佐々木投手と榎本加奈子さんの再婚話に関連して、女性にのみ6カ月の再婚禁止期間があるのは差別だと書いた(「女性差別」)ところ、「もし妊娠していた場合、誰の子どもかはっきりさせるためではないのか」という意見をいただきました。コメントでお返ししようかとも思ったのですが、長くなるし、大事なテーマなので、新しいエントリーに書き込みます。
- 妊娠しているかしないかをはっきりさせるため、というのであれば、離婚の時点で検査すればすぐ分かることです。そして、妊娠していないことが分かれば、すぐに再婚を認めて良いはずです。また、女性の年齢にかかわらず無条件で6カ月の再婚禁止期間を置いているのも、「妊娠しているかどうかはっきりさせるため」という理由からみれば不合理です。
- 誰の子どもかはっきりさせるということでいえば、妻が婚姻継続中から浮気をしていれば、夫の子どもかどうかは全然はっきりしません。あるいは、セックスレス夫婦だったのであれば、夫の子どもでないことは明瞭な訳です(少なくとも当事者には)。つまり、「6カ月いう期間を設ければ誰の子どもかはっきりする」というようなことは、成り立たないのではないでしょうか。
- また、「生まれてくる子どものために、親が誰かはっきりさせないと…」という問題については、民法は、第772条2で、「婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と定めており、この規定で十分ではないでしょうか。
ちなみに「推定する」とは、「仮に、そう考える」というもので、とくに異論が申し立てられなければ、そのまま認められるということです。そのため、民法では、773条以降で、子どもの親をにわかには定めがたい場合には裁判所が認定すること、あるいは夫の側から否認する権利やその手続きを定めています。認知をめぐってもめれば、DNA検査などで確認することも可能です。 - さらにいえば、もし、再婚禁止期間が「妊娠していた場合のことを考えて、誰の子どもかはっきりさせるため」という合理的な理由から設けられているのであれば、他の国だっておしなべて、同じように女性の再婚禁止期間を設けているはずです。しかし、現実には、そうなっていません。逆に、女性の再婚禁止期間を設けていない国において、誰の子どもか分からない子どもがたくさん生まれて大混乱している、という話も聞いたことがありません。
ということで、いろいろ考えてみると、結局、この禁止期間には合理的な理由がない、ということになります。
ではなぜ、日本では、女性だけ6カ月再婚してはいけないと決められているのか、と考えると、結局、残る理由は、たとえ離婚したとしても、その直後に妊娠が分かった場合は、生まれてくる子どもは前夫のものだ、という、古い「家」中心の発想しか考えられません。戦前の日本では、女性は「子どもを生むための道具」と見なされ、生まれてくる子どもは夫=家長のもの、とされていました。そこから、たとえ妻を離婚したとしても、子どもは夫のもの、だから離婚した後に妊娠が分かったら、その子は夫が取り上げていいはずだと考えて、再婚禁止期間を設けた。それが、新しい民法にも残ってしまった、と思うのです。
「誰の子どもかはっきりさせるため」というのは、一見、理屈に合っているように見えますが、僕には、旧民法的発想を引きずった、女性差別の不合理な規定だと思います。
参考までに、民法の関連条項を掲げておきます。女性の再婚禁止規定が、第4篇第3章「親子」に置かれていない、ということも、この条項が「生まれてくる子どもの親が誰かはっきりさせる」ための規定でないことを示していると思います。
民法 第4篇「親族」 第2章「婚姻」
第733条(再婚禁止期間) 女は、前婚の解消又は取消しの日から6箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
民法 第4篇「親族」 第3章「親子」
第772条(嫡出の推定) 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
ピンバック: にのきんのぺーじ
私も同意見です。妊娠の有無については検査をすればわかることですから、6ヶ月間わざわざ法的に再婚禁止期間を設ける意味は全くないと思います。
また、離婚の際、主婦などは経済力も弱いわけですから、再婚ができるならば早ければ早いほどそのダメージは少ないでしょう。中高年女性で再婚に出産の機会を期待しているのであれば、6ヶ月のロスは大きいと思います。
女性の人生における「時間」を一方的に無視しており、不合理としかいえないですね。