JR宝塚線脱線事故で、新型ATSの未設置が問題になっていますが、国土交通省自身が、私鉄には速度照査型ATSの設置を義務づけながら、JRには旧型ATSのままでいいという「二重基準」を設けていたことが明らかに。
<ATS設置基準>国交省、JRに甘く旧型放置
旧運輸省(現国土交通省)が、JR発足時の87年に出した省令の中で、設置を義務づけた自動列車停止装置(ATS)について、速度調整可能な「速度照査型」と、そうでない型のどちらでもよいとする「二重基準」にしていたことが分かった。大手私鉄に対しては、それ以前の通達で速度照査型を義務づけ、87年時には広く普及。01年の省令改正でも二重基準は見直されず、結果的にJRの旧型ATSを残す抜け道になったとみられる。兵庫県尼崎市の福知山線脱線事故では、速度照査型ATSを活用していれば事故を防げたとの指摘もあり、専門家はJRに対する旧運輸省の監督の甘さを批判している。
ATS設置が義務づけられたきっかけは、1962年に160人の死者が出た国鉄常磐線三河島駅の二重衝突事故だった。信号無視などが原因だったため、運輸省は63年、国鉄向けの鉄道省令を改正し、ATSの設置を指導。しかし、速度照査できない旧型ATSが多く、設置義務のなかった私鉄を含め各地で事故が相次いだ。このため同省は67年、大手私鉄16社に、速度照査機能を持つATSの設置を通達した。国鉄に対する措置は取らなかった。
87年に国鉄分割民営化でJR各社が発足し、鉄道営業法に基づく運輸省令の「普通鉄道構造規則」が新設された。ところが、ATSに関する内容は、国鉄と大手私鉄に対するそれまでの規制を併記しただけの「二重基準」だった。01年の省庁再編に伴う省令改正時にも内容は見直されなかった。
この間、国鉄やJRでは急カーブやポイントでの転覆脱線事故が発生した。これに対し、大手私鉄では、67年の通達を受け、速度照査できるATSが普及。「転覆脱線のような大事故は起きていない」(日本民営鉄道協会)という。
国土交通省鉄道局技術企画課は「省令改正時の詳しい事情は分からないが、ATSは赤信号の時に列車を停止できればよく、速度照査機能があってもなくてもいいと考えたのではないか」と話している。【河内敏康】
▽安部誠治・関西大商学部教授(公益事業論)の話 旧運輸省が国鉄やJRに対して、速度照査機能を持つATS設置を義務づけなかったのは怠慢と言われても仕方ない。費用負担が大き過ぎると言うなら、せめて都市圏で運行本数の多い路線だけでも義務づけるべきだったのではないか。[毎日新聞 5月15日3時5分更新]
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