とりあえず新聞報道の限りで。
- 自衛のための「自衛軍の保持」を明記。
- この「自衛」には「当然」のこととして、「集団的自衛権」が含まれるとされているので、日本が直接攻撃されていなくても、たとえば世界のどこかで米軍が作戦行動をはじめると、「自衛」の名のもとに「自衛軍」が米軍との共同作戦を開始できることになる。
- また、自衛軍が、「国際社会の平和及び安全の確保」のために「国際的に協調して行われる活動」に参加できるとの規定を設けているが、「国際的に協調して行われる活動」というのは国連決議に基くPKOとは違うことに注意。たとえばアメリカのイラク攻撃のようなものでも、英米が「協調」してやっている以上、「自衛軍」の参加が可能になる。(理論的いえば、アメリカと日本が「協調」しただけでも、自衛軍の派遣は可能になる?)
- ちなみに、ここに「諸国民の公正と信義に対する信頼に基づき恒久の国際平和を実現する」とか「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する」など、現在の前文にある規定が移されているが、これは、10月発表される前文を中曽根流の訳の分からん前文に変えるため。
- それから、「(3)自衛軍による活動は、わが国の法令並びに国際法規及び国際慣例を順守して行わなければならない。(4)自衛軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める」などの項目は、まったく無用の長物。これが憲法に書かれたからといって、「自衛軍」の行動をなんら制限することにならないことは明らか。こんな自明のことをわざわざ書くということは、かえって、自衛軍をつくろうという人たちが法令やら国際法を遵守する気があるのか疑わせるだけ。
- 「公益」や「公の秩序」を理由にして、国民の権利の乱用を戒める規定を設ける。何が「公益」か、何が「公の秩序」か定めがない以上、「公」(=政府)による広範な「私権」の制限に道を開きかねない。例えば、公共事業として道路計画が立てられると、自分の財産を守るために立ち退きに反対することさえできなくなる(「公益」に反するから)。「公の秩序」にさからってるとなったら、個人としても尊重されないし、生命・自由・幸福追求の権利もない。さらに、職業選択の自由はもちろん、居住の自由さえ認められなくなる。
- 政教分離の規定を緩め、国および地方自治体が、「社会的儀礼の範囲内」であれば、宗教的活動をしてもよいとする。小は各種工事の際の地鎮祭に始まり、大は靖国神社の国家護持やら伊勢神宮参拝、「大嘗祭」の国家行事化まで、やりたい放題。挙げ句の果てには、学校教育で神社参拝などということになりかねない。
- 憲法改正発議の条件を、各議院の3分の2以上から過半数に緩める。議院内閣制のもとでは、いつでも与党多数派が改憲を発議できることに。
「自衛軍保持」を明記 自民党改憲草案1次案
自民党新憲法起草委員会(委員長・森喜朗前首相)は1日午後、党本部で首相経験者らによる幹部会合を開き、自衛と国際貢献のための「自衛軍保持」を柱とする党憲法改正草案の1次案を提示した。全10章98条からなり、「国民の責務」を新設するなど公益を重視、個人の責任・義務を強調する内容となった。同党が条文形式で改憲案を示したのは初めて。起草委は3日に再度会合を開き意見を聴取する。前文は10月以降に起草、11月の結党50年大会で草案を示す方針だ。
焦点の9条改正案は、「平和主義の理念を将来にわたり堅持する」と定めた上で、「国家の平和および独立」確保のため自衛軍を保持すると明記。政府解釈で行使は認められないとされてきた集団的自衛権は、明文化しないものの「『自衛』の中に一切が含まれる」(起草委幹部)と行使を容認した。
また「国際社会の平和および安全の確保」のための国際貢献活動に自衛軍を使うことは可能とし、海外での武力行使に道を開く一方、国内法令や国際法規の順守も規定、国会承認の手続きを盛り込んで歯止めとした。自衛軍に対する首相の指揮権を明確化、下級裁判所としての「軍事裁判所」設置も打ち出した。
国民の権利および義務は現行憲法の内容をほぼ残し、国民は「公益および公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う」と記述。国と地方公共団体などに「社会的儀礼の範囲内」での宗教的活動を認め、政教分離を緩和した。天皇制は1条で象徴制維持を規定。衆院の解散は、天皇の国事行為としての「七条解散」を改め「内閣総理大臣が決定する」とした。
また地方自治では「地方自治の本旨」を「住民に身近な行政を自主的に実施すること」と明記。課税自主権など自治体の機能も強化。新たに「政党条項」を新設。最高裁裁判官の国民審査は残し、改憲発議要件は「各議院の総議員の過半数」に緩和した。
現行憲法(全11章103条)と対照できるよう各条文を並べたが、11章「補則」など計5条分を削除した。[中国新聞 ’05/8/1]
自民党憲法草案の要旨 起草委員会1次案
自民党新憲法起草委員会の改憲草案1次案の要旨は次の通り。
第1章 天皇
【天皇】第1条 天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。
【天皇の国事行為】第6条(2)天皇は、国民のために、次に掲げる国事に関する行為を行う。第54条第1項の決定に基づいて衆議院を解散すること。第2章 安全保障
【安全保障と平和主義】第9条 日本国民は、諸国民の公正と信義に対する信頼に基づき恒久の国際平和を実現するという平和主義の理念を崇高なものと認め、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する平和国家としての実績に係る国際的な信頼にこたえるため、この理念を将来にわたり堅持する。(2)前項の理念を踏まえ、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の武力の行使または武力による威嚇を永久に行わないこととする。(3)日本国民は、第1項の理念に基づき、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動に主体的かつ積極的に寄与するよう努めるものとする。
【自衛軍】第9条の2 侵略からわが国を防衛し、国家の平和及び独立並びに国民の安全を確保するため、自衛軍を保持する。(2)自衛軍は、自衛のために必要な限度での活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動並びにわが国の基本的な公共の秩序の維持のための活動を行うことができる。(3)自衛軍による活動は、わが国の法令並びに国際法規及び国際慣例を順守して行わなければならない。(4)自衛軍の組織及び運営に関する事項は、法律で定める。
