集団的自衛権について考える(2)

◆田畑茂二郎『国際法講義 下(新版)』(有信堂高文社、1984年)

個別的自衛権と集団的自衛権

 自衛権について規定した憲章第51条について、まず注目されるのは、個別的自衛権と集団的自衛権という、自衛権の2つのカテゴリーが認められていることである。自衛権とは、外国からの不法な武力攻撃から自国の法益を守るために緊急やむをえない場合、それを排撃する権利のことであって、それが必要の限度を越えないかぎり、国際法上合法的なものとされている。このような自衛権は、国際法主体たる国家であるかぎり、すべて当然保有するものとして、不戦条約が締結されたときにも認められていたが、しかし、従来一般に自衛権と呼ばれていたのは、直接攻撃を受けた国が自らそれを排撃する場合であった。ところが、憲章では、そうした場合を個別的自衛権とよび、そのほかに、自国が直接攻撃を受けていなくても、自国と連帯関係のある他国が攻撃を受けた場合には、それを自国自身に対する攻撃と見なし、反撃することができることとし、これを新しく集団的自衛権とよぶこととした。……(同、192ページ)

 集団的自衛権は、以上に見たように、他の国家が攻撃を受けた場合に発動することを予定された特殊な自衛権である……。(同、194ページ)

 集団的自衛権を発動するためには、他の国家とどのような関係が存在することが必要であるか。これは、集団的自衛権の法的性質をどのように見るかという問題にもかかわっているが、これについては、さまざまな考え方がある。(同前)

  1. バウエットの説――集団的自衛権が認められるのは、他国に対する攻撃が自国の利益をも侵害する場合。つまり、集団的自衛権とは個別的自衛権の共同発動である。集団的自衛権行使の根拠は、自己の法的な利益・権利の侵害。なお、バウエットは、自衛権の発動要件としては、攻撃を威嚇による先制的自衛を認めている。しかし、集団的自衛権がこのようなものであるならば、わざわざ個別的自衛権と別に集団的自衛権という観念を認める必要はない。
  2. ケルゼンの説――2カ国または数カ国で、いずれか一国にたいし第三国が攻撃を加える場合に相互に援助することを約束すれば、そこに集団的自衛(集団防衛)の関係が成立する。つまり、集団的自衛権とは、他国防衛のための権利である。しかし、攻撃を受けた国家とのなんらの関係をも前提することなしに、他国防衛のための軍事行動を認めてよいかどうか。一定の連帯関係を基礎とした上での援助ではないのか。
  3. 実際に必要とされる要件――「武力攻撃が発生した場合」(51条)。これについて、これはなんらの限定を意味しないという説、つまり外国からの武力攻撃が実際に行われる場合だけでなく、先制的自衛も排除しない、というもの。それにたいし、51条のこの限定がまったく無意味と見るべきではないとして、これは自衛権発動の要件を規定したものであり、武力攻撃が未だ発生していない段階で、差し迫った脅威を理由として、先制的攻撃を行うことは許されない、という考え方がある。

高野雄一『全訂新版 国際法概論 下』(弘文堂、1986年)

 国際連合の規定は「集団的」自衛権を認めている。これは「固有」の文字にかかわらず、国連憲章でとくに認められた概念である。ある国が武力攻撃を受けた国または地域と密接な関係にあって、そのために、右の武力攻撃が自国に対する攻撃と見なされるような場合、攻撃を加えた国に対してその国が反撃しうる権利である。自国が直接の攻撃を受けていないのだから、個別的自衛権ではない。実質的には、他国に対する援助、共同防衛(同盟)としての第三国の強力行使の役割を果たす。これはしかし、国連憲章が集団保障の立場から否定したものである。(同、400ページ)

この集団的自衛権は、たんなる自衛権委譲に強力に国際連合の集団保障の間隙を補うことになった。加盟国が政治的軍事的に結合して、条約で合意する共通の地域に加えられる「武力攻撃」に対して互いに集団的自衛権を確認しその行使を約束する。これによって地域的共同防衛体制を築く途を開いた。集団的自衛権も自衛権であるからその行使は第一次的に当事国の判断による。自衛権に対する理事会の事後の統制は、集団的自衛権についても同じであるが、拒否権をめぐる国連の集団保障機能の麻痺によってその統制は有名無実化し、集団的自衛権による私的強力行使は一段と拡大される。国際連合の集団保障の下に認められる地域的集団保証機構を、個別的な同盟的性格に変質させ、国際連合の集団保障そのものにとってかわる傾向を招いた。(同、401ページ)

ひきつづき、国連の集団的安全保障と集団的自衛権との違いを明確にすること。

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