「憲法改正国民投票法案」に反対!

憲法改正国民投票法案なるものが自公両党によって国会に提出されようとしています。一般論でいえば、憲法に改正手続きとして国民投票が定められているのだから、そのための仕組みを定めた法律が必要だというのは、その通りです。

しかし! いま準備されている法案は、いま準備されつつある9条改憲のための「国民投票法案」以外の何物でもありません。だから、必然的に、「憲法9条は改正する必要なし」が6割を占める国民世論を欺くための「投票法案」にならざるをえません。たとえば、国民投票で「その過半数の賛成」を必要とするにもかかわらず、それを勝手に「有効投票の過半数」に斬り縮めたり、憲法改正発議から投票まで最短30日で国民投票をすませてしまおうという代物。「よく分からない」といって、投票率が下がったり無効票が増えれば、ごくわずかな賛成票でも憲法「改正」ができるようになっています。

さらに、新聞や雑誌が「虚偽の事項を記載」したり「事実をゆがめて記載」すれば「2年以下の禁固」で処罰するという、事実上の報道規制まで盛り込んでいます。「自衛隊のいるところが非戦闘地域」と言ってのけるぐらいの国ですから、「日本を戦争に巻き込む改憲反対!」「自衛隊を米軍と一緒に戦争に向かわせるもの」といっただけで「虚偽だ」「事実をゆがめた」といって処罰されかねません。

だから、こんな憲法改正国民投票法案には、僕は絶対に反対です。「憲法に国民投票が定められている以上、何らかの手続法がいる」という一般論で、こんなデタラメな法案を、ありうる国民投票制度の案の1つとして認めることは絶対にできません。

国民投票法案:国会提出の動き 「公正」盾に報道規制――「虚偽」記事に罰則など(毎日新聞、3月15日付)

関連サイト:

自由法曹団の反対決議は、追記に全文転載させていただきました。

国民投票法案(議連案)の全文は、tokyodo-2005さんがブログ「情報流通促進計画」に紹介されています。ただし、条文には、法技術論的な項目がたくさんあるので、肝心の所を見失わないように注意してくださいね。

国民投票法案:国会提出の動き 「公正」盾に報道規制――「虚偽」記事に罰則など

◇「有権者にも不利益」

 メディアの活動を制限しようという新たな法律を国会に提出する動きが強まっている。憲法の改正手続きを定めた国民投票法案で、「公正」を盾に、国民投票に関して虚偽の報道をしたり、編集責任者らが地位を利用して結果に影響を及ぼす目的で報道をした場合には、懲役刑を含む厳しい罰則を盛り込む案などが具体化している。日本弁護士連合会や市民グループ、メディア側は「報道や評論活動が制約され、有権者は十分な判断材料の提供を受けられなくなる」と反発を強めている。【臺宏士】

●懸念の声相次ぐ

 「報道が虚偽かどうか見解の分かれるものが多い。その判断を(捜査当局に)委ねることはいかがなものか」
 今月7日夜、東京都内で開かれた「マスコミ倫理懇談会全国協議会」の会合で、ゲストとして招かれた自民党憲法調査会会長の保岡興治元法相に、出席者から厳しい批判や懸念の声が飛んだ。保岡氏は「国民投票法等に関する与党協議会実務者会議」の座長だ。同会議は04年12月、同法案の骨子をまとめていた。会場のメディア関係者から「憲法を改正するとこうなるとシミュレーションする報道は虚偽になるのか」「国民投票法案は、まずマスコミ規制ありき、という考え方ではないのか」などの質問が相次いだ。
 これに対して、保岡氏は「将来の論評は虚偽から除いている」と説明した。さらに「(法案提出前には)与党と民主党の3党で内容を協議する。その中で、マスコミの方々の意見も十分うかがいたい。罰則は著しく公正を害する報道に限定し、それ以外はマスコミの自主的な判断に委ねる道を検討していく余地もある。一方的には決めない」と語った。

●ちぐはぐな規制

 与党の実務者会議が04年12月にまとめた「日本国憲法改正国民投票法案骨子」(案)は、与野党の超党派議員でつくる「憲法調査推進議員連盟」(会長・中山太郎元外相)が01年に作成した法案に修正を加えたものだった。
 骨子案でのメディア規制条項は、公職選挙法の条文をほぼそのまま置き換えた。それは▽新聞、雑誌、放送局などが予想投票を実施し、その経過や結果を公表すること▽新聞や雑誌、放送局が事実無根なことを掲載する虚偽報道や、ある重要なことを隠して別のことを著しく誇張するなど事実をゆがめる報道――を禁止するものだ。
 こうした内容に加え、新聞、雑誌を対象に「不法利用の制限」規定も盛り込まれている。これは、どんな人も投票結果に影響を与えようとして編集長らに金品を渡して記事を掲載してもらうことや、編集長らが金品をもらう見返りとして報道することを禁じるものだ。さらに、社長や編集長らが国民投票に影響を及ぼすことを目的に、その地位を不当に利用して報道することなども規制している。
 この「不法利用の制限」規定は放送局には適用されないなど、ちぐはぐさも目立つ。
 いずれの規定にも罰則があり、違反すると5年以下の懲役・禁固や、2年以下の禁固または30万円以下の罰金が科される。
 こうした規制は、国会が憲法改正を発議し、国民投票の実施が正式に決まった日から、投票日までの間に適用されることになる。

◇公選法と「似て非なる」

 「国民投票法案骨子の条文は、公職選挙法の形式を装いながら、実際はその悪い部分だけをつまんだだけの似て非なるものだ」。聖母大の田北康功・非常勤講師(メディア倫理)は、そう指摘する。
 例えば、公選法も虚偽報道を禁止しているが、同じ条文の前段で「報道及び評論を掲載する自由を妨げるものではない」とうたっている。しかし、法案骨子にはこの文言が削除されるなど、規制色が前面に出ているのが特徴だという。
 これに対して、法案作成実務を担当した衆院法制局の橘幸信・第二部長は「公選法ではかなり報道についての規制があるので、『基本的には自由である』と言う文言が必要だった。しかし、(法案骨子では)規制規定は少ないので『自由です』と言う必要があるのかと(議論に)なった」と削除理由を説明した。
 さらに法案骨子は、地方自治法が規定する住民投票の際の報道規制と比較しても厳しいという指摘もある。地方自治法は首長や議員の解職、議会解散につながる住民投票の規定を設けているが、総務省によると、これらの投票は公選法の規定を準用するものの、「不法利用の制限」規定は適用されない。
 田北講師は「多数の候補者の中から当選者を選ぶ時と、政策を選択する国民投票とでは、同じ公正さでもそれを保障する方法は異なるはずだ。人を選ぶ公選法を準用しようとするから無理が出てくる。白紙に戻して再検討すべきだ」と提言する。

◇国民投票法案が規定するメディア規制条項の要旨

 国民投票法案骨子などが規定するメディア規制条項の要旨は次の通り。

*予想投票の公表の禁止
 何人も、国民投票に関し、その結果を予想する投票の経過または結果を公表してはならない。(罰則は2年以下の禁固または30万円以下の罰金)
*新聞紙または雑誌の虚偽報道などの禁止
 新聞紙(これに類する通信類を含む)または雑誌は、国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を記載し、または事実をゆがめて記載するなど表現の自由を乱用して国民投票の公正を害してはならない。(罰則は2年以下の禁固または30万円以下の罰金)
*新聞紙または雑誌の不法利用などの制限
 (1)何人も国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞紙または雑誌の編集その他経営を担当する者に対し、財産上の利益の供与などを行って、報道及び評論を掲載させることができない。(罰則は5年以下の懲役または禁固)
 (2)新聞紙または雑誌の編集その他経営を担当する者は、財産上の利益を受けることなどによって、報道及び評論を掲載することができない。(罰則は(1)と同じ)
 (3)何人も国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞紙または雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、報道及び評論を掲載し、または掲載させることができない。(罰則は2年以下の禁固または30万円以下の罰金)
*放送事業者の虚偽放送などの禁止
 日本放送協会(NHK)及び一般放送事業者は、国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を放送し、または事実をゆがめて放送するなど表現の自由を乱用して国民投票の公正を害してはならない。(罰則は2年以下の禁固または30万円以下の罰金)
[毎日新聞 2005年3月15日 東京朝刊]

自由法曹団の「憲法改正国民投票法案」反対決議は以下の通りです。

「憲法改正国民投票法案」等に断固反対する決議

  1.  自民党・公明党は、与党協議会において、「憲法改正国民投票法案」と国会法「改正」案を、今国会に提出する方針を固めたと伝えられている。この法案の内容は、憲法調査会推進議員連盟で作成した「法案骨子」をベースにしたものになるという。
  2.  これらの手続法案は、わが国を「戦争する国家体制」にするための憲法「改正」に向けられていることは明らかである。小泉内閣は、イラクに自衛隊を派兵し、無法なアメリカの戦争に加担し、今も加担し続けている。昨年には、国民を戦争体制に組み込むための「国民保護」法制を成立させ、さらには、海外派兵を自衛隊の本来任務とする自衛隊法「改正」や海外派兵を恒久化する法案まで準備している。
     自民党は、昨年11月、党憲法調査会において、「憲法改正草案大綱」を発表した。この「草案大綱」は、軍隊と海外派兵を公然と認める9条改憲を眼目とし、人権保障のために国家権力を拘束するという憲法の基本を投げ捨て、国防と公共の名の下に国民の生活や権利を制限する内容になっている。そして、この「草案大綱」が今後の「改憲」論議の事実上のたたき台として位置づけられているのである。
     自民党は、翌12月、小泉首相を本部長とし、保岡・党憲法調査会長を事務局長とする「新憲法制定推進本部」を発足させ、「戦争をする国家体制」づくりに向けて全党を挙げて取組む策動を開始した。アメリカのアーミテージ前国務副長官が公言しているように、日米の一体的な軍事行動を具体化する上で憲法9条が邪魔になっている。
     今回の「憲法改正国民投票法案」等は、わが国を本格的に「戦争する国家体制」に構築するための「はしご」として掛けられるものにほかならない。
  3.  準備されている手続法案は、憲法「改正」案の内容を国民の目から遠ざけ、また、国民の意思を反映させないための意図的な仕組みをもっている。憲法の「改正」点が複数にわたった場合に、各項目ごとに「改正」案を提案するのか、全体を不可分のものとして「改正」案を提案(ワンパッケージ方式)するのか。今回の「法案骨子」は、この点に触れず、「別の法律の規定による」ものとし「ワンパッケージ方式」に道を開いている。「ワンパッケージ方式」によれば、個々の「改正」点についての賛否を判断する国民の権利が奪われることになり、国民の意思は著しくゆがめられる。
     さらには、「改正」案の承認に必要な国民の「過半数の賛成」の要件について、無効票をのぞいた「有効投票数」の過半数とし、「改正」案の承認にとってもっとも緩やかな基準を採用している。また、国会の「改正」案の発議から国民投票までの期間が短すぎ(30日以上90日以下)、「改正」案についての国民的議論の期間が保障されていないこと、公務員、教育者、外国人に対する国民投票運動が禁止されること、新聞雑誌や放送事業者に対する報道の自由が不当に制約されること、18歳以上の未成年者の投票権を認めないことなど、看過しえない様々な問題を指摘できる。
     しかも、この国民投票法案についての国会での審議を憲法調査会で行うことができるとする国会法「改正」案をも国会に提出するという。調査目的に活動が限定されている憲法調査会に議案提案権まで付与するものであり、それ自体重大な問題である。このように「法案骨子」に示される改憲推進勢力の意図は、国民の意思をゆがめてまで、憲法の改悪を実現しようとするものであって、平和を愛する国民に対する重大な挑戦であるといわなければならない。
  4.  自由法曹団は、憲法改悪を目的とする「憲法改正国民投票法案」等に断固として反対し、広範な人々と共同し、全力を挙げてその成立を阻止する決意である。

2005年2月19日    自由法曹団常任幹事会

「憲法改正国民投票法案」に反対!」への5件のフィードバック

  1. わたしは厳密な意味での「護憲」派ではありません。
    第1章はまるまる不要だと思いますし、全文にわたってある「国民」は「市民」あるいは「人々」と書かれるべきだと思います。また第24条にある「婚姻は両性の合意」は「両者の合意」とすべきですし、「国家権力によるあらゆる殺人の禁止」、そして何より国民の「抵抗権」を明記する必要があると思います。
    しかし、わたしは今、この時点での改憲には絶対に反対です。ですからこのでたらめな国民投票法案やそれに続く改憲案を容認することも出来ません。第一、これまで散々憲法無視という法律違反をしてきた人たちの出す法案を、一体だれが守ると言うのでしょう。仮に自分たちが決めたルールなのだからと、誠実に遵守したとしても、それは自分たちのルール違反をこれ以上糾弾されないために、ルールのほうを変えてしまおうという、法治国家にあるまじき発想の下になされる改憲である以上、到底看過できるものではありません。サッカーで散々”ハンド”をしてきた選手が、「ルールを変えて手も使えるようにしよう」なんて言い出したら即退場処分です。こんなことがまかり通るなら、そもそもルールの存在意義自体が問われます。

    今の憲法は理想論だという批判があります。
    しかし、理想論で結構。法とはそういうものなのです。
    いささかたとえが極端ですが、大抵の国では殺人をしてはならないことになっています。窃盗も犯罪です。でも殺人や窃盗を根絶することは出来ません。だからといって法を現状に合わせようとはならないはずです。戦争も同じことです。国家による不正も後を絶ちません。ですがそれらは犯罪行為なのだと規定する限り、その根絶に向けた永遠の努力が途切れることは無いはずです。それが少なくとも戦争や国家犯罪を減らしていく原動力になるのではないでしょうか。

  2. すみません。上に掲載していただいたコメントに訂正があります。
    「抵抗権」に触れたくだりで、その主体を「国民の」と書いてしまいましたが、正しくは「市民の」あるいは「人々の」とすべきでした。憲法内での「国民」という表現を改めるべきと言いながら、こうしたところで間違いを犯してしまうとは、お恥ずかしい限りです。

    改憲を言うなら、現憲法の国民主権、基本的人権の尊重、そして先進的な平和主義という特性をより磨いていく方向であるべきだと思います。逆に「自衛」の名のもとに戦争を可能にしようとしてる現在の流れに同調したくはありませんし、すべきでもないと思います。

  3. >D.D.さん
    いつもコメントありがとうございます。
    D.D.さんの意見に触発されて、現在の憲法第1章「天皇」の条項をどう読むか、僕なりの考えを書いてみました。現在の憲法を前提にして考えたら、象徴天皇制のもとでの国民主権を規定した条項として読むことができるのではないかと思うのですが、どうでしょう?
    http://ratio.sakura.ne.jp/images/2005/03/26021515.php

  4. はじめまして、sonといいます。憲法改正への政府の動きに対して僕も強く反対します。
    またこのブログを見たことで憲法改正へ向けての動きをより深く理解することができました。
    ありがとうございます。
    イラク派遣といい今回の憲法改正の件といい政府のやっていることは正当性が全く無いと感じています。

  5. >sonさん
    初めまして。コメントをいただきありがとうございます。
    日本国憲法は、改めて読んでみると、ほんとにいろいろいいことが書いてありますね。憲法と現実とにギャップがあるとしたら、憲法に書かれていることを真面目にやろうとしてこなかった政治の責任。改正しようというなら、その前に、一度真面目に憲法を生かした政治をやってからにしてほしいもんです。
    これからもよろしくお願いします。

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