置塩信雄先生の『資本制経済の基礎理論』増訂版(1978年)を読み終えました。こんな学術書をさして「面白かった」などというと奇妙かも知れませんが、マルクス経済学というのがこういうリアリティを持っているのかと、ぐいぐい引き込まれます。
- 「純粋再生産可能条件」というのを考えるときに、各部門の連関の仕方が「単線的」か、「回帰的投入経路」を持っているかでどう違ってくるか。
- 剰余条件を考える際の「基礎部門」(労働力の再生産のために消費しなくてはならない消費財を生産する部門、および、これらの部門に到着する投入経路を持つ部門)と「非基礎部門」の区別。
- 平均利潤率の問題。平均利潤率の決定にはすべての生産部門が参加する訳ではなく、基礎部門で全部門の平均利潤率が決定される。自己再帰経路を持つ部門は平均利潤率の決定には参加しないが、この再帰グループの最高平均利潤率が小になって、基礎部門での平均利潤率以下になると、全部門の平均利潤率は存在しなくなる。
- 実質賃金率の変化にともなって生じる生産方法の「代替的」変化と「革新的」変化。そのときに、実質賃金率と利潤率はどうなるか。
- 貨幣賃金率の変化と実質賃金率の変化との違い。たとえば、資本家が蓄積をすすめるとき、労働力供給が逼迫している場合、貨幣賃金率が上昇するけれども、同時に、第2部門から第1部門に資本と労働力が移動するため、第2部門の生産が縮小し、労働者の再生産に必要な生活諸手段の供給が不足し価格が上昇する。その結果、実質賃金率は低下する(マルクスの想定とは違う)。
利潤率の傾向的低下の法則が成り立たないという置塩氏の議論は、なるほどこういう議論のうえに展開されていたのかと、いまさらながら感心します。