』になった。条約は変更できないものではない」とのべました。仙谷氏は、「(申し入れ書を)拝読し、勉強したい」「先日の尖閣諸島の見解は勉強になった」と答えました。

自民党は、「菅政権の外交能力のなさ」を攻撃しているが、千島領土交渉では、ソ連崩壊後のロシア経済の混乱につけこんで「経済援助をすすめれば、なんとかなる」と、何の目処もなく無原則な交渉をすすめてきたのは、自民党そのもの。そのなかには、下手をすれば、領土返還は歯舞・色丹のみという、危うい内容さえ含まれていた。自民党には、この問題で政府の批判する資格はない。

【ロ大統領北方領土訪問】自民・石原幹事長「菅政権の外交能力のなさが露呈」:MSN産経ニュース

【ロ大統領北方領土訪問】自民・石原幹事長「菅政権の外交能力のなさが露呈」

[MSN産経ニュース 2010.11.1 14:28]

 自民党の石原伸晃幹事長は1日午後、ロシアのメドべージェフ大統領が北方領土の国後島を訪問したことについて「ゆゆしき問題であるし、菅政権の外交能力のなさが露呈した。この問題も菅政権の外交無力を追及するひとつの事実だ」と述べた。国会内で記者団の質問に答えた。

  1. その後、日露戦争(1904-05)の結果、日本は南樺太を獲得した。だから、南樺太については平和的に画定した日本の領土とはいえない。ヤルタ秘密協定でも、南樺太はソ連に「返還」するとなっていって、「引き渡す」とされた千島列島と区別されているのは、こうした経過を反映したものだろう。 []
  2. バルト三国や東ヨーロッパはソ連崩壊でロシアの勢力圏から離れたから、スターリンの領土拡張主義の結果が残っているのは千島列島だけだ。 []

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