『<帝国>を考える』(的場昭弘編、双風舎刊)という本を、たまたま本屋で見つけてぱらぱらめくっていたら、日本近代経済史の中村政則氏がこういうことを書いているのを見つけました。
……多分、冷戦崩壊後の1990年代になってからだと思いますが、わたしは古典的帝国主義の理論では、もはや世界は解けないと強く感じるようになりました。すなわち、独占資本主義=帝国主義だとすると、独占資本主義の国は他国・他民族を絶えず侵略し、植民地化していなければならないことになる。しかし、第二次大戦後の世界をみると、そうはなっていない。イギリス、フランス、ドイツ、そして日本など独占資本主義国を見ても、のべつまくなしに対外的軍事侵略、つまり帝国主義戦争をおこなっているわけではありません。やはり独占資本主義=帝国主義的侵略必然論は間違いではないかと考えるようになったのです。この隘路を突破するためには、帝国主義とは体制(構造〉ではなく、むしろ政策と考えたほうがいいのではないか。政策なら変えられます。……第二次大戦後は、アジア、アフリカ諸国が民族的独立を達成し、どんな強国といえども、他民族を侵略し、植民地化することはできなくなりました。いわば「植民地ぬきの帝国主義」が一般的となったのです。
このように帝国主義を体制ではなく、政策として捉えるならば経済的要因もさることながら、<帝国主義>をささえる軍事戦略思想、軍事技術・兵器体系、帝国意識の研究が決定的に重要になってきます。(「プチ<帝国>としての日本」、157?158ページ)
中村氏は、独占資本主義=帝国主義という見方には疑問を呈していますが、だからといって、帝国主義的な侵略、世界戦略にとって、経済的要因が意味を持たないと主張しているわけではありません。経済的要因だけで見るのではなくて、軍事戦略思想や軍事技術、兵器体系、帝国意識などを視野に入れて、総合的に判断しようと言われているのだと思います。
同書は、神奈川大学2003年度秋期公開講座の記録で、中村氏の論文は2003年10月23日の講義がもとになっています。