話題の映画「ヒトラー?最期の12日間?」を見てきました(渋谷・シネマライズ)。実を言うと、日曜日(7/10)にも見に行ったのですが(シネマライズは、日曜最終回はいつでも1000円!)、満員・立ち見で、あきらめて帰ってきました。今日は、約8割のお客さんというところでしょうか。普段、シネマライズでは見かけないような年配のお客さんも見かけましたが、やっぱり圧倒的に多いのは若いお客さんでした。(今年18本目の映画)
さて、見た感想ですが、圧倒的としか言いようのない作品でした。とくに、これでもかこれでもかと描かれる、ソ連軍の砲撃を次々に打ち込まれていくベルリンの街の様子からは、本当に戦争というもののもつ残虐さ、残酷さが伝わってきます。
また、安全な地下壕の中で、最期の作戦指揮をとろうとするヒトラーには“狂気”すら感じさせられます。そして、ヒトラーを取り巻く将校連中は、みんな、帝国の「最期」を目前に、どこかでヒトラーに引導を渡さなければいけないと思っているにもかかわらず、裏切り者として処刑されることを恐れ最期まで忠誠を尽くそうとする者と、何とか脱出して生き延びることを考える者との間で、無駄な当てこすりやかけひきに時間が空費されていく…。そこには、「国民」を守ることなどまったく登場せず、ヒトラーの狂気は、そのまま「第三帝国」の狂気を示していると思いました。
その狂気を浮き彫りにしてくれるのは、1人の軍医の冷静な目と、狂信的なヒトラーユーゲントの少年です。(プログラムや公式ホームページでは、この2人の俳優が誰なのか書かれてないのが残念です)
しかし他方で、この映画では、ヒトラーとナチスが何をやったかは、まったく描かれません。映画は、主人公のユンゲがヒトラーの秘書に採用された1942年11月から、いきなりベルリン陥落目前の1945年4月20日に飛ぶので、その間に起こったことは、すっぽり抜け落ちています。
だから、ヒトラーとナチスが何をやったか知っている人には、この「最期の12日間」がヒトラーとナチズムの“狂気”の結末を描いていることが分かるのでしょうが、それを知らない人たちが見たとき、はたしてヒトラーがどんな人物にうつるのか、お客さんの多くを占めていた若い人たちが、この作品を見て、ヒトラーの人間性に感動したりしないか、とちょっと心配になりました。実際、公式ホームページのBBSには「ヒトラー好き必見の映画」などという書き込みがあったりします(僕には信じられないことですが)。
ところでユンゲは実在の女性で、戦争を生き延び、一時収容所に入れられたものの、責任は問われず、2002年に亡くなったそうです。昨年、彼女の手記『私はヒトラーの秘書だった』(草思社)が邦訳出版されています。映画のラストで、そのユンゲ本人が登場して、その当時のことを自分がどう考えていたか、その後どう考えるようになったか語っています。これがなければ、この映画は、まったくもってヒトラーの最期を描いただけで終わるところでした。しかし、彼女がみずからの経験したことの意味を語ることによって、ドイツ人自身の自己批判の作品となったように思いました。
いずれにせよ、必見の作品であることは間違いありません。
【作品情報】監督:オリヴァー・ヒルシュピーゲル/脚本:ベルント・アイヒンガー/撮影:ライナー・クラウスマン/出演:ブルーノ・ガンツ(ヒトラー)、アレクサンドラ・マリア・ララ(ユンゲ)、ユリアーネ・ケーラー(エヴァ・ブラウン)、トーマス・クレッチマン(ヘルマン・フェーゲライン=ヒムラーの副官)/2004年 ドイツ
>GAKUさん
私は昨年ドイツで観ました>映画。個人的に好印象な部分(って言うと、語弊ありますが)あまりスポット当てられなかったナチスの幹部たちがよりわかりやすく描かれていたことです。そのヘンに注目してしまいました…。日本語字幕はまだ観ていません。九州では来月公開されます。また観ようと思っています。
トラウデル・ユンゲは亡くなる前に、ドキュメンタリーフィルムで過去のことをインタビューで答えています。どうにかこちらも日本語字幕で観てみたいんですが…。
http://www.sonyclassics.com/blindspot/core/blindspot.html
>なおさん、こんにちは。
ドイツ語分かるんですか? うらやましいですねぇ?
ナチスの幹部についても、彼らが何をやったかを分かって見るならば、ヒムラーやゲッペルスの描き方など興味深いところがありますが、ゲッペルスが何者か知らない人が見たらどんなふうに感じるか、ちょっと恐ろしくなるところがあります。
それから、ユンゲのドキュメンタリーフィルムの情報、ありがとうございました。ドキュメンタリーそのものも見てみたいですね。ただし、私はドイツ語(いちおう大学で第2外語として勉強した筈なんですが)も英語もさっぱりなので、字幕がないとついて行けませんが…。
いえいえ、できないです>ドイツ語。もちろん英語もできません(涙)。ただ『私はヒトラーの秘書だった』を読んでいたし、そのドキュメンタリーフィルムも英語字幕で観た後(10%も理解してないんですけど)だったので、映像で感じただけのことです。
ドキュメンタリーフィルムはところどころしか理解してないんですが、気になる箇所がいくつかあって、当時ソニーピクチャーズに「日本公開の予定はないのか?」と問い合わせをしましたが、音沙汰ナシです。私は数年前NYに行った時に、たまたま映画祭やってて出品されたモノでした。Amazon.comでは買えるんですけど、英語字幕なんですよねぇ(悩)。
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