自民党改憲試案の骨格明らかに

自民党の新憲法起草委員会が4月下旬に公表する改憲試案の骨格が明らかになりました。

憲法9条は第2項の「戦力不保持」を改廃し、自衛隊の存在を明記するというもの。

また、憲法前文も全面的に書き改めるとしている。「東京新聞」は、憲法前文は「憲法の憲法」であり、「自民党が『日本らしさ』をキーワードに前文の全面書き換えに本格始動したことは、改憲論議のなかで大きな転換点と言える」と指摘。「中曽根試案」の時代錯誤な前文案を紹介しています。

自衛隊の存在明示・自民改憲試案(NIKKEI NET)

自衛隊の存在明示・自民改憲試案

 自民党の新憲法起草委員会(委員長・森喜朗前首相)は27日、4月下旬に公表する憲法改正試案の骨格を固めた。焦点の安全保障では「戦力の不保持」を定めた9条二項を改めて自衛のための組織を保有すると明記、自衛隊の存在を明示する。集団的自衛権の行使は可能との立場に立つものの、条文には明記しない。前文は全面的に書き直し「日本の歴史、伝統、文化」を盛り込む。
 自民党は改憲試案をもとに国民から意見を求めて「改憲草案」をまとめ、結党50年を迎える11月に公表する。衆参両院の憲法調査会は4 月に論点整理の形式で最終報告書を策定するが、自民党は条文の形で改憲案を示す。2006年に改憲案を策定する民主党や、公明党の改憲論議にも弾みがつく見通しで、政界の憲法論議は具体的な条文をめぐる検討の段階に入る。
 改憲試案は国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三原則を維持する。そのうえで全体の構成は現行憲法と大きく変えずに各章ごとに全面的に見直した。国家の役割を重視し、利己主義的な風潮を戒める保守志向を鮮明にしたのが特徴だ。[NIKKEI NET 2005/02/28 07:00]

「東京新聞」が報道した「『中曽根試案』前文」。

 我ら日本国民はアジアの東、太平洋の波洗う美しい北東アジアの島々に歴代相承け、天皇を国民統合の象徴として戴き、独自の文化と固有の民族生活を形成し発展してきた。
 我らは今や、長い歴史の経験のうえに、新しい国家の体制を整え、自主独立を維持し、人類共生の理想を実現する。
 我が日本国は、国民が主権を有する民主主義国家であり、国政は国民の信頼に基き国民の代表者が担当し、その成果は国民が享受する。
 我らは自由・民主・人権・平和の尊重を基本に、国の体制を堅持する。
 我らは国際社会において、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、その実現に貢献する。
 我らは自由かつ公正で活力ある日本社会の発展と国民福祉の増進に努め、教育を重視するとともに、自然との共生を図り、地球環境の保全に力を尽くす。
 また世界に調和と連帯をもたらす文化の重要性を認識し、自国の文化とともに世界文化の創世に積極的に寄与する。
 我ら日本国民は、大日本帝国憲法及び日本国憲法の果たした歴史的意義を想起しつつ、ここに新時代の日本国の根本規範として、我ら国民の名において、この憲法を制定する。

とまあ、これを読んだだけでも、ツッコミどころはいくらでもあります。

 「アジアの東、太平洋の波洗う美しい北東アジアの島々」などという大仰な美文調(にもなってないけれど)の表現は、人権の保障と統治機構のあり方を定める憲法には、そもそも不要。まして、「歴代相承け、天皇を国民統合の象徴として戴き」などというのは、歴史の事実を偽るもの。
 「独自の文化と国有の民族生活」は、別に日本だけが形成しているものではない。どの国だって、独自の文化と固有の民族生活を形成している(多民族国家だって、それぞれに独自の民族生活がある)。
 こんな無内容なことを書いても、意味をなさない。結局、天皇を戴くのが日本の「独自の文化と固有の民族生活」だと言いたいだけなんだろうけど、それが一番の時代錯誤だろう。

 また、「国政は国民の信頼に基き国民の代表者が担当」するとあるけれど、現憲法の「正当に選挙された国会における代表者」という規定が削除されている。つまり、選挙されなくても「国民の代表者」になれる、ってつもりか? 国政が国民の信頼にもとづかなければならないというのは、言うまでもないこと。そのために、具体的にはどういう政治体制をとるかが大事なんであって、そのために、現憲法は、選挙をつうじた代表制、つまり普通選挙権と議会制民主主義をとるということを定めているのだ。そういうことも分からない人間に、憲法前文を書いてほしくないなあ。

 それから、「正義と秩序を基調とする国際平和」とあるけれど、正義って何? 秩序って何? 現存する「秩序」が全部「正義」になるわけ? 世界には、現存する「秩序」は「不正義だ」と思っている人々、民族だってある訳だから、「国際平和を誠実に希求」するなら、日本国として、何が「正義」か、何が「国際平和」か、考える基準を示さないと意味をなさない。
 現行憲法は、そのために「恒久の平和」と「人間相互の関係を支配する崇高な理想」、「平和を愛する諸国民の公正と信義」、「平和」の維持、「専制と隷従、圧迫と褊狭」の除去、「恐怖と欠乏」からの解放、「平和のうちに生存する権利」を掲げています。そういう原則抜きに、「正義と秩序を基調とする国際平和」をとなえれば、結局、現体制を一方的に押しつける側に立つことになる。

 そして、一番の問題は、「政府の行為によってふたたび戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し」という、平和主義の根幹がなくなってしまうこと。国民主権の原則だって、現憲法は、うえのように述べて、そのために「ここに主権が国民に存することを宣言」するとしているのです。「政府の行為」でふたたび戦争を起こすようなことをしない、そのための国民主権なのです。そういう根幹がなくなっているというのは、あれこれの文章表現の問題ではすまされない、まさに「東京新聞」の言うように、憲法の根幹を変更する重大問題だと思います。

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