岩波新書の新刊、興梠一郎氏の『中国激流 13億のゆくえ』を読み終えました。『現代中国 グローバル化のなかで』(岩波新書、2002年)に続く2冊目の本です。
著者は、序章「岐路に立つ改革」の最初の小見出しを「改革の臨界点」としていますが、“まさしくいままさに中国「改革」は臨界点にある”――つまり、爆発寸前のぎりぎりの状況に至っている。これが、本書をつらぬく著者の主張です。実際、爆発寸前のぎりぎりの様子が、中国各地の大小様々な事件によって、生々しく?描き出されています。
しかし、一読した印象では、「生々しい」はずの事件やデータが、実は2年前や3年前のものであったりするため、ちょっと混乱させられます。そのなかには、すでに中国の党や政府自身も、問題の深刻さを認識して、いろいろ対処し始めているものもある(そのこと自身は、著者も書いている)ので、いろいろな問題が噴出していること自体は分かっても、党や政府が、中国全体をどこへ導こうとしているのか、中国の「改革」自体をどこへ向けようとしているのかがわかりにくいという印象を受けました。変化の早い中国だけに、このあたりはもう少し整理してほしかったと思いました。
僕は、常々、日本人の書いた中国論は「脅威論」になるか「崩壊論」になるかバイアスがかかっていることが多いので、読むときは注意が必要だと思っています。そんななかで、前著『現代中国』は比較的バランスよく書かれていたと思ったのですが、今回は、著者自身が外国の中国論は楽観論すぎると指摘しているように、かなり「崩壊論」に傾いているように読めました。
中国が直面する困難がより大きくなっていることは、著者の指摘するとおりなのだと思うのですが、それでもやっぱり、中国共産党は一党独裁を手放すはずがない、「改革開放」がすすめば必ずそれと衝突する、というだけでは、リアルに今の中国をとらえたことにはならないのではないでしょうか。ラクダが通るには難しいような細い道かも知れないけれど、中国の党と政府が、今の事態にどう対応し、どこに打開の方向を求めようとしているのか、それをつかむことが、いまの中国を見る際に重要なポイントだと思います。
しかし、そうした問題をこえて、著者が、各種資料を博捜して明らかにした様々な「事件」は、現在の中国が直面する問題の深刻さを生々しく伝えてくれていることは確かです。
【書誌情報】著者:興梠一郎/書名:中国激流 13億のゆくえ/出版社:岩波書店(岩波新書 新赤版959)/出版:2005年7月/定価:本体780円+税/ISBN4-00-430959-x