この本を書いた藤家寛子さんは、アスペルガー症候群の25歳の女性。「自閉スペクトラムで知的障害が伴わなず、言語能力の高い『アスペルガー症候群』」だと、カウンセリングの先生の診断を紹介されています。
最近、このアスペルガー症候群という病気をよく耳にしますが、自閉症とどう違うのか、必ずしもよく分かりません。「自閉スペクトラム」という言い方もされるように、外に現われる症状でいえば相当の広がりがあって、だから「こういう症状が…」という外形的なとらえ方だとますます分からなくなるのかも知れません。
藤家寛子さんは、2年前に乖離性人格障害を克服、アスペルガー症候群と診断されました。この本はその彼女が、子どもの頃からの自分の「ものの考え方」や「感じ方」を、自分の言葉で書き下ろしたものです。「大きな音が怖い」「歩くときも、次は右足、次は左足と考えないと歩けない」「言葉に表と裏の意味があることが分からない」「思ったことを思ったとおりに言ってしまう(その場や相手に合わせた“言い方”ができない)」「痛い、嬉しい、などの感情が分からない。相手の感情も読み取れない」「どっちつかずの状態に疲れる」「予測できないことが起こると混乱する」、それに同一性への執着、感覚過敏など。アスペルガー症候群であるがゆえの、著者の悩み、混乱が丁寧に書かれています。著者は、「おしゃべりをするような感覚で」書いたと書かれていますが、それは相当につらい体験だったにちがいありません。
しかし、藤家寛子さんは、決して、障害を持った「可哀想な女性」ではありません。文章を読むと相当に頭も良さそうだし、しっかりした自分の価値観、自分の意見を持っているし、相手にたいする思いやりもあるし、生きる目的を探して、がんばったり、泣いたり、新しい発見をしたり、成長しつつある一人の女性だと思います。だから、この本は、「アスペルガーって何?」と思っている人はもちろん、25歳の一人の女性が自分の生き方をふり返った本としても、きっと共感しながら読んでもらえるに違いないと思いました。
■藤家寛子『他の誰かになりたかった――多重人格からめざめた自閉の少女の手記』(花風社、2004年4月刊、本体1600円)