読み終わりました 石塚裕道『明治維新と横浜居留地』

石塚裕道『明治維新と横浜居留地』(吉川弘文館)

石塚裕道『明治維新と横浜居留地』

もういまではすっかり忘れられていますが、幕末・明治維新の12年間(1863〜75年)にわたって、イギリス軍、フランス軍が駐屯していました。本書は、その英仏駐留軍を中心にして、欧米列強による幕末日本の「植民地化の危機」や、当時の日本をめぐる英仏独露などの国際関係をヨーロッパの国際関係(クリミア戦争、普仏戦争、等々)とのかかわりを考察しています。

といっても、難しい理論問題としてではなく、当時の資料に即して具体的に検討されているので、へえ、ほ〜と思いながら読み進むと、日本の幕末・維新変革が、欧米列強の駆け引きやら緊迫した国際情勢のなかで展開していたことがよく分かります。

この時期は、生麦事件(1862年)に代表されるような「攘夷」激派による事件が続発していて、これにたいして、居留地の自国民の生命と財産を守るためとして駐留が始まりました。しかし、1863年に「奉勅攘夷」を主張する長州藩が異国船を砲撃すると、翌64年の英仏など四カ国軍隊による下関砲撃に、横浜の英仏軍が参加しています。

また、横浜は条約にもとづいて設置された居留地ですが、1861年には対馬事件が起こり、ロシアが同地に「哨所」を設けようとしたり、函館ではドイツ人ガルトネルが「蝦夷島総裁」榎本武揚と取り引きをして租借による300万坪の大農園をつくろうとしたり、フランスが横須賀に「製鉄所」(造船所)をつくろうとしたり。こうした事態が、正式な条約もないまま、現地の対応ですすんでいました。

さらに、戊辰戦争にさいしては、官軍、奥羽列藩同盟軍へ武器を売り込もうと、各国の「死の商人」が暗躍しました。

本書では、そんなこんなの動きを、当時のヨーロッパの国際関係とのかかわりで取り上げているのが特徴。下関戦争については「日本近海で、また“クリミア戦争”か」の見出しが、戊辰戦争については「日本の“南北戦争”」の見出しがそれぞれつけられているのが注目されます。そう言われてみると、対馬事件にみられるロシアの南下の動きと、海峡通過の確保をねらうイギリスの動きは、たしかにクリミア戦争と共通するし、東アジアにおける英露の対立は、明治維新後も、日英同盟、日露戦争へとつながってゆく問題です。戊辰戦争とアメリカの南北戦争とでは、もちろん戦争の性格は全然違っていますが、欧米列強の工業化とともに新しく登場した武器が持ち込まれて、それが戦争の勝敗に大きな意味を持ったという点では、確かに共通する部分があって、時代背景というか、戊辰戦争について最近「兵器革命」云々が議論される理由もよく分かると思いました。

さらに、横浜に駐留していた英仏軍の一部が、実は、インドの傭兵軍(ベルチーズ連隊)や、アルジェリアで編成された植民地軍だった事実も明らかにされていて、文字どおり、英仏の世界的な覇権争いのなかで、日本が開国・明治維新を迎えていたのだということがよく分かります。

各章ごとにコラムもつけられていて、ほんとに「へえ、ほ〜」のうちに、開国したばかりで攘夷・倒幕をめぐって右往左往する日本が、否応なしにヨーロッパを中心とする国際政治に巻き込まれていく様子がよく分かります。

最後、著者は、こうした列強の動きを「皇国の恥辱」としてとらえている間は、「日本の“独立”つまり国家主権が侵害された、という喪失感として必ずしも十分に認識されていたとはいえ」ないと指摘、それが、岩倉遣外使節団の欧米巡視の経験を含めて、国家主権の「喪失感」へ「旋回・拡大」していくと述べています。大事な視点だと思いますが、それが、その後の大日本帝国の「脱亜入欧」路線につながっていくのかというところにかんしては、本書の域を超えるとはいえ、ぜひとも詳しい見解を知りたいところです。

本書は、横浜対外関係史研究会・横浜開港資料館編『横浜英仏駐留軍と外国人居留地』(東京堂出版、1999年)のうち、著者の執筆分を改訂・加筆した増補版。したがって、専門研究者にとってはすでに以前から論じられていた論点も含まれていると思いますが、そうした研究史的な部分は注などで押さえながら、当時の「植民地化の危機」という問題が分かりやすく論じられていて、一般の読者にも面白く、横浜の「意外」な歴史を知ることができると思います。

【書誌情報】
著者:石塚裕道(いしづか・ひろみち、東京都立大学名誉教授)/書名:明治維新と横浜居留地 英仏駐屯軍をめぐる国際関係/出版社:吉川弘文館/発行:2011年3月/定価:本体2,700円+税/ISBN978-4-642-08051-4

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