米国産牛肉輸入問題にだけ目を奪われている訳にはいかない。という訳で、ライス国務長官の来日で、牛肉問題以外の記事をチェック。
米国務長官:日米協議、地球規模での同盟強化の思惑強く(毎日新聞)
米国務長官:日米協議、地球規模での同盟強化の思惑強く
ライス米国務長官の来日に伴って19日に行われた一連の日米協議は、米国産牛肉の輸入再開問題を抱えながらも、外交・安全保障面で相互依存を強める日米同盟の姿も浮き彫りにした。ブッシュ米政権にとって日本は戦略的パートナーとして重みを増しつつあり、日本も米国との良好な関係が外交上不可欠だ。このため日米双方とも、牛肉問題を局所的な対立にとどめ、地球規模では一層の同盟強化を図ろうとする思惑が強く働いた。
小泉純一郎首相はライス長官との会談を終え、記者団に「日米関係を重視してと(の話があった)。ビーフ(牛肉)の問題だけで来たわけじゃないと。名前がライスですからね」と、英語のライス(米)に引っかけて冗談交じりに語った。
輸入再開問題でライス長官の舌鋒は鋭く、日米の溝は埋まらないままだった。しかし、ビーフだけじゃないという首相の発言からは「輸入再開問題を良好な日米関係の阻害要因にしない」との認識を共有したことへの自信すらうかがえた。
ブッシュ大統領が小泉首相に輸入再開時期の明示を求めた9日の電話協議は「政治決断を迫る米国と、拒否する日本」という対立構図を鮮明にした。ただ、政府筋によると、緊迫したやり取りの後に大統領は首相との気安さからか、穏やかな口調で「お互い苦労するよな」と漏らしたという。このため、政府内には「ブッシュ政権も日米関係に亀裂が走るのはまずいと思っている」(首相周辺)との見方が広がっていた。
ライス長官は19日、上智大での講演でアジアの民主化に向け、日米両国が途上国支援を行う「戦略的開発同盟」を提案。日米外相会談後の共同会見では「日米関係の土台がしっかりしている理由は民主主義的な価値を共有しているからだ」と述べ、世界規模の課題で日本との連携を深めていく考えを協調した。
「戦略的開発同盟」には、中東民主化政策をアジアにも広げていく狙いがうかがえる。北朝鮮、中国への対応もこの流れの中に位置づけられているとみられ、そのためには日本との強固な同盟関係は不可欠。ライス長官の来日には、日本との戦略的関係を強める狙いが明確にあった。【末次省三】
[毎日新聞 2005年3月19日 21時17分]
社説:ライス外交 同盟のソフトパワー生かせ
訪日したライス米国務長官が19日、町村信孝外相、小泉純一郎首相ら日本政府首脳と会談し、北朝鮮問題や中国との関係などについて話し合った。
国務長官就任後初の訪日にあたって、長官が持参したメッセージの主眼は、アジア・太平洋の平和と安定の維持に加えて、地球規模の貧困や経済開発の問題でも日米の連携を深めることだった。
上智大学での演説で、ライス長官は日本の国連安保理常任理事国入りをこれまでにない明確さで支持した。日米同盟を軍事安全保障の次元だけでなく、貧困や疾病の克服、民主化、途上国支援なども視野に入れた「戦略的な開発の同盟」関係に高めるよう訴えた。
ライス長官は就任以来、「外交の出番」をアピールしてきた。1期目のブッシュ外交はイラク戦争などで単独行動主義を批判され、対外的信頼を大きく揺るがせてしまった。2期目の外交を担う長官は、国際社会との信頼と協調の修復に努めている。
2月の欧州に続く今回のアジア歴訪でも、紛争やテロの温床となりがちな途上国の多様な問題に触れたのは、ソフトパワーの側面を強調したかったに違いない。
力による押し付けに走らず、対話と協調のニュアンスに目配りしたライス長官のアジア政策のかじ取りを前向きに評価したい。
台頭する中国についても、長官は人権、政治・経済的開放、台湾問題などを指摘しつつ、「責任ある大国」の役割を中国が果たすように建設的な米中関係構築を進める姿勢を表明した。
それでなくとも、アジアの情勢は冷戦後の欧州よりもはるかに複雑な要素が多い。核をもてあそぶ北朝鮮をいかに6カ国協議の場へ引き出すか。北朝鮮に最大の影響力を持つのは中国だが、その中国は急速な軍備増強や台湾問題をめぐって周辺の懸念を招き、日本や韓国の米軍再編は中国の不信を募らせる構図ともなっている。
核や日本人拉致問題の解決を含めて、日米韓の相互信頼が今ほど大切な時はないのに、米韓も日韓も微妙な問題が目立っているのが現状だ。ライス長官には、歴訪を通じて3カ国の結束と協調を回復し、中国を説得する上で大いに力を発揮してもらいたい。
長官の訪日を機に、北東アジアの入り組んだ政治状況の中で、日本が果たすべき役割について改めて思いをめぐらすことも重要ではないか。ライス長官は日米同盟を「思いやりの同盟でもある」と述べた。また日米が世界の政府開発援助(ODA)資金の4割を占めると指摘した点も重い。
