人権擁護法案について、国会提出の準備がすすめられていますが、ここにきて、自民党内から異論が出て、状況は複雑になってきました。
人権擁護法案は、もともと3年前に廃案となったもの。それが、今回若干手直しされたものの、基本はそのまま再提出されようとしており、到底賛成できるものではありません。同時に、にわかにまきおこってきた自民党内の反対論にも賛成できません。
そもそも人権擁護法案に反対なのは、こういう理由からです。
まず、人権救済機関となるべき人権委員会が法務省の外局に置かれ、政府からの独立が保障されないこと。それに、「人権侵害」「差別的取り扱い」の定義が明確でないこと。その結果、「人権侵害」「差別」を名目とした、公権力による私人の生活・言動への介入・干渉・監視が広範囲におこなわれかねないこと。これが反対の第1の理由です。
また、マスメディアの過剰取材などからプライバシーを守るなどとしてメディア規制が盛り込まれていることが、第2の理由。今回の再提出では、メディア規制部分は「凍結」されるとされていますが、将来、「凍結」が解除される可能性があり、報道の自由、言論の自由を侵害する危険性をもっていることは、少しも変わっていません。
さらに、全国の市町村に、「人権侵害」を調べたり、「人権救済」にあたる人権相談員を配置するとしていますが、その活動はボランティアによるとされており、民主的な選任やコントロールが確保されていないと、「人権相談員」による住民監視・干渉を生み出しかねません。しかも、このような「人権相談員」の組織を市町村・県・国と積み重ねるというのは、まったく異様としか言いようがありません。
また、今の日本でもっとも人権救済が求められているのはどこかといえば、1つには刑務所や入国管理官署、それから警察の捜査・留置など、公権力による人権侵害。もう1つは、労働者に無理なノルマを課してこき使ったり、ただ働きさせたり、罵詈雑言を浴びせたり、突然解雇したり、という雇用の分野です。しかし、この肝心の分野は法案の対象外となっています。この点でも、「人権擁護法案」は本末転倒、逆立ちをしていると言わざるをえません。
以上が、主な反対理由です。もちろん、人種・民族あるいは社会的出自にたいする差別を広げたり、侮蔑・嘲笑したりする行為を放置せず、それに効果的に対処すべきであるということに私は異論はありませんが、しかし、だからといってそれを法律的に規制するということに誰もが賛成している訳ではありません。とくにそれが言論の自由、報道の自由などにかかわるとなれば、もっと慎重に考えるべきだと思います。
さて、そこで2つ目の問題。私は、上述のような理由で「人権擁護法案」には反対ですが、しかし、自民党内で出されている反対理由――つまり、人権擁護委員に外国人などが任命されたら大変だ、国籍条項で縛りをかけるべきだ、という意見には、賛成できません。日本国内で、もっとも救済を必要とする分野の1つが、外国人への人権侵害であることは明らかです。だとすれば、そうした人権侵害の救済にあたる機関に、外国人が選任されることは、少しも不都合はない、むしろ当然だと思います。
そもそも、日本には、相当数の外国人が生活しています。そうした人たちを、私たちの社会から排除していくのか、それとも、そういう人たちが私たちと共存できる社会をつくっていくのか。どちらがよりよい社会であるかは明らかだと思います。しかし、「人権擁護法案」に国籍条項を盛り込むべきだという反対論は、外国人をますます排除する方向に向かおうというものであり、人権擁護どころか、さらに差別を広げるものと言うほかありません。
そういう訳で、私は、人権擁護法案に反対するし、自民党流の反対論にも反対する、ということです。
自民部会、人権擁護法案を再び了承せず
自民党は15日午前、法務部会と人権問題等調査会の合同会議を開き、人権を侵害された人を救済するための「人権委員会」設置などを定めた人権擁護法案について協議した。しかし「人権擁護委員に在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)関係者が入る可能性がある」などの批判が出て、再び了承を見送った。
会議では「委員任命に国籍条項を設け、特定団体の圧力を受けないようにすべきだ」との声が続出。法務省は「審議会の方針では、外国人が多い地域は日本人以外にも対象を広げた方がよい、ということだ。委員の多数が外国人になることはない」と説明した。
法案を推進する議員連盟「人権問題推進懇話会」会長の自見庄三郎元郵政相は「北朝鮮の拉致問題に国民は怒っており、党内の雰囲気も考えた方がよい。民生委員には国籍条項もある」と指摘した。[NIKKEI NET 2005/03/15 13:11]
大変勉強になりました。
わたしもこの法案には反対で、その理由は主に「メディア規制」にあったのですが、その他にもまだこれだけの問題点があったのですね。
この法案やそれに対する自民党的反対論への理解が深まりましたし、それらに反対するわたしの意志も更に強いものになりました。