森浩一先生、83歳でもまだまだお元気

2011年9月15日 (木) at 23:34:43 Posted in 歴史学

森浩一『天皇陵古墳への招待』(筑摩書房)

森浩一『天皇陵古墳への招待』

考古学の森浩一氏の新著『天皇陵古墳への招待』(筑摩選書)。

天皇陵古墳というのは、宮内庁が天皇陵(あるいは陵墓参考地)だとしている古墳のことです。僕が小学生のころ、初めて古墳のことを習ったころは「仁徳天皇陵」「応神天皇陵」だったけれども、大学で日本史を勉強し始めたころには「大山古墳」「誉田山古墳」になっていました。この名前の変更を提唱したのが森浩一氏だったのです。

なぜ、「仁徳陵」ではなくて「大山古墳」なのか? そこに「天皇陵古墳」にたいする考古学者としての森氏の学問的こだわりがあるのです。

そもそも、「○○天皇陵」とされていても、被葬者がほんとうに○○天皇なのか? という問題があります。「陵墓参考地」なるものが存在しているということ自体、被葬者の比定が100%確実ではないことを示しています。しかし、宮内庁は「天皇陵古墳」の発掘を認めていないため、発掘調査によって被葬者を調べる方法がありません。「天皇陵古墳」のなかには、古墳の形式などから、明らかに年代が違うと考えられるものもあります。にもかかわらず、それを宮内庁の言うままに「○○陵」と呼んだのでは学問とはいえない。これが一番の理由。

さらに、一般の古墳が古墳所在地の地名によって命名されているのに、「天皇陵古墳」だけ特別扱いするのはおかしいという理由もあります。かりに被葬者が正しかったとしても、「天皇陵古墳」だけ特別扱いする必要はなく、他の古墳と同じように古墳所在地の地名にしたがって命名すべきだ。これが森氏が「大山古墳」「誉田山古墳」などの名称を提唱した理由です。

いまとなってはごくごく当たり前の指摘ですが、「仁徳陵」「応神陵」と普通に呼ばれていた時代に、「大山古墳」「誉田山古墳」という名称を考えて使い続け、とうとう歴史教科書などでも一般に使用されるところまで普及させたのはお見事というほかありません。

で、その「仁徳陵」なのですが、この「仁徳陵」の被葬者も仁徳ではないというのです。しかも、公式には発掘調査はおこなえない天皇陵であるにもかかわらず、実は、この大山古墳の石室が1872年に発掘されという事件?があって、そのとき発見された遺物から考えられる古墳の年代は6世紀前半だということも紹介されています。

また、森氏がこの本で強調されているのは、「天皇陵古墳」の「現形」は「原形」ではないということ。たとえば、「仁徳陵」には3重の壕がありますが、いちばん外側の3重目の壕は、明治32〜35年に「新築」されたものです(森氏は、濠の「新築」を伝える当時の新聞記事を紹介されています)。幕末におこなわれた「文久の修陵」のさいの「成功図」(完成図)でも壕は2重になっています。

森氏は、このような「疑問」をあげて、ようは、天皇陵古墳についても、一般の古墳と同じように学問的な調査・研究が必要だ、というごく当たり前のことを主張されているのです。

もう1つ、この本でおもしろかったのは、「遺物偏重主義」にたいする批判。森氏は、「出土遺物の配置など出土状況を重視する遺跡学」にたいして、「出土状況を無(軽)視してしまい、朱や銅鏡があったとすることだけで遺骸の埋葬を推定してしまう」やり方を「出土状況には頓着することなく遺物から憶測を導いてしまう遺物学」として厳しく批判されています。その「遺物学」の代表として、小林行雄氏(先日紹介した都出比呂志氏は、小林行雄氏のもとで考古学を学びたいと思って京都大学に進学したと書かれていました)の名前があげられていて、この点の批判は徹底しているようです。

小林氏の所説が「憶測」だとは思いませんが、しかし、前方後円墳の広がりをただちに政治的な支配関係の拡大とする議論には、僕自身、ちょっとついていけないところもあって、森氏のこの大胆な批判は納得させるものがあります。

森浩一氏も、御年83歳。10年ほど前に腎不全を患い、透析が欠かせないとのこと。しかし、本書を読むと、まだまだお元気。(^_^;)

「天皇陵古墳」にこだわりつづける森氏の考古学者「魂」を強く感じました。

【書誌情報】
著者:森 浩一(もり・こういち、同志社大学名誉教授)/署名:天皇陵古墳への招待/出版社:筑摩書房(筑摩選書23)/発行:2011年8月/ISBN978-4-480-01525-9/定価:本体1,600円+税

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