沖縄国際大学米軍ヘリ墜落事件で米軍が日本側の捜査を完全に排除した問題について、「沖縄タイムス」は、実はそういう場合に日米間でどう対応するか、すでに1982年に取り決められた「緊急措置要領」が存在していること、そして今回の米軍の行動がこの協定に違反していることを明らかにしています。
政府・外務省は、地位協定の運用改善を申し入れるとしていますが、すでにその運用にかんする協定があったのだから、その協定にしたがって厳重な申し入れを行なわなければなりません。でないと、今回、いくら「運用改善」を言ってみても、また無視されるだけです。
現場封鎖は合意違反/本紙入手の「緊急措置要領」 ヘリ墜落対応/82年米軍含め制定(沖縄タイムス)
<2004年9月11日 朝刊 1・3面>
現場封鎖は合意違反/本紙入手の「緊急措置要領」 ヘリ墜落対応/82年米軍含め制定
米軍ヘリ沖国大墜落事故で米軍が現場を封鎖した対応などが、米軍を含めた関係機関の役割分担の合意に反することが十日、沖縄タイムス社が入手した「米軍および自衛隊の航空機事故にかかる緊急措置要領」で分かった。一九八二年に制定された要領は、現場保存を県警の役割と明記している。詳細な通報体制も定められていたが、米軍は従わなかった。日米両政府は今回の事故を受け、役割分担を細かく定めた新たなガイドライン策定の協議に入っているが、既存の合意事項が順守されていなかった実態が明らかになったことで、その実効性を問う声が強まりそうだ。
緊急措置要領は七七年、横浜市で発生した米軍偵察機墜落事故を受けて全国で整備が進められた。県内では米軍を含む六十四機関で構成する「米軍および自衛隊の航空機事故連絡協議会」が八二年に策定した。
事故発生時の任務分担表では「財産保護または警備」「現場保存」「搭乗員や被害者の捜索」などの各項目について、県警と海上保安本部を主務機関として位置付け、他の機関は援助協力すると定めている。
日米地位協定や関係文書は、米側財産である事故機の差し押さえや検証について日本側の権利を放棄しているだけで、民間地での警備や現場保存の役割など警察権全体までは放棄していない。
これらの点について、連絡協議会の事務局を務める那覇防衛施設局は「当局としてコメントすることがらではない」と回答。県警は「警備などは米側と協力して実施した」としている。
外務省では、緊急措置要領は承知しているとした上で、「ガイドライン策定を通じ、問題点があれば改善していく」としている。
また、要領は事故による死亡者や負傷者の住所、氏名、年齢などを米軍が施設局などに緊急通報することを定めているが、施設局は「現時点で通報はなく、氏名などは把握していない」と説明。通報体制が機能していないことが浮き彫りになった。
通報については、要領の策定に先立つ八〇年の防衛施設庁と在日米軍司令部間の「連絡調整体制に関する合意事項」にも取り決めがある。ここでは搭載兵器などについて米軍が緊急に情報提供することになっているが、米軍は施設局の問い合わせに対して事故発生から二十七分後に事実関係を認めただけだった。◇ ◇ ◇
[解説]
既存のルール無視/守られぬ緊急措置要領
米軍、権利を拡大解釈民間地域で米軍機墜落の被害を最小限に抑えるため、米軍を含む関係機関で合意していた緊急措置要領が、ほとんど機能していない実態が明らかになった。日米安保体制を重視するあまり、米側に既存のルールすら守らせられない日本政府の姿勢が問われ、実効性ある新たな改善策策定のためには、既存の枠組みを十分に検証することが不可欠だ。
今回の米軍ヘリ墜落事故で、米軍は現場を封鎖し県警の到着後も継続した。米軍の警察権行使は「軍構成員の規律および秩序の維持のための必要な範囲内」とする日米地位協定一七条を逸脱したものだ。
だが、地位協定の細部を定めた合同議事録で米側財産の検証について日本側が権利を放棄したことが、米側主導の警備や現場保存にまで拡大解釈されている。
防衛施設庁と在日米軍の緊急救助体制合意事項(一九八〇年)では「米軍としては前もってその細部まで決めておくことはできないが、状況に応じ能力の範囲内で緊急活動に参加する」と抽象的に表現されており、今回のような米軍主導の事態は想定されていない。
県基地対策室は「明文化されていないことで米側有利の運用がされている」と問題視、日米地位協定の抜本的な見直しの必要性を訴えている。
今回の墜落事故は、衆人環視の大学構内で発生したため、米軍から那覇防衛施設局への二十七分間の通報の遅れは、救助活動への影響は小さかった。だが、普天間飛行場の所属機の運用は県内のほぼ全域に及ぶ。離島や本島北部などの墜落事故で通報が遅れれば、県民の生命、財産への被害の拡大は予測できないほど大きくなる。
公共の安全に影響を及ぼす可能性のある墜落などの航空機事故については「現地レベルにおいて、迅速に防衛施設局に通報する」とした一九九七年の日米合同委員会合意にも反する。
日米両政府は合同委員会の分科委員会で、米軍機事故が起きた場合に日米が協力し、対応するためのガイドラインを策定する。
