NHK特番介入問題での続報です。
安倍晋三・自民長官次長代理(当時、官房副長官)と中川昭一・経済産業相の介入について、この番組の製作責任者・長井暁チーフプロデューサーの証言が詳しく報道されています。
NHK番組改変問題 「会長了承していた」と告発者会見(朝日新聞)
NHK番組改変問題 「会長了承していた」と告発者会見
NHK番組の放送前に、自民党の有力政治家がNHK幹部と面談し、番組内容がその後、大幅に改変された問題で、内部告発をしていたNHKの幹部職員が13日午前、東京都内のホテルで記者会見した。内部告発者が実名を明かして会見するのはきわめて異例。この幹部は「放送現場への政治介入を許した海老沢勝二会長らの責任は重大。退陣すべきだ」と訴えた。
会見をしたのは、番組制作局教育番組センターのチーフ・プロデューサー長井暁さん(42)。問題の番組は、旧日本軍慰安婦問題の責任者を裁く市民団体開催の民衆法廷を取り上げたもの。01年1月30日に放送され、長井さんは同番組の担当デスクだった。
長井さんによると、番組を企画した下請け会社の視点が主催団体に近かったため、「戦争を裁くことの難しさ」や歴史的な位置づけ、客観性を強調して現場を取りまとめてきたという。事前に右翼団体などから「放送中止」の要請はあったが、放送2日前の夜には通常の編集作業を終え、番組はほぼ完成していた。
長井さんによると、01年1月下旬、中川昭一・現経産相らが当時のNHKの国会担当の担当局長らを呼び、番組の放送中止を求めた。NHKの予算審議前だったこともあり、担当局長は放送前日の午後、NHK放送総局長を伴って再度、中川氏や安倍晋三・現自民党幹事長代理を訪ね、番組について説明。放送総局長は「番組内容を変更するので、放送させてほしい」と述べた。
同日夜、ほぼ完成した番組をNHK局内で局長らが試写。その後、長井さんらに対し、番組内容の変更が指示された。
さらに翌日には、元慰安婦の証言部分など3分間のカットが指示され、通常44分の番組は40分という異例の形で放送されたという。
番組改変の指示について、長井さんは「これまでの現場の議論とはまったく違う内容。現場の意向を無視していた。政治家の圧力を背景にしたものだったことは間違いない」と述べた。
また、長井さんは「海老沢会長はすべて了承していた。信頼すべき上司によると、担当局長が逐一、海老沢会長に報告していた。会長あてに作成された報告書も存在している」と説明した。その上で、「制作現場への政治介入を許した海老沢会長や役員、幹部の責任は重大です」と訴えた。
長井さんは、NHKの「コンプライアンス(法令順守)通報制度」に基づき、昨年12月9日に内部告発した。だが「通報から1カ月以上たった今日にいたっても、聞き取り調査さえなされていない」と話した。
長井さんは87年に入局。ディレクターやデスクとして、NHKスペシャル「朝鮮戦争」「毛沢東とその時代」「街道をゆく」などを手がけてきた。
中川経産相と安倍幹事長代理は「偏った内容だ。公正な番組にするように」などと指摘したことは認めているが、安倍氏は「NHK側を呼びつけた事実はない。番組の中止などは求めていない」としている。
また、NHK広報局は海老沢会長が了承していたとの指摘について「そうした事実はない」とコメントした。
〈NHK広報局の話〉 当時の担当者が様々な国会議員に対して、事業内容などを説明した際に、この番組について話題になったことは事実。しかし、これによって、番組の公正さ・公平さが損なわれたということはない。編集責任者が自主的な判断に基づいて編集して放送した。コンプライアンス推進室は通常の手続きに従って調査をしている。調査の途中経過については通報者に知らせている。
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「私もサラリーマン。家族を路頭に迷わすわけにはいかない。告発するかどうか、この4年間悩んできた。しかし、やはり真実を述べる義務があると決断するに至りました」。そう言って長井さんは涙声になり、言葉を詰まらせ、ハンカチで目をぬぐった。
「告発による不利益はないか」と尋ねられ、「不利益はあるでしょう」と答えてからだった。
