◆藤田久一著『国連法』(東大出版会、1998年)
51条の集団的自衛権規定は、地域取決とは無縁な、単純ではあるが破壊的な構造をもつものであった。(295ページ)
51条の集団的自衛権の論理構造の解釈として、
- 共同防衛
- 他国の権利の防衛
- 他国にかかわる重要な法益の防衛
の三つのパターンがある(祖川武夫の分類による)。
- 共同防衛とは「個別的自衛権の共同行使」のこと。しかし、これでは集団的自衛権を援用する集団的自衛条約の中心的目的への適合が疑われる。
- 「他国の権利の防衛」説は、「緊急援助の原理に基くもの」。「他者の防衛が防衛される他者の側での自衛行動を前提とし、それに依存している」(同前)。しかし、「このような解釈をとれば、自衛権は戦争に訴える権利となり、集団的自衛権は同盟戦争または干渉戦争の公認を意味する」ことになり、「国連憲章の戦争禁止と集団的安全保障システムの構造的破綻」をもたらす。
- 「他国にかかわる重要な法益の防衛」説は、集団的自衛の独自的存立を主張しうるような論理的構造をもつ。しかし、「他国にかかわる時刻のvital interest[重大な法益]とはいかなるものであり、どのようにして『自国法益』にまで高められるか」が問題。
これまでに行使された集団的自衛権
- 1958年 レバノンについて(米国)
- 1966年 ベトナム戦争で(米国)
- 1964年 南アラビア連邦のために、イエメンに対する武力行動の際に(英国)
- 1968年 チェコスロバキアに介入する際(ソ連)
- 1979年 アフガニスタンに介入する際(ソ連)
湾岸戦争の際の多国籍軍の行動を、集団的自衛に基礎づける見解もある。
ソ連のチェコスロバキア、アフガニスタン介入についていえば、第三国からの「武力攻撃」はなかったのだから、51条は適用できないとの批判があった(日本、アメリカなど)。
◆松井芳郎他『国際法・第4版』(有斐閣Sシリーズ、初版1988年、第4版2002年)
集団的自衛権 ふつうに自衛権といえば、武力攻撃を受けた国自身がそれに反撃する権利のことをいうが、憲章51条はこれを個別的自衛権と呼んで、そのほかに集団的自衛権という権利をも認めている。この権利は国連憲章で新たに認められた権利であるため、その権利内容をどう理解するかについていくつかの説があるが、一般的には、自国と連帯関係にある他の国家が攻撃を受けた場合に、その国にかかわる自己の重大利益の侵害を理由として、自らは武力攻撃されていないにもかかわらず反撃を加える権利、と解されている。(288?289ページ、強調は引用者)
ただし、被攻撃国が武力攻撃を受けたことを宣言し、かつ、被攻撃国が援助を要請していることが必要である、とするICJの判決がある(ニカラグア事件、同前)。
結局、各国家とりわけ常任理事国たる大国は、自らは武力攻撃を受けていない場合にも、自衛の名のもとに、安保理事会の統制を受けることなく武力を行使できるわけであって、このような権利を認めることは、実は、個別国家による武力行使をできるだけ制限しようとしてきた国際連盟以来の努力に逆行するものなのである。(289ページ)
◆香西茂他『国際法概説・第4版』(有斐閣双書、初版1967年、第4版2001年)
国際法上これまでの自衛権(憲章では「個別的自衛権」)は、自国の危害の排除が問題であって、他国が攻撃を受けたことに対して、これを排除することは、国内法の正当防衛と異なって含まれていなかった。したがってこれ〔憲章51条〕は、従来同盟条約を締結して行われていた共同防衛を、集団的自衛権の名において自衛権のなかに組み込んだわけである。
集団的自衛権発動の要件
集団的自衛権の発動の要件については、個別的自衛権と同じく「武力攻撃が発生した場合」に限られることは憲章上明らかであるが、その他幾つかの問題がある。(イ)事前に協定の存在が必要か否か。ふつうは1949年の北大西洋条約、1955年のワルシャワ条約、1960年の日米安全保障条約などのように、集団的自衛権の行使に関してあらかじめ約束がなされていることが多いが、理論上はそれに限定されないとも考えられる。(ロ)集団的自衛権という以上、武力攻撃の発生の認定(したがって自衛権発動の必要性の判断)は集団的自衛権を行使する国にあるように思われるが、そのさい直接攻撃を受けている国の判断およびその国からの援助の「要請」は必要でないかどうか。1986年国際司法裁判所は、ニカラグア事件……において「攻撃の犠牲者とされる国の要請という条件が、その国自身が攻撃を受けたと宣言しているという条件のほかに、もう1つ必要である」と判示した。(72ページ、下線部は原文傍点)
国連の統制に対する例外
- 旧敵国条項
- 憲章51条の集団的自衛権の規定
結局、これらの条約〔全米相互援助条約、北大西洋条約、ワルシャワ条約など〕による地域的安全保障体制の確立は、国連の安全保障体制を骨抜きにし、その分裂化を深めたのである。(272ページ)
◆島田征夫『法律学講義シリーズ 国際法・新版』(弘文堂、初版1992年、新版1997年)
1、伝統的な自衛権
自衛権は、一国が他国の国際法上違法かつ急迫した侵害行為に対して緊急の必要からやむをえず行う国家の基本的権利である。そして緊急性があり、侵害の程度との均衡を失しないものであれば、違法性が阻却されてきた。(112ページ)
3 国連憲章の定める自衛権
- 従来の自衛権概念と異なり、自衛権を個別的なものと集団的なものに分けている……。とくに後者は従来慣習法上見られなかったものである。
- 加盟国が行使しうる個別的自衛権は、安保理事会が必要な措置をとるまでの間であり、かつとった措置は事後に同理事会報告する義務がある……。かつて自衛権の行使については、当該国の判断と裁量に委ねられていた。
- 自衛権行使の要件が、領土保全や政治的独立を養護するための武力による反撃から「武力攻撃の発生」に変わった……。これは内容の実質的な変更を意味しない。……条文を読む限り、「武力攻撃は発生している」ことを要し、先制的自衛権の行使を排除する意図であると思われる。しかしこの規定は、攻撃のための行動が開始された場合を含む趣旨であると思われる。
- 攻撃の形態は、一般に攻撃は武力によるものに限られ、間接侵略や経済的侵略は除かれる……。
2 集団的自衛権は憲章で始めて認められた
国連憲章第51条は、個別的自衛権(攻撃を受けた国が自ら反撃を行う権利……)とならんで、新しく集団的自衛権の概念を認めた。これは、米州諸国の要請によるものであった。(307ページ)
※復仇について。「復仇とは、他国の国際法違反の行為に対してその中止や救済を求めてとられる慣習法上の措置をいう」。一般には、条約の停止、相手国国民の抑留や財産の差押さえなど。「今日、とりわけ武力復仇は武力不行使義務に反するので、友好関係宣言でも禁止されている」(島田、302ページ)。復仇の要件=<1>相手国に国際法違反の行為があること、<2>違法行為の中止や救済のために行われること、<3>加害行為と均衡した行為であること。(同、235ページ)