谷口誠『東アジア共同体』読み終えました

谷口誠『東アジア共同体』(岩波新書)を、今朝の通勤電車のなかで読み終えました。読み始めたときの第一印象は前に書きましたが、読み終えた感想は「予想に違わず」で、中国、アジアとの関係重視、共同に21世紀の日本の発展の方向を展望するという点で、意外に共通点が多いのに驚くとともに、外交活動、それもOECDなど経済活動などに携わってきた人なりの視野の広さと深さがあって、学ぶべきところも多かったと思います。

本書は、7章構成。第1章の東アジアの地域統合の重要性の問題提起と、第2章での、すでにASEANを中心に東アジアの地域統合が動き出していることの解明をふまえて、第3章で、東アジアの地域統合への障害――とくに日本のもたらしている障害について検討しています。そして、第4章、第5章で、経済的な地域統合(「東アジア経済共同体」)のメリットを明らかにし、第6章で、環境、エネルギー、農業(食料)、通貨・金融の4つの問題から地域協力の重要性、緊急性を訴えています(このあたりの視野の広さと奥行きは、とても勉強になりました)。そして第7章は、結論の部分。その最後のところで、著者は、日・中・韓を中心とした地域安全保障構想など非現実的だとする意見に対し、あらためて次のように指摘しています。ちょっと長文ですが、是非紹介しておきたいと思います。

私は、われわれ日本人が、第2次世界大戦後、頼り切ってきた日米安保体制が、未来永劫不変のものであるかどうかを、検証すべき時が来ていると考えている。戦後の日本人の意識の中には、すべてのものの根底に日米安保があり、まるで思考がそこで停止したかのように、すべての政治的・経済的・社会的活動は、日米安保の土台の上に構築されてきたといっても過言ではない。日米同盟・日米安保体制は、日本の生存のため、日本の国益のために、子々孫々にいたるまで維持されるべきだという信仰にも似た考え方は、外務省のみならず、保守派の政治家、経済人、学者、ジャーナリストの間にも多いし、日本人一般に言えることであろう。しかし21世紀の日本を取り巻く国際環境は大きく変化しており、日本が日米安保体制に無批判にしがみついていることが、真の国益につながるのかは疑問である。(221?222ページ)

これまでの安易な対米一辺倒の外交姿勢を改め、対欧州外交をも視野に入れ、より自主的・多角的な外交を展開していかなければならない。これこそが21世紀において、日本がめざすべき進路である。(224ページ)

農業問題については、著者は農産物を含めたFTAを推進すべしという立場です。本当にそれでよいかどうかは、もっと多角的に検討されるべきだと思いますが、しかし、重要なことは、著者の議論は、けっして何でもかんでもともかく自由化すればいい、「構造改革」のために農業は切り捨ててもかまわない、というような無責任な議論とはまったく違うということです。コメについても、関税化を受け入れつつ、同時にミニマム・アクセスも認めるというやり方は「二重の足かせ」になると指摘し、関税化一本に絞るべきだとの立場を主張されています。

より長期的には、OECD『2020年の世界』によりながら、2020年には、中国も食料輸入国になる可能性があり、食料輸出能力をもつのはアメリカとオーストラリアとラテンアメリカに限られると指摘しつつ、日本は、アジアの農業の効率化に協力すべし、中国と日本が食料輸入をめぐって競争するような関係になるのは絶対にさけるべきだと主張されています。

また、日本の農業の「構造改革」についても、(1)日本の国土からいって農業の大規模経営化は無理、日本の国土にあった中小規模での効率の高い農業経営をめざすべきだ、(2)食料自給率の向上は重要だが、それだけを最優先課題にすべきではない、(3)日本農業は付加価値の高い農産品の生産に重点を置いて、農業所得の向上を図るべきであり、コメだけにこだわるべきではない、(4)新しい日本農業の担い手を育成するために、所得補償を含めた財政支援を惜しむべきでない、などの点を提起されています。

農産物をふくむ輸入自由化の立場に立つべきだという立場は、こういうところから主張されているものであり、これらの点は、もっと掘り下げて勉強してみたいと思いました。

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  1. ピンバック: アジア金融道

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