『エコノミスト』(毎日新聞社)8月2日号と『AERA』(朝日新聞社)7月25日号が、それぞれ靖国問題の特集記事を載せています。
どちらの特集でも、たとえばグアムで生存していた横井庄一さん(72年帰国)やフィリピン・ルバング島で「任務」を続けていた小野田寛郎さん(74年帰国)なども、戦死したものとされていたため、靖国神社の神様を記したものとされる「霊璽簿」に名前と戦死場所、日時などが記載されている、という興味深い事実が紹介されています。
ちなみに、この問題について、靖国神社側は「名簿に名前は載っていても、亡くなっていないから魂が来ていなかった。だから最初から合祀されてはいなかった」という立場をとっているそうです。「いちど名前を載せた以上、分祀はできない」という一方で、「名前は載っていても、合祀されていない」など、実に融通無碍な理屈ですねぇ…。
『エコノミスト』の特集タイトルは、「『靖国』の本質」。中身は以下の通り。
- 曖昧にされてきた「国家」と「神道」の癒着(高橋哲哉・東大教授)
- 歴代首相の対応 転機となった75、85年の「8月15日参拝」
- <A級戦犯合祀の意味>「国家弁護」の立場に立つ靖国神社(赤澤史郎・立命館大教授)
- <中国派なぜ反発するのか>A級戦犯の「名誉回復」への苛立ち
- <アメリカの見方>靖国参拝を表立って支持できない訳
- <国立追悼施設構想>「靖国神社の形骸化」を警戒する人々
赤澤氏の論文は、靖国神社が「戦後改革に強い被害者意識を抱いている団体である」と指摘。さらに、靖国神社の唱えるA級戦犯合祀の論理は、東京裁判全面否定論に立つもので、このような立場は、東京裁判で清瀬一郎弁護団長がとなえた「国家弁護」の立場と共通するが、実際の東京裁判では、すべての被告や弁護人がこの「国家弁護」の立場をとったわけではなかったことを紹介し、靖国神社の「東京裁判全面否定論」がけっして一般的なものでないことを明らかにしています。
また、A級戦犯について「昭和殉難者」という呼び方がされていますが、これはA級戦犯合祀の翌月に、A級戦犯、BC級戦犯あわせてそうと呼びならわすことにしたもので、それ以前はBC級戦犯は「戦犯死没者」と呼ばれていたこと、また、「殉難者」の呼称は、それまで幕末維新期の死者である「幕末維新殉難者」にしか用いられておらず、そのなかには病死した高杉晋作が含まれるように、死者への論功行賞の意味が強いことなども指摘されています。
ほかに、日本遺族会副会長の森田次夫・元参議院議員のインタビューなども紹介されています。また、下に紹介するように、『AERA』の特集が「靖国のカネ」問題をとりあげてますが、『エコノミスト』の特集でも「どんなお金で運営されているか」をカコミで紹介しています。ほかに、年間参拝者数が約500万人であること、1日当たりの参拝者数では、小泉首相が初めて参拝した2001年8月13日の翌々日の8月15日が12万5000人で一番多かったことが紹介されています。これで見るかぎり、首相の参拝が、靖国神社という特定の宗教団体へのテコ入れになったことは明白です。
『AERA』の方は、こういう中身。
- 「靖国のカネ」の実態
- A級戦犯「合祀」の謎――後世の「大問題」、決めたのはだれか
- いまさら聞けない・今こそ知りたい 靖国下世話にQ&A
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