現場のスタッフ全員が反対したという、放送直前の3分間の番組カット。その中には中国人元慰安婦の証言も含まれていた。「被害者の声だけは何とか守りたかった。最後まで闘えなかったことを反省している」。そう言って長井さんは、再び目を赤くし、唇をかんだ。
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〈NHKのコンプライアンス(法令順守)通報制度〉 放送法などの法令やNHK倫理・行動憲章などの内部規範に違反または違反しそうな事実があるとき、職員らが通報できるようNHKが04年9月から整備した内部告発制度。一連の不祥事を受けて整備された。通報窓口は外部の法律事務所に置かれている。通報があるとNHKの専門部署がその内容を調査し、必要な場合には不正行為の停止を命じることができる。職員は調査に協力する義務を負い、通報者に不利益な取り扱いは行わないとの規定がある。(asahi.com 01/13 14:27)
NHK特番問題:内容6カ所変更 放送前、当日に挿入など(毎日新聞)
NHK特番問題:内容6カ所変更 放送前、当日に挿入など
旧日本軍の慰安婦問題を扱ったNHKの特集番組が、放送前に同局幹部と安倍晋三・自民党幹事長代理(当時・官房副長官)の接触後に内容が変更された問題で、接触後の番組内容変更は6カ所に上っていた。この番組の制作責任者で内部告発した長井暁(さとる)チーフプロデューサー(42)とは別の同局関係者も「安倍氏との面会後、上から番組内容変更の指示があり混乱した」と証言した。一方、中川昭一経済産業相は13日、NHK幹部との接触は放送の3日後だったとして、番組内容への介入を否定した。【NHK問題取材班】
■総務相にも報告
長井さんによると、番組は01年1月28日夜にほぼ完成し、30日の放送を待つまでになっていた。しかし、NHK幹部が安倍氏と接触後の29日夜、松尾武放送総局長と局長2人が立ち会う異例の試写が行われ、3カ所の変更が指示された。さらに翌30日にも3カ所の変更が追加され、元々は44分の番組が40分に短縮された。
長井さんは「29日に1分間のカットを受け入れたことで、30日には3分間ものカットを押し切られてしまった。29日の改編で番組の企画意図は損なわれ、30日のカットで体はなさなくなった。あの時、徹底的に反対すべきだったと今は思っている」と振り返った。
関係者によると、この番組についてはNHKの幹部が当時の片山虎之助総務相を訪ね、「番組の内容が偏っているので、放送内容を変えた」との趣旨の説明をしたという。
一方、長井さんは会見で、番組が政治の介入を受けた例として、自分がデスクで担当したNHKスペシャル「狂牛病感染はなぜ拡大したのか」(01年9月16日)のケースも挙げた。主に欧州の取材でBSE(牛海綿状脳症、狂牛病)の感染源を肉骨粉と指摘し、日本でも発生の恐れがあることを紹介した。反響も大きく、日曜午前中に再放送の予定が決まっていた。
放映後、自民党の農林水産部会で、まだ原因が特定されていないとして問題視された。長井さんは「局長が再放送をつぶした。政府が対策を考えているので、その内容を入れてから再放送した方がいいという理由だった」と証言した。■進まぬ内部調査
長井さんが安倍氏らによる問題の調査をNHKの内部告発窓口のコンプライアンス(法令順守)推進室に申し立てたのは昨年12月9日。推進室は一連の不祥事を受けて昨年9月に設置され、長井さんは「NHKの自浄能力に期待した」と話す。12月17日に推進室から「調査することになった」と報告があったという。
長井さんによると、推進室が事情聴取の調査対象としたのは、松尾総局長と2局長の3人。しかし、番組で取り上げた民衆法廷の主催団体とNHKなどとの間で訴訟になっていることから、3人とも「裁判中」を理由にヒアリングを拒否したという。内部規定では職員には協力義務が課せられているが、調査は事実上足踏み状態にある。NHKは推進室による調査結果が出ていないにもかかわらず、今回の問題が発覚した今月12日から「自主的な判断で編集した」との見解を示してきた。[毎日新聞 2005年1月14日 3時00分]
中川氏は、「面談は放送後」だと言い始めています。しかし、「朝日」の記事によれば、10日の取材の時点では、放送前日に面会したこと、NHKがあれこれ直すと説明したのに対し「だめだ」と言ったこと、などを認めています。
NHK特番問題:面談は放送後 中川経産相