スマトラ沖大地震の復興・救援でも、日米両国はタイムリーな貢献を果たしてきた。北朝鮮問題や中台問題などの平和的解決と同じように、日米が国連や地域と協調しつつ経済発展や民主化支援に取り組んでいくことも、アジアの将来にとって大切な目標である。
6カ国協議など平和と安全の問題で日米の協調をしっかりと深めながら、ソフトパワー同盟の力量も充実させていきたい。
[毎日新聞 2005年3月20日 0時06分]
しかし、ライス国務長官の「外交の出番」は、ユニラテラリズム(一国行動主義)からマルティラテラリズムへの転換というよりは、ユニラテラリズムの枠内での、ユニラテラリズムがもたらした矛盾の「調整」と見るべきでしょう。
日米外相会談の要旨
町村信孝外相とライス米国務長官の会談要旨は次の通り。
【牛肉問題】
外相 食品安全委員会のプロセスが政治や海外からの圧力で曲げられたり、科学的知見が犠牲になれば、早期解決や再開後の米国産牛肉消費にも悪影響を与える。期限を設けたり、具体的時期は明示できないが、早期解決に取り組む。
長官 米国では昨年10月に解決したと考えていた。米国産は国際基準を満たし安全だ。1980年代にあった貿易問題は最近影を潜めていたが、制裁論が出てきた。時期を明示できないにしても早急な進展が不可欠だ。時間がかかればかかるほど大きな問題になる。日米関係に悪影響をもたらしつつある。
外相 国内産業保護を考えているわけではない。食品安全委員会は独立した存在で担当閣僚でも介入できない。最近会合の開催頻度は高まっている。日本産牛肉の米国輸出も認められていない。
長官 それは残念だ。
【在日米軍再編】
外相 抑止力維持と負担軽減を図る観点から加速化した協議を続けたい。
長官 同感だ。
【北朝鮮問題】
外相 核をめぐる6カ国協議の早期再開が必要だ。中国は仲介者でなく当事者として努力してほしい。拉致問題で支援をいただきたい。
長官 再開に向けて日米韓の協力と中国の役割が重大だ。拉致問題は日本の立場を支持する。
【国連改革】
外相 日本にとって最優先の外交課題だ。
長官 日本の安保理常任理事国入りを支持する。
【中東情勢】
外相 イランの核開発問題で英国など欧州3カ国とイランの交渉を支持。中東和平に貢献するためイスラエル、パレスチナ自治政府の両首脳を日本に招く。
長官 イランが平和利用の名の下に核開発を行うことは断固認められない。
[中国新聞 Last updated: 3月19日20時24分]
ライス国務長官演説要旨 上智大
ライス米国務長官が19日、東京の上智大で行った演説の要旨は次の通り。
【自由の拡大】
一、われわれは、自由の拡大のために働かなければならない。
一、アジアでは30年以上も大きな紛争がなく、太平洋の安全保障はサクセス・ストーリーだ。
一、日本はテロとの戦いや中東改革でも米国の主要パートナーになり、世界規模でより広範な責任を担うようになった。
一、日本が自由の推進に指導力を発揮することは太平洋地域と世界にとって望ましい。
一、米国、日本、韓国が平和と安全を守るためにともに立ち上がれば、アジアと世界はより安全になる。
一、日米同盟は安全と安定だけでなく、思いやりの同盟でもある。
一、ブッシュ大統領は自由陣営に利する勢力バランスの創出を米外交政策の任務と定義した。アジア諸国は、自由が人間の精神の真に普遍的な価値であることを証明してきた。仏教国のタイ、イスラムのインドネシア、カトリック教徒が支配的なフィリピン、皇室のある日本、旧共産国のモンゴル、単一民族社会の韓国、多民族国家のマレーシアなどアジアの多様な文化の中で民主主義は出現している。ミャンマーで民主主義が機能しないと疑う理由はない。
一、21世紀のアジアはむき出しの力ではなく、自由の思想によって形づくられるだろう。
【国連改革】
一、日本は自らの努力とその特性によって世界において名誉ある地位を獲得した。それが、米国が日本の国連安全保障理事会常任理事国入りを疑う余地なく明確に支持する理由だ。
【北朝鮮】
一、北朝鮮の核兵器への野心はわれわれの安全を危険にさらしている。6カ国協議が核問題に対処する最善の枠組みだ。
一、北朝鮮が主権国家であることをだれも否定しない。われわれは繰り返し、北朝鮮への攻撃、侵略の意図がないと表明してきた。6カ国協議の他の参加国とともに、われわれは北朝鮮に多国間の安全の保証を供与する用意がある。
一、しかし、北朝鮮の惨状や政権の本質、近隣国の無実の市民に対する拉致事件、核武装化による地域への脅威を米国や他の民主社会は座視しない。
一、北朝鮮がわれわれの提案を真剣に検討するのであれば、6カ国協議に即刻復帰すべきだ。
