「津波が原因」ではすまされない

IAEAの報告書が、福島第一原発の事故の原因を「巨大地震に伴う津波」だったとしたからといって、すべてを「想定外」の津波のせいにして片付けてもらっては困る。巨大津波が想定外でなかったこと、津波に対する備えがまったくなかったことなどの責任はもちろんだが、M9を超える地震そのものによる被害はどうだったのか。とりあえず制御棒が入って緊急停止したのは確かだが、だからといって地震だけならなんの問題もなかったと片づけることはできない。激しい地震動による施設の損傷はなかったのか、それが致命的なものでなかったのかどうか、厳密な検証が必要だ。

その点で気になるのが、今朝の「東京新聞」が報じた「こちら特報部」の「『津波で暴走』怪しく」の記事。1号機では津波がくる前に、冷却水の配管からの「漏洩」が起きていたし、2号機では注水系統の異常を知らせる警報が鳴っていた。震災翌日になっての3号機の急激な圧力低下も問題だという。

IAEAの報告書を「錦の御旗」にして、なんでもかんでも「想定外の津波」のせいにすることは許されない。

【こちら特報部】

「津波で暴走」怪しく、「揺れが原因」次々――福島第一原発事故

[東京新聞 2011年6月1日付]

 ドイツでは2022年までの「脱原発」実現で与野党が合意した。方向転換を促したのは「フクシマ」
だ。その福島第一原発事故では、津波による電源喪失が原発暴走の要因とされてきた。しかし、津波以前に地震による損傷が原因では、との指摘が相次いでいる。そうだとすれば、耐震基準の不備が問題だ。全国で稼働中の原発も、津波対策の強化だけでは安全性は確保できない。(鈴木伸幸、秦淳哉)

 福島第一原発の事故深刻化の原因として、東京電力が金科玉条のごとく唱える「想定外の大津波」。しかし、津波に襲われる50分ほど前の地震によって、原子炉が深刻な損傷を受けていたことを示唆する事実が次々と明らかになっている。
 東電が先月、公開した震災当日の運転日誌や中央制御室のホワイトボードの写し。そこからは、1号機で原子炉や使用済み核燃料プールに屋外から冷却水を送る配管に「漏えい」があったことが確認されている。
 2号機では、非常時に原子炉を冷やす注水系統の異常を知らせる警報が鳴っている。冷却水の漏れとみられている。1、2号機のいずれの問題も地震直後。津波に襲われる前に発生していた。
 3号機では震災翌日に圧力容器内の圧力が急激に低下した。通常なら、ここまでの急低下は考えにくく、早い段階からの損傷の可能性がある。
 圧力容器の元設計技術者で科学ライターの田中三彦氏は、公開データを基に「1号機では(津波前の)地震動で配管が破損、そこから高温高圧の冷却材、つまりは水か水蒸気が大量かつ継続的に噴出する『冷却材喪失事故』が起きたことが推測される」と説明する。
 公開資料によると、地震からほぼ12時間後に、圧力容器内の圧力は約8気圧。通常時の70気圧から急減した。一方、圧力容器を包む格納容器内の圧力は通常、大気圧(1気圧)より、ほんの少し低い設定だが、地震から半日後に約8.4気圧にまで上昇した。
 格納容器は、圧力容器の配管が破損し、そこから放射性物質を含む冷却材が外部に漏れないようにする”防御壁”。圧力容器内の圧力低下と格納容器内の圧力上昇について、田中氏は「圧力容器の配管が破損して冷却材が喪失したとするのが論理的だ」と解説した。
 先月23日の参院行政監視委員会に参考人として呼ばれた神戸大学の石橋克彦名誉教授(地震学)は「東西方向に耐震設計基準を超える揺れがあった。振動の時間が3分ぐらいと長く、長時間の繰り返し荷重で(原子炉が)損傷を起こしたことは十分考えられる」と発言。田中氏の推測について「地震学的にも十分ありえる」と話した。
 それでも、東電は「津波前には事故の発生はない」と言い続ける。前出の田中氏は「飛行機事故のケースなら、ボイスレコーダー(操縦士の行為)とエンジンレコーダーを照らし合わせて、どこに問題があったかを精査する。だが、今回の事故では運転者と実測データの突き合わせすら、やっていない」と、問題意識の薄さを批判した。

認めたくない? 地震損傷 耐震指針が問題に

 津波ではなく、地震によって原発内部が損傷して暴走に至った可能性が高いという指摘は、データが公開される以前の震災直後からあった。
 「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」は3月23日に、福島第一原発についての見解を文書で公表。この中で「各号機の原子炉や配管が地震の影響ですでに破損していた可能性がある」と明示した。
 同会代表を務める井野博満・東大名誉教授(金属材料学)は「当初、東電は原子炉を冷やす水の循環のため、電源回復を最優先としていた。しかし、水の配管が破れていたなら、最初から水が循環できない可能性があった。東電は否定しているが、少なくともその危険性は考慮されていたはずだ」と推測する。
 とりわけ、同会が早い時期から地震による損傷を疑った根拠は、2号機の圧力抑制室付近の爆発だ。圧力抑制室にたまった水素が損傷箇所から漏れ、外部の空気に触れて爆発したと考えるのが自然だという。
 さらに田中氏と同様、1号機から3号機まで格納容器の圧力が異常上昇した点も、地震による損壊を疑わせるという。特に1号機の場合、格納容器内に大量に発生した蒸気を圧力抑制室に導く仕組みが破損していた可能性が濃厚だという。
 井野氏は「断定はできないが、いずれも配管などが損傷したと考えるのが最も自然で、説得力を持つ。原子力安全・保安院も東電も、そのことを最初から考えない方がおかしい」と批判する。

識者「防潮堤より順次廃炉を」

 ところで、福島第一原発の原子炉が地震で破損したとすれば、現在の耐震設計審査指針自体が問題となる。逆に言えば、そのことを恐れて地震による損傷を認めないのではないか、という疑問がわき上がってくる。
 現在の耐震設計審査指針は2006年に改定された。これは1995年に発生した阪神大震災、2000年に活断層の存在が知られていなかった鳥取県西部でM7.3の地震が発生したことなどを受け、最新の基準に向上させたとされる。
 この改定指針に伴い、東電は福島第一原発について、08年に原子炉建屋や主要設備の耐震安全性が確保されたという中間報告を保安院に提出していた。
 しかし、原子力安全委員会の専門委員を務めた武田邦彦中部大教授(資源材料工学)は「改定指針には『残余のリスク』として、地震で施設に重大な損傷が起これば、大量の放射性物質が放散されるとも記されていた。結局、この指針も保安院と電力会社の責任逃れのためにあるようなものだった」と告発する。
 改定当時、安全委員会での審議にかかわった武田教授は「議論はなかった。質問もするなといった雰囲気だった。今回、震度4の余震で、青森県東通村の東北電力東通原発が電源喪失した。福島の原子炉が地震で損傷したとしても驚くに値しない」と皮肉った。
 井野氏は「(指針の改定によっても)国は『不適格な原発』を出すつもりは毛頭なかったのだろう。今回も東電は地震による損傷を認めず、津披だけを原因としている。地震が原因なら、全国の原発に影響が波及してしまう。それを恐れているのでは」と語りつつ、事故防止が最優先されねばならないと強調した。
 「危険性の高い原発や老朽化が進む原発から順次、廃炉にすべきだ。津波を防ぐ防潮堤を造るよりも、その方がよほど安上がりなはずだ」

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