注目される「日経」の論調

「いまさら、何を言う」という感じもしなくはないが、「日本経済新聞」におもしろい記事が載っていたので、貼り付けておこう。

1つは「大機小機」(5月24日付)。「東電問題を考える視点」と題して、金融機関に東電向け債権放棄を促す発言が政府首脳からでていることに異を唱えたコラムなのだが、そのなかで、コラム子は、民間電力会社に原子力発電という「国策遂行の役割を担わせた」のだから政府が責任をとるべきだという。つまり、税金を投入して東電を救済し、金融機関が債権放棄などせずにすむようにせよ、というわけだ。なるほど、さすが財界の新聞だけのことはある。

それでも、そのなかで、こんなことを認めざるを得なくなっている。

地震・津波などの自然災害に耐える安全対策、使用済み核燃料や廃炉などの恒久的で安全な処理・処分、不可抗力の大事故が起きた際の損害賠償への備え。こうした費用を織り込めば、原発は安上がりな電源ではなく、民間企業の手に負えるものでもない。

そう、「原発は安上がり」なんていうのは、まったくのデタラメだったのだ。そんなことは、原発建設に反対する人たちは、昔から主張していた。しかし、政府と東京電力と財界が、そんな意見にお構いなしに、そのデタラメを振りまき続けてきたのだ。「日本経済新聞」自身はどうだったのか? そのことを棚に上げて、いまごろ突然、「民間電力会社に国策遂行の役割を担わせた」政府の責任を言いつのってみても、なんの説得力もないではないか。

「原発は安上がり」というのは嘘だった。「日本経済新聞」がそのことを認めたという事実は、それでも記録しておくに値するかも知れない。

もう1つの論調は、編集委員・小平龍四郎氏が書いた「東電、さまよう優良株の残像」(同日)。

オイラは、先週、このブログに「どうして東電を残さなければならないのだろうか」と書いたけれど、「日本経済新聞」がそれと似通ったことを言い出したのではないだろうか。いわく――

「株価2000円、年間配当60円、配当利回り3%」の「預金代わり」の優良株だった東電は、いまや政府の支援「枠組み」に支えられているが、しかしその「枠組み」は閣僚懇談会で了解されただけで、閣議決定すらされていない。「70万人超の株主を持つ上場企業の決算は、こんな薄板一枚の上に組み立てられていた」。

しかし、「問題はこれからだ」。やがて原発事故による賠償総額が明らかになるが、「その結果として負債が膨らみ、資産を上回れば債務超過となり、株式の上場維持も危ぶまれかねない」と。「日本経済新聞」の編集委員ともなれば、言葉遣いも非常に丁寧で、「債務超過」で「株式の上場維持も危ぶまれかねない」というのは、平たく言えば、倒産するかも知れないということだ。東京電力の前期末純資産は1兆6024億円。賠償総額がこれを上回れば、たちまち東京電力は「債務超過で、株式の上場維持が危ぶまれる」のだ。

それでも、編集委員氏は、「そこで問われるのは、公的資金を使ってまで東電株を上場させておくことの意味だ」と問い、「東電株を紙くずにはできない」という「一部政府関係者」にたいして、それは「震災前の東電株の残像」に引きずられているだけではないか、と疑問を呈している。あるいは、3〜5年無配がつづけば、はたして東電株は「プカプカ」浮いてられるのか? とも、疑問を投げかけている。

いまなお事態が進行中で、被害がどこで収まるのか、その目処さえたたない大事故を起こしておいて、いまだに「震災前」の状態に東電をもどそうとする「発想」そのものが、もはや「残像」でしかないのではないか。「日本経済新聞」編集委員の投げかけた問いは大きくて、重い。

【大機小機】東電問題を考える視点

[日本経済新聞 2011/05/24付朝刊]

