ロシア人にとっての対独戦とは…映画「戦火のナージャ」

「戦火のナージャ」プログラム

昨日は、夕方になってから、ロシア映画「戦火のナージャ」を見てきました。(今年6本目)

あらすじはオフィシャルサイトを参考にしてもらうとして、舞台は1940年代、スターリン支配下のソ連。主人公のコトフ大佐(ニキータ・ミハルコフ監督自身が主演)は、スターリンを暗殺しようとした(というようなかっこいいものではないが)ため処刑される……はずだったが、1941年6月22日、ヒトラー・ドイツが対ソ戦を開始し、収容所が爆撃され、そこから脱出。その後、懲罰部隊の一員として対独戦の最前線に送られる。もう一人の主人公は、コトフの娘ナージャ(監督の娘ナージャ・ミハルコフ)。彼女は、父親が生きていると教えられ、対独戦で混乱するソ連で父親を捜し求める。

そして映画は、1943年5月、スターリンに呼び出されて、処刑されたはずのコトフの行方を探れと命じられたKGB幹部のアーセンティエフ大佐(オレグ・メンシコフ)が、1941年にさかのぼってコトフの足跡をたどっていくかたちで展開する。本編のみで2時間半の超大作でした。

しかし実際に見終わってみると……

コトフのストーリーと、ナージャのストーリーは映画のなかではまったく交差しません。娘は父コトフを探そうとしますが、父が娘(娘も、ほんとうなら「人民の敵」として処刑されたはずだった)の消息を探していたことは、アーセンティエフの探索のなかで語られるだけで、コトフ自身が娘を探す場面が描かれている訳ではありません。

そして、アーセンティエフによる探索のシーンがところどろこに挟まるたびに時間が前後する(コトフとナージャの話は1941年、アーセンティエフの話は1943年)ために、話が分かりにくく、ちょっと混乱します。しかも、設定上は、アーセンティエフがナージャのいる少年少女団(ピオネール)を訪れたのは1941年ということになっているのですが、映画の展開を見ていると、アーセンティエフが1943年にスターリンからコトフ探査を命じられたあと、ナージャを訪ねていったように受け取れるので、時間軸がさらに混乱します。

さらに、この作品はミハルコフ監督の16年前の作品「太陽に灼かれて」の設定を受け継いでいますが、そのときナージャは6歳だったので、本作では11歳か12歳のはずです。だから、ナージャは10〜15歳を対象としたピオニールにいることになっています。ところが、そのあと看護師となっていて、とくにラストシーンの設定などを考えると、ナージャが18歳とか、最低でも15歳を超えてないと、話が合わなくなってきます。そのため、ナージャの場面も、映画がすすむにつれて年代設定が定かでなくなってきます。

コトフとナージャの足跡をアーセンティエフが探索していくという設定は、前作とのつながりを考えると欠かすことのできない設定ということになるのでしょうが、本作に限って言えば、映画の展開を分かりにくくしているなあ、というのが率直な感想です。収容所を逃げ出したコトフが目撃する、ドイツ軍の侵攻から逃げ出す民衆を襲う惨劇、ナージャが乗り合わせた赤十字船が襲われる話、コトフが配属された懲罰部隊の絶望的な戦いなど、描かれている場面、場面からは、スターリン支配下におかれたこの国の困難と対独戦の厳しい現実が迫ってくるのですが…。

なんにせよ、父娘が感動的に再会を遂げるわけでもないし、対独戦に勝機が訪れるわけでもない。その意味で、どこにも「救い」のない物語です。

ところで配給会社は、「父と娘の絆」とか「戦争の悲惨さと不条理」を描いた作品として宣伝をしていますが、実際にみてみるとこの映画のテーマはそんなことではなく、なぜ対独戦でソビエト国民はあんなに苦戦させられることになったのか、スターリンが「偉大な指導者」だったのなら、なぜあんなに大敗したのか、それとも、スターリンが指導者だったからこそ、あんな理不尽な戦いを余儀なくされたのではないか、という「疑問」です。

それは、パンフレットの解説で飯島一孝氏が書かれているとおり、「スターリンがドイツと結んだ独ソ不可侵条約を信用し、ドイツの先制攻撃を警告する情報を無視した」からであって、そのことはすでに歴史研究で明らかにされていることなのですが、「偉大な祖国大防衛戦争」神話がいまなお生きているロシアでは、それ自体が大きな問題として残っている、ということなのでしょうか。

映画のそこここでは、ロシア正教の根強さも示唆されます。そういうふうに考えると、ある意味、現代版の『戦争と平和』と言えるかも知れませんが、いずれにしても、ロシア文学のように、分かりにくい作品になっていることは間違いありません。

私たちの目から見れば、スターリンは、国内における大粛正、国民弾圧だけでなく、独ソ不可侵条約とともに秘密協定を結んで、ポーランドやバルト三国など東ヨーロッパをヒトラーと勢力圏分割したことによって、社会主義の道から決定的に転落してしまったといえるのですが、この映画では――ストーリーが独ソ戦開始から始まっていることが示しているように――そうした問題は完全に欠落しています。映画が1941年6月22日からはじまっていることが、それをはっきりと示しています。国内的には、スターリンによる弾圧・粛正体制を批判するものとはなっていても、対外的には、ロシア的大国主義はまったく問題にされていません。

あと、蛇足ですが、音楽が恐ろしい場面は恐ろしく、不気味な場面は不気味に、非常に分かりやすいというか、ある意味単純すぎて、少々笑えてきました。(^_^;)

映画 戦火のナージャ オフィシャルサイト

【映画情報】
監督・共同脚本・製作:ニキータ・ミハルコフ/音楽:エドアルド・アルテミエフ/出演:ニキータ・ミハルコフ、オレグ・メンシコフ、ナージャ・ミハルコフ/ロシア 2010年

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