午後、突然雨が降り出しましたが、それがやんだあと、日比谷シャンテでギリシャ映画「エレニの旅」を見てきました。長回しで、静かに時間が流れていく…そんな感じの不思議な映画でした。
1919年、ロシア革命に追われて、オデッサから一群のギリシャ人たちが引き上げてくる。「お前たちは何者だ?」との誰何に、彼らの長らしき男性が「入国の許可を1カ月待った。許可がおりて、東へすすめと言われた」と答える。そこには、オデッサの街で助けた少女エレニがいる。それからおよそ10年後、エレニが養母ダナエに連れられて、〈ニューオデッサ〉に帰ってくる。叔母カッサンドラはダナエに「すべて済んだ?」「生まれた双子は?」と問う…。
ゆったりとした長回しのカメラアングルで映画はすすんでいきます。ストーリーも克明に描くというより、象徴的なスタイルで、不思議な雰囲気を醸し出してゆきます。哀調を帯びたアコーデオンの音楽も印象的です。そして、やがて水没するニューオデッサの街。〈白布の丘〉の狭い住民の集落のあいだを通っていく蒸気機関車、それに廃墟となったニューオデッサの街と、それをおおう“河”と“水”が、くり返しくり返し登場し、その間に、少しずつギリシャの〈歴史〉が動いていきます。そんな不思議な時間と空間をたっぷり堪能してください。
で、主題になっているのはギリシャの現代史。簡単に年表風にまとめてみました。
- 1919年 エレニたちがオデッサから引き上げてくる。
- 1919〜1922年 ギリシャ・トルコ戦争で敗北。東トラキアを失い、200万人のギリシャ人が帰還させられる。
- 1924年 総選挙で共和派が勝利。王政を廃止。
- 1935年 コンディリス将軍が政権をとり、国民投票により王政を復活(ゲオルギオス2世復位)。
- 1936年 メタクサス将軍・首相、戒厳令を発し国会を停止し独裁体制をしく。
- 1940年10月 イタリア軍の侵入に対し、連合軍側について第2次世界大戦に参戦。
- 1941年4〜5月 ドイツ軍によってギリシア全土が占領される。
- 1944年11月 ギリシア解放。
- 1946年9月 ゲオルギオス2世の帰国をきっかけに、王統派と左派との間で内戦に。(〜1949年10月)
そもそもギリシャは、19世紀初めに独立するまでは、オスマントルコ領。ということで、もともとギリシャ民族自体が「難民」の宿命を背負わされていた、ともいえます。
本作品は、アンゲロプロス監督が母親にささげたもの。監督の母は、20世紀の始まりに生まれ20世紀の終わりに亡くなったそうで、エレニが経験するギリシャの“悲劇”を、身をもって体験してきた世代。ギリシャはその後、60年代末〜70年代初めにかけて再び軍事独裁政権を経験します。そういう度重なる歴史をへて、今日のギリシャがある訳で、そういう歴史にささげられた作品と言えます。
【作品情報】
監督・脚本:テオ・アンゲロプロス/出演:アレクサンドラ・アイディニ(エレニ)、ニコス・プルサニディス(アレクシス)、ヨルゴス・アルメニス(ニコス)、ヴァシリス・コロヴォス(スピロス=アレクシスの父)/2004年 ギリシャ・フランス・イタリア・ドイツ合作
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トラックバックありがとうございます。
わたくしの稚拙な感想文とは異なり
観てない方にも『エレニの旅』の物語の世界が
分かり易く書かれており、面白く読ませていただきました。
静かな作品でしたが、良い作品ですよね。
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トラックバックありがとうございました
改めて拝見させていただきましたが、
オスマン・トルコからの独立以降の歴史について
全く知らなかったことを実感しました。
世界史の授業で習うギリシャといえば古代だけですし。
ギリシャの近くにある旧ユーゴやキプロスも
民族・宗教が関わる紛争が多い地域ですね・・・
次作を見る前に、歴史を勉強してみようと
思いました。
TBありがとうございました。
ご指摘のとおり象徴的な映画でした。
いろいろなことを見終わって受け止めることが
できた映画で、沢山のことを考えさせられました。
ギリシャ映画には魅力を感じました。
楽しく読ませていただきました。
当方、アグネス・バルツァの歌を楽しんでおります。
URL「@年金」にギリシャ旅行記掲載しています。
お暇な折にお出かけいただけたら幸いです。
ではまた。
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