【自衛軍の統制】第9条の3 自衛軍は、内閣総理大臣の指揮監督に服する。(2)前条第2項に定める自衛軍の活動については、事前に、時宜によっては事後に、法律の定めるところにより、国会の承認を受けなければならない。(3)前2項に定めるもののほか、自衛軍の統制に関し必要な事項は、法律で定める。第3章 国民の権利及び義務
【国民の責務】第12条 この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、保持しなければならない。国民は、これを乱用してはならないのであって、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚しつつ、常に公益及び公の秩序に反しないように自由を享受し、権利を行使する責務を負う。
【個人の尊重等】第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
【信教の自由】第20条 信教の自由は、何人に対しても保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、または政治上の権力を行使してはならない。(3)国及び公共団体は、社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、宗教教育その他の宗教的活動をしてはならない。
【職業選択等の自由】第22条 何人も、公益及び公の秩序に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
【財産権】第29条 財産権は、侵してはならない。(2)財産権の内容は、公益及び公の秩序に適合するように、法律で定める。
【住居等の不可侵】第35条 何人も、正当な理由に基づいて発せられ、かつ、捜索する場所及び押収する物を明示する令状によらなければ、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索または押収を受けない。ただし、前条第1項の規定により逮捕される場合(現行犯逮捕)は、この限りでない。(2)前項本文の規定による捜索または押収は、裁判官が発する各別の令状によって行う。第4章 国会
【常会】第52条 国会の常会は、毎年1回召集する。(2)常会の会期は、法律で定める。
【衆議院の解散、特別会及び参議院の緊急集会】第54条 衆議院の解散は、内閣総理大臣が決定する。
【表決及び定足数】第56条 (2)両議院の議決は、おのおのその総議員の3分の1以上の出席がなければすることができない。
【閣僚の議院出席の権利と義務】第63条 (2)内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁または説明のため議院から出席を求められたときは、職務の遂行上やむをえない事情がある場合を除き、出席しなければならない。
【政党】第64条の2 国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることにかんがみ、その活動の公明及び公正の確保並びにその健全な発展に努めなければならない。(2)政党の政治活動の自由は、制限してはならない。第5章 内閣
【内閣と行政権】第65条 行政権は、この憲法に特別の定めのある場合を除き、内閣に属する。
【内閣総理大臣の職務】第72条 内閣総理大臣は、行政各部を指揮監督し、その総合調整を行う。
【内閣の職務】第73条 内閣は、他の一般行政事務のほか、次に掲げる事務を行う。予算案及び法律案を作成して国会に提出すること。この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。ただし、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、義務を課し、または権利を制限する規定を設けることができない。第6章 司法
【裁判所と司法権】第76条 (3)軍事に関する裁判を行うため、法律の定めるところにより、下級裁判所として、軍事裁判所を設置する。
【最高裁判所の裁判官】第79条 (2)最高裁判所の裁判官は、その任命後、法律の定めるところにより、国民の審査を受けなければならない。
第7章 財政
【財政の基本原則】第83条 (2)財政の健全性の確保は、常に配慮されなければならない。
【公の財産の用途制限】第89条 公金その他の公の財産は、社会的儀礼の範囲内にある場合を除き、宗教上の組織もしくは団体の使用、便益もしくは維持のために支出し、またはその利用に供してはならない。(2)公金その他の公の財産は、国もしくは公共団体の監督が及ばない慈善、教育もしくは博愛の事業に対して支出し、またはその利用に供してはならない。
【決算の検査及び国会の承認】第90条 内閣は、国の収入支出の決算について、すべて毎年度会計検査院の検査を受け、法律の定めるところにより、次の年度に、その検査報告とともに国会に提出し、その承認を受けなければならない。第8章 地方自治
【地方自治の本旨】第91条の2 地方自治は、地域における住民に身近な行政を自主的、自立的かつ総合的に実施することを旨として、行われるものとする。
【地方自治体の役割等】第91条の3 地方自治体は、住民の福祉の増進を図るため、住民の協働を基本として、地域における行政を実施する役割及びそれらに係る責任を担う。(2)住民は、その属する地方自治体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を公正に分任する義務を負う。(3)住民は、その属する地方自治体の運営に参画するよう努めるものとする。
【国及び地方自治体の相互の協力】第91条の4 国及び地方自治体は、地方自治の本旨に基づき、適切な役割分担を踏まえて、相互に協力しなければならない。
【地方自治体の種類】第91条の5 地方自治体は、基礎地方自治体及び広域地方自治体とする。(2)地方自治における行政は、基礎地方自治体によることを基本とし、広域地方自治体は、これを補完する役割を担う。第9章 改正
第96条 この憲法の改正は、衆議院または参議院の議員の発議に基づき、各議院の総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票において、その過半数の賛成を必要とする。
第10章 最高法規(略)
(注)条文番号は参照の便宜のため現行憲法とそろえた。
[中国新聞 First upload: 8月1日20時53分]
ピンバック: のんだくれてすまん。