【パリ福島良典】中川昭一経産相は13日、パリで記者会見し、事務所の面会記録などを調査した結果、政治部記者以外のNHK関係者との面談は「放送後の(01年)2月2日だった」と述べ、政治圧力を指摘した制作責任者の主張を否定した。
その上で「政治圧力」報道について「番組をねじ曲げたとか、(NHK幹部を)呼びつけたとかは事実無根」と主張し、「重大な名誉棄損、大変な誹謗(ひぼう)中傷」と述べた。
番組内容については「(2月2日に)NHKの方が次年度の事業計画の説明に来られた際に『自分は(放送を)見ていないが、あの番組はひどかったのではないか』と自分の意見を申し上げた」と語った。
中川氏は12日には「公正中立の立場で放送すべきであることを指摘したものであり、政治的圧力をかけて中止を強制したものではない」とコメントを出し、指摘が放送の前か後かについては言及していなかった。[毎日新聞 2005年1月14日 1時12分]
中川氏「事前やりとりない」 番組問題
中川昭一経産相は13日、訪問先のパリで記者会見し、NHKの番組改変問題について「東京の事務所の総力を挙げて調べたところ、NHK関係者と番組の話を初めてしたのは放送後だと分かった。だから、内容を変えろとか中止しろとか求めようもない」と述べた。
中川氏によると、放送3日後の01年2月2日、NHK幹部が恒例の予算説明に来た際、人づてに聞いた番組の内容について「公平性を欠くのではないか」とその幹部に伝えた。中川氏自身は放送を見ていなかったが、番組の内容は市民団体の事前宣伝や議員仲間の話から知っていたという。
同氏は、朝日新聞の報道を受けて事務所の面会録を調べたほか、当時の秘書らにも聞いた結果、番組放送前後でNHK関係者と会ったのは2月2日と同8日、それに翌9日の自民党の部会の席だけだと確認できた、としている。また「放送前には、電話を含めNHK関係者と番組についてやりとりした事実は一切ない」と強調した。
中川氏はさらに「事実ではない報道で政治家としての名誉を傷つけられたので、訂正などの対応がない場合は断固たる措置をとる」と語った。○当初は「放送前」認める
この問題で、中川氏は10日、朝日新聞の取材に対し、放送前日に面会した事実を認めたうえで、「NHK側があれこれ直すと説明し、それでもやると言うから『だめだ』と言った」と答え、その後も「(番組でとりあげた)模擬裁判につき、NHK教育テレビで放送するとの情報があった。NHKより番組について説明があった。公正中立の立場で放送すべきであることを指摘した」とするコメントを発表していた。
一方、NHK幹部の一人は朝日新聞の取材に対し、「放送前日にNHK幹部が中川、安倍両氏にそれぞれ面会し、『一方的な報道はするな』などと言われた。圧力と感じた。呼び出しに応じなかったら、本当に番組はつぶされていただろう」と証言している。 (asahi.com 01/14 02:45)
NHKの釈明は、もはや説明の体をなしていません。中川氏との最初の面談は2月2日だというのは、中川氏側との“口裏合わせ”を感じさせます。
NHK特番問題:「政治圧力受け番組変更せず」 NHK(毎日新聞)
NHK特番問題:「政治圧力受け番組変更せず」 NHK
NHKの関根昭義放送総局長は13日夜、「政治的圧力を受けて番組が変更された事実はない」とする見解を発表した。NHKはこの内容を同夜のニュースで放送した。
見解は、NHK幹部が中川氏と面会した時期は「放送(01年1月30日)の3日後の2月2日が最初」とし、安倍氏も含め「呼ばれたものではなく、予算説明に合わせて番組の趣旨や狙いを説明した」としている。長井さんが会見で「報告書を作成し会長にも報告されたはずだ」と発言したことについては、その事実を否定した。
一方、NHK経営広報部は、幹部が片山氏も訪ねたという関係者証言や、NHKスペシャルの再放送が政治介入で中止になったとの長井さんの証言について、いずれも「そういう事実はない」と話している。[毎日新聞 2005年1月13日 21時48分]
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見えないところとなると、たちまち権力を持ったものが暴力を振るいますね。 だれでも、いつでも同じです。
一揆でもやらないことには、この仕組みを打破できないのでしょうか?