【中国】
一、中国は6カ国協議で重要な役割を果たしてきた。ブッシュ大統領と胡錦濤国家主席は、北朝鮮に核兵器が存在することは受け入れられないとの点で合意している。
一、しかし北朝鮮は近隣諸国の呼び掛けを拒絶した。すべての関係国は、決断の時が迫っていることを北朝鮮に理解させる努力を強めなくてはならない。
一、中国は特別の責任がある。米中両国がいかにしたら共通の利益を促進させられるかを北京で議論する。
一、スーダン、ミャンマー、ネパール情勢でも共通のアプローチを進展させられるかどうかを見極めるため、中国と協力していきたい。
一、米国には、自信にあふれ、平和的で繁栄する中国の台頭を歓迎する理由がある。
一、台湾という中国との協力関係を複雑化させる問題もある。われわれの「一つの中国」政策は明瞭(めいりょう)で不変だ。言葉であろうが行動であろうが、現状を一方的に変えることに反対する。
一、中台双方に対し、より建設的な関係を目指した最近の動きを拡大させるよう促したい。平和と安定を守るため、台湾関係法に基づく義務を果たしていく。
一、経済的な開放と政治的な開放は不可分だ。国際化の進む世界がもたらす利益を享受していくなら、中国ですら、開放の形態、真に人民を代表する政府を受け入れなくてはならなくなる。
一、中国の指導者は、政治状況を経済的開放と調和させなくてはならなくなった場合、自由が機能するということを悟るだろう。民主主義が機能することを悟るだろう。宗教の自由と人権尊重が、立派で成功を収める社会の基礎であることを悟るだろう。
【途上国支援】
一、日米はさらに協力することが可能だ。途上国に対する公的援助では、日米が全世界の40%を占めている。
一、日米は既に協力関係にあるが、ここに「戦略開発同盟」を提唱し、共通の目標の前進に向けた規則的、体系的な取り組みを始めたい。他国の参加も歓迎する。
【牛肉輸入】
一、太平洋地域の繁栄は信頼と最善の経済活動に対する理解にかかっているが、時に貿易紛争が発生する。最近では米国産牛肉の対日輸出問題がそうだ。
一、この問題を解決すべき時を迎えた。科学に基づいた国際的な基準が存在している。例外的な考え方が投資や貿易を損ない、さらなる繁栄を危うくする事態は避けなければならない。
【知的財産保護】
一、われわれは2国間や地域の、またはグローバルな相互補完的取り組みを通じ、太平洋地域に自由貿易を広げていきたい。
一、米産業界は海賊版や偽造品により毎年2000億?2500億ドルを失っている。技術革新は経済成長を刺激するが、効果的な知的財産保護策がとられない場合、被害をもたらす。
一、この分野での日米協力は既に実績を上げており、アジアのすべての国々がモデルにすべきだ。(共同)
[中国新聞 Last updated: 3月19日11時56分]
6カ国協議が最良とライス国務長官
ライス米国務長官は20日、ソウルで韓国の潘基文外交通商相と会談し、続いて中国を訪れ胡錦濤国家主席らと会談。北朝鮮が6カ国協議に早期復帰することが重要との認識で中韓双方と一致した。長官はソウルで記者会見を行い、協議は北朝鮮が求めるものを得る「最も良い方法」と表明。「安全の保証」やエネルギー支援問題に言及して米国の柔軟姿勢を示し、協議復帰を強く促した。
2期目のブッシュ米政権で国務長官の中韓訪問は初めて。ライス長官は「北朝鮮が主権国家というのは事実」とし、米国には北朝鮮を攻撃、侵略する意思がないことを強調。完全核放棄という「戦略的選択」を決断し、「安全の保証」を手に入れるべきだと述べた。
米韓は、北朝鮮が協議に復帰すれば「北朝鮮の憂慮を含むすべての関心事」を論議する用意を表明。長官は、これまでの6カ国協議で既に「安全の保証」問題などが議題になっているとし、同協議の中での「米朝直接対話はあり得る」と指摘。潘外交通商相も「協議の枠内での米朝会談は相互の立場を理解するのに役立つ」と歓迎した。
長官は一方で、あくまで米朝2国間協議ではなく、6カ国協議を通じ核問題解決を図る立場も再確認した。
中国中央テレビによると、胡主席は「米国など関係国とともに次回6カ国協議の早期開催を推進していきたい」と、早期再開への努力を表明。長官は協議での中国の役割を高く評価し「6カ国協議は核問題を解決する最も良い方策だ」と述べた。(共同)[日刊スポーツ 2005/3/20 23:09]
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私はアメリカで食品関連の会社に勤めております。カナダからの肉の輸入が禁止になって、牛肉の値段がすごく上がっています。オイルも上がるし、お肉も上がる。良い話が少ないです。