今朝の「毎日新聞」で、東大の船曳建夫氏が、憲法9条をめぐる改憲論議について、注目すべき発言をされています。すなわち、9条改憲の理由としてよく、“9条は現実と合わない。だから現実に合うように改正すべきだ”という議論が持ち出されますが、これにたいして船曳氏は、次のように反論されています。
例えば憲法9条が国際紛争を解決する手段としての武力行使を放棄している以上、自衛隊のインド洋やイラクへの派遣は無理があります。だからといって憲法を現実に合わせるべきでしょうか。憲法はその国が目指すべき姿を表す原則だと考えます。現実というものは、原則に反せざるをえない側面がある。逆に原則を現実に合わせたら、どうしようもなくなる。
例えば、男女の平等が現実には完全でないとしても、不平等を認めるように原則を直すことはしない。いかに平等を実現するかを考えなければならない。差別の問題や生存権など現実と憲法が一致していないことは9条以外にもあるが、未来志向の正しい原則は直す必要はない。
これは、非常に分かりやすい反論だと思います。現実との乖離があるからと言って、原則を現実に合わせていたのでは、原則の意味がありません。
船曳氏は、自分は「改憲的護憲論だ」と言われているとおり、たぶん自衛隊をふくめて「国際貢献のために何ができるか」ということを考えておられるのだと思います。また、9条があるからということで「軍事力を現実のものとしてコントロールする力が政治家にも国民にも弱まっている」とも指摘されています。
しかし、だからこそ「戦争の認識の浅い政治家に戦争をやりやすくさせるのは日本の国益に反します」ときっぱり。憲法9条という「理想」があるからこそ、そのもとでどうやって国際社会に働きかけるかという議論ができるのであって、その枠組みそのものを取っ払ってしまうのには反対だということなのでしょう。そういう意味で、政府のなし崩しの自衛隊海外派兵のやり方に反対するとともに、そういう政府の動きをのりこえていくような新しい議論の発展を期待されているのだと読みました。