 原発事故に伴い東京電力が抱える事故処理と損害賠償の巨額費用問題に絡み、金融機関に東電向け債権放棄を促す政府首脳発言が金融・資本市場を揺さぶっている。債権放棄は、国のリスク管理の失敗である問題への適切な対応だろうか。
 リスク管理の前提は、投資から回収までの事業の総費用が把握でき、「大きすぎてつぶせない」ジレンマに陥らないように適正規模を保つことだが、東電はどちらの条件も満たしていない。国のエネルギー政策の中核である原子力発電の安全確保と事故対策を含む総費用の計算を曖昧にし、世界最大級の(名目にせよ)民間電力会社に国策遂行の役割を担わせた、システム設計と運用の問題だ。
 地震・津波などの自然災害に耐える安全対策、使用済み核燃料や廃炉などの恒久的で安全な処理・処分、不可抗力の大事故が起きた際の損害賠償への備え。こうした費用を織り込めば、原発は安上がりな電源ではなく、民間企業の手に負えるものでもない。
 原子力損害賠償制度は事業者に無過失・無限責任を課す一方、政府補償や免責規定も盛る。電力会社の設備投資は政府の景気対策だった時代もある。これらを踏まえれば、一般企業に適用される破綻処理スキームが、安全対策を含め国と一体の公益事業の担い手になじむのか、疑問だ。
 「量が質を決める」のは、自己責任の市場原理に収まらない巨大金融機関の経営破綻への対応に似ている。損失の全体像が見えねば費用負担は論じられないが、電力供給は最優先で続けねばならず、市場の混乱による二次災害を見過ごすわけにもいかない。
 国のエネルギー政策や安全確保のチェック機構を含む電力供給体制の見直しと共に、東電の将来像を早急に示す必要がある。電力供給事業と事故処理・損害賠償問題を切り離すのも一案で、全原発を集約した国営原子力発電公社で事故処理と損害賠償を引き継ぐこともあり得る。株主や債権者に応分の負担を求めるにせよ、当事者でもある政府には劇薬の債務不履行を避ける責任があるのではないか。
 名目民営・実質国営を使い分けてリスク管理を怠り、安い電力料金を享受してきたツケなのだから、事故の後始末は電力料金と税金の国民負担で賄うしかない。発送電分離などの技術論は、官民の役割分担を含む電力供給体制の再設計との関連で検討すべき課題だろう。(渾沌)

【一目均衡】東電、さまよう優良株の残像

[日本経済新聞 2011/05/24付朝刊]

編集委員 小平龍四郎

 東東電力の2011年3月期の連結財務諸表には、注記として「継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる」と書かれている。「不確実性」の中心にあるものは、原子力発電所の事故に関する損害賠償の支払いに関して、政府が東電を支援するために用意する「枠組み」だ。
 「枠組み」は13日午前の閣僚懇談会で了承された。内閣法4条が内閣の職権のよりどころと定める閣議で決まったわけではなく、関連法案め国会への提出時期もはっきりしない。70万人超の株主を持つ上場企業の決算は、こんな薄板一枚の上に組み立てられていた。
 賠償に要するとされる数兆円の金額は、東電ヘの政府支援を議論するために仮に置かれた数字だ。前期末の純資産1兆6024億円と単純に比べて、実質的に債務超過だと決めつけるわけにもいかない。
 けれど、決算前に政府支援が打ち出されない限り、監査人は東電が債務超過に陥ることなく事業を続けられると、判断するわけにもいかなかった。不確実な要素を含みながらも「枠組み」が了承されだことは、東電の前期の財務諸表が監査不能になる事態を防ぐ意味合いが強かった。
   □  ■  □
 問題はこれからだ。
 政府は賠償のガイドラインづくりを進めている。それに照らして賠償総額を合理的に見積もることが、やがて可能になる。いつまでも「金額が想定できない」では通らない。
 「遅くとも12年3月期末の貸借対照表には、負債の一部として見積もりの賠償額が認識される」と考える会計関係者は多い。その結果として負債が膨らみ、資産を上回れば債務超過となり、株式の上場維持も危ぶまれかねない
 閣僚懇で了承された「枠組み」は、賠償支援のために新設される機構が「必要があれば何度でも援助し」、「原子力事業者を債務超過にさせない」とした。
 実際の法律に了承事項がすべて反映されるなら、政府が新機構を通じて資本を注入し、東電の債務超過は回避できる。そこで問われるのは、公的資金を使ってまで東電株を上場させておくことの意味だ
 東日本大震災の直前まで、大まかに言うと東電は「株価2000円、年間配当60円、配当利回り3%」の優良株だった。「預金代わりの東電株を上場廃止で紙くずにできない」という一部政府関係者の弁は、震災前の東電株の残像にまだ引きずられている。
   □  ■  □
 東京大学の三輪芳朗教授は1992年8月の本紙インタビュー「ご異見拝聴」で、東電は現金配当に意味がある「社債的株式」と名づけた。それが他の株式と同じく成長への期待で値上がりする様子は、「錨(いかり)がなくてプカプカ浮いている」当時の日本の株価形成の象微とされた。
 多くのアナリストは東電について、今後3〜5年は無配が続くとみる。もはや預金でも社債でもない東電株は、それでもプカプカ浮遊していられるのか。

「日本経済新聞」が財界・大企業の利益にたっていることは、だれも異存がないだろう。しかし、原発事故をまえにして、その財界・大企業優先の魂は2つに割れて泣き叫んでいる。一方で、原子力発電に依存したエネルギー政策は引き続き促進したい。しかし、他方で、これまでの原発政策があまりにずさんで、無責任な体制ですすめられてきたことが、国民の目の前で明らかになってしまい、このままでは原発は不可能になってしまう。

そこで、身を引き裂かれそうになった「日本経済新聞」は、「原発は安上がりな電力というのはデタラメだった」「東京電力を上場させ続けることに、どんな意味があるのか」と叫ばないわけにはいかないのだ。ただし、自分がその原発政策を推進してきたことだけは隠しながら。

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