経済セミナー8月号が「日本は『格差社会』か」という特集を組んでいたので、ひさびさに買ってみました。
- 太田清「日本の経済格差は広がっているか」
- 大竹文雄「日本の所得格差のパズルを解く」
- 高林喜久生「『格差』とは何か」
- 佐藤俊樹「若年層と『目に見える』格差」
- 白波瀬佐和子「『みえる格差』と『みえない格差』」
結論から言ってしまえば、「特集」と銘打った割にはちょっと寂しい。佐藤俊樹氏などは、相当やけっぱちになって書いている感じがします。(^_^;) しかし、それでも日本が格差拡大社会になっていっていることは明らかです。
太田論文は、総務省統計局『就業構造基本調査」を使って、労働所得の個人間の格差を調べたもの。そこから、次のようなことを明らかにされています。
- 非正規雇用の拡大に伴って、20代や45歳以上で格差が拡大していること。
- 正規社員の間でも、若い層を中心に格差が拡大していること。
- パネルデータから、全体として「階層が固定化してきている」こと。
大竹論文は、所得格差の拡大は人口の高齢化(年齢階層別にみると、高齢者ほど、同一年齢階層内の格差が大きいため、社会全体が高齢化すると、結果として、社会全体の格差も拡大する)、あるいは単身世帯、2人世帯の増加(世帯別の所得格差を調べると、多人数世帯に比べ、世帯当たりの所得が低くなるので、単身世帯などが増えると、結果として、世帯間格差が拡大する)などによるものであることを指摘したもの。大竹氏は、もともとこういう立場から、橘木俊詔『日本の経済格差』(岩波新書、1998年)などに始まった「格差社会」論にたいして反対論をくりひろげた一人。今回の論文では、それにもかかわらず国民の多くが「格差拡大感」を持っていることについて、独自のアンケート調査から、「過去に生じた所得格差の拡大より、将来の所得格差拡大予想をもつものが多い」ことから、「統計上の所得格差拡大よりも不平等感をもつものが増加した原因」だと論じています。所得格差の拡大は、人口の高齢化や単身世帯等の増加によるものだという大竹氏の議論は、すでに太田論文で論破されているので、それは無視しして、ここでは後者の分析に注目しておきましょう。なぜ将来の所得格差拡大を予想する人が多いのか、その原因を明らかにしてほしいものです。
高林論文は、分散や標準偏差の計算の仕方を説明しただけで、基礎的だけれどもこれといった中身があるわけではないので省略。
佐藤論文を読むと、佐藤氏が“何をいまさら、日本は「格差社会」かどうかを議論しなきゃいけないんだ、そんな自明なことを事新しげに論じるんだ、そんな議論をする気にもなれない”と、うんざりしている様子が目に浮かんできそうです。(^_^;)
しかしそれは脇に置いて、社会学で「格差」や「不平等」という場合、何を基準にして格差を論じるかという問題を佐藤氏が論じているのがとても興味深かったです。つまり、当事者が「ほんらいこれだけ得られるはず」と考えている期待水準と現実水準との格差が問題だというのです。で、若年層はというと、自分たちの親の世代を見て、「あれくらいは…」という期待水準を持つ訳で、その点で言えば、10年ごとにおこなわれている「社会階層と社会移動」全国調査(SSM調査)から、ここ30年ぐらいで親世代と若年層の格差は開きつつあることがすでに明らかