大橋英夫氏の『現代中国経済論』(岩波書店)を読みました。
日本人の書く中国論は、中国「脅威」論だったり、あれこれの事例をあげた「崩壊」論だったりと、およそ初めっからバイアスのかかった著作が多いのですが、この本は、「改革開放」政策のもとで中国経済がどうなっているか、全体を俯瞰しつつ、発展の方向性と問題点を率直に指摘しています。
その内容は、目次をみてもらった方が早いかも。
- 序章 全面的な「小康」社会の実現に向けて
- 第1章 経済成長の検証
- 第2章 経済改革の深化
- 第3章 市場経済の制度化
- 第4章 国有経済の退出
- 第5章 経済格差の拡大
- 第6章 「社会安全網」の構築
- 終章 「全球化」と構造調整
で、面白いのは、第6章「社会安全網」の構築が、「現代中国経済論」の“落としどころ”になっていること。
中国の「市場経済」が社会主義の前進への道となるためには、「市場経済」下ですすむ格差拡大にたいし、どこで“社会主義らしさ”を発揮するかが問われるわけですが、その1つが社会保障の分野であることは明らかでしょう。
実際、共産党も政府も、少しずつではあれ、社会保障制度の実現に取り組むようになってきました。しかし、なにせ相手は人口13億の国。失業給付の対象者にしたって、年金受給対象者にしたって、半端な数ではありません。しかも、全国的な制度は文化大革命の時期に壊されてしまい、ようやく少しずつ再建されはじめたところ。はたして、うまく行くのか? そうした動きが、第5章までの経済発展とその矛盾の分析を踏まえて、最後の章で具体的な課題として提起されています。
そこに注目して、現代中国経済を論じているところに、この本の面白みと著者の目の確かさがあるように思いました。「小康」社会の実現という、中国が実際に経済建設の目標としているところを研究の出発点にすえていることも、本書の分析が地に足をついたものになっていることを示していると思います。中国の「市場経済社会主義」とはいったい何か、知りたいという人には是非お薦めします。
【書誌情報】著者:大橋英夫/書名:シリーズ現代経済の課題 現代中国経済論/出版社:岩波書店/刊行年:2005年3月17日/定価:本体2600円+税/ISBN4-00-027047-8