アーミテージ米国務副長官は九日、逢沢一郎外務副大臣との会談で、今回の事故を受けて日米の役割分担を定めた指針づくりに前向きな姿勢を示している。これを機に、既存の枠組みを十分に検証する必要がある。(政経部・知念清張)緊急措置要領と連絡体制合意事項
【米軍および自衛隊の航空機事故にかかる緊急措置要領】
米軍および自衛隊の航空機事故連絡協議会会則第四条の規定に基づき緊急措置要領を次のとおり定める。
(趣旨)
第一条 この要領は、米軍または自衛隊の航空機事故および航空機の飛行に伴う事故(以下「航空機事故等」という)が発生した場合の関係機関の緊急通報、被災者の緊急救助、消火活動および現場対策の応急措置について必要な事項を定めるものとする。
(情報収集の協力)
第二条 関係機関は、航空機事故等の発生に際し、迅速かつ的確な情報の収集および伝達を行うため、平素から相互に緊密な連携を保持するものとする。
(連絡責任者等の指定)
第三条 関係機関は、緊急時における相互間の緊密かつ適切な通報および救助活動等の連絡調整を図るため、あらかじめ勤務時間内および勤務時間外の連絡責任者およびその補助者(以下「連絡責任者等」という)を指定しておくものとする。
2 前項の連絡責任者等の指定を行った場合または変更が生じた場合は、速やかに那覇防衛施設局(事業部業務課)に通知するものとし、那覇防衛施設局はその旨を関係機関に通知するものとする。
3 連絡責任者等の職名は別表1「航空機事故連絡責任者職名表」のとおりとする。
(事故発生時の緊急通報)
第四条 連絡責任者等は、航空機事故等を知ったときは、別表2「緊急通報系統図」により他の関係機関の連絡責任者に直ちに通報するものとする。
(緊急通報の内容等)
第五条 緊急通報は次の各号に掲げる事項について判明の都度行うものとする。
(1)事故の種類(墜落、不時着、器物落下等)
(2)事故発生の日時、場所
(3)事故機の種別、乗員数、積載燃料の種類、量および爆発物もしくは危険物積載の有無
(4)事故現場の状況
(5)被害の状況
ア 死亡者および負傷者の住所、氏名、年齢、職業ならびに障害の程度および収容先
イ 住家等被害者の住所、氏名、年齢、職業および被害の程度
(6)その他必要事項
2 緊急通報は、別表3「航空機事故等発生通報記録票」により整理するものとする。
(現場連絡所の設置)
第六条 航空機事故等により被害が発生した場合、事故に関する情報交換および被害者救援に関する連絡等を円滑にするため、那覇防衛施設局、自衛隊、沖縄県および事故発生地の市町村は、当該事故現場付近に現場連絡所を設置するものとする。
2 事故発生地の関係市町村は、現場連絡所の設置に必要な建物等施設の確保または提供に協力するものとする。
(関係機関の任務分担)
第七条 航空機事故等が発生した場合の関係機関の任務分担は、別表4「被害者救急救助等任務分担区分表」のとおりとする。
(人身被害者救護の優先)
第八条 事故現場を管轄する関係機関は、あらゆる措置を講じ、優先して人身被害者の救急および救護に努めるものとする。
(要領の改正)
第九条 この要領の改正は、協議会において行うものとする。
附則 この要領は、昭和五十七年十二月十日から施行する。
【米軍航空機事故に係る連絡調整体制および緊急救助体制に関する在日米軍司令部と防衛施設庁との間の合意事項】
【連絡調整体制に関する合意事項】昭和五十五年五月二十九日
事故分科委員会米側議長と防衛施設庁次長との間で相互情報交換体制につき次のとおり合意する。
関係基地、防衛施設局、警察および消防署の間における基地外米軍機墜落事故に関する緊急情報交換を可能とするため現地米軍は、下記情報を定型的に提供する。
(1)乗員数を含め航空機の種類
(2)事故発生場所
(3)搭載燃料の量の概数(判明している場合)
(4)救難および消火活動を阻害する積載危険物、または兵器類の数量および種類に関する情報
(5)判明次第被害者の数、国籍および状況
(6)所要措置の進行に応じ、救難および復旧活動を効果的にするために必須となるその他の緊急情報
【緊急救助体制に関する合意事項】昭和五十五年六月二日
被害者の緊急救助体制等につき、次のとおり合意する。
(1)基地外における米軍機事故の被害者に対する救出、救急手当て、救急搬送、消防等の緊急活動について、米軍としては、まえもってその細部まで決めておくことはできないが、情況に応じその能力の範囲内でこれら緊急活動に参加する。
(2)自衛隊機および日本の民間機における緊急活動は、日本側の責任事項であるが、米軍としては要請があった場合事故の情況と重大性に応じ人道的立場による緊急活動を行う考えである。また、米軍基地内において発生した場合は、基地外における場合に比べ、より多くの援助が可能である。
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