『人間性の起源と進化』

人間性の起源と進化

こないだから、『人間性の起源と進化』(西田正規、北村光二、山極寿一編、昭和堂、2003年)を読んでいます。類人猿研究の最新の成果をもとに、生物種としての〈ヒト〉がいつ、どんなふうに誕生したかを探求しています。新しい知見も含まれていて、興味深い書物です。

とくに面白いのは、アフリカの類人猿(ゴリラ、チンパンジー、ボノボ)が、いずれも、雌が生まれた群れを抜け出して移動していく社会を構成しているという事実です。ニホンザルなどでは、母―娘を中心とする雌が群れに残り、若い雄が群れを離れて移動する形をとっていますが、類人猿社会は逆になっているのです。雌が、性的に成熟する前に生まれた群れを離れていくことによって、インセストを忌避する。したがって、群れは、基本的に父―息子を軸に継承される。つまり、父系になっているというのです。

エンゲルス『家族・私有財産・国家の起源』では、群婚(乱婚)→対偶婚→単婚という婚姻関係の発展と、インセスト・タブーの成立=母系社会→父系氏族への転換=「女性の世界史的敗北」という考えが提示されていましたが、そもそも人類に進化する以前の段階で、雌の移動による単雄複雌社会(ゴリラ)、あるいは複雄複雌社会(チンパンジー)が成立していたとしたら、人類社会がどんなふうに成立したか、まったく違った図式を考えないといけません。

もう1つ面白いのは、そういう類人猿社会において、群れを構成するうえで一番問題になるのは、雄同士の敵対・競争関係による衝突・紛争というものをどう抑止するかだということが論じられていることです。ニホンザルの場合、一番強い雄がボスザルで、以下、雄の序列があって、それによって群れが構成されているとよく言われますが、本当にボスザルという特別な地位があるのかどうか、近年では疑問も出されています。いずれにせよ、群れを大きくしていくとき、食糧の配分をどうするかという問題と、雌をめぐる雄同士の争いをどう避けるかというのが、一番の問題になります。そして、ニホンザルのような力関係による一元的な序列関係をとらないとすれば、どんな関係がありうるのか。ともかく、雄同士の動物的競争関係を克服するところに、サルからヒトへの人類の進化があるという気がします。

まだ読んでる最中だし、全くの専門外なので、分からないとこだらけですが、類人猿研究と人類学研究を結びつけて考えてみると、まだまだいろんなことが分かりそうな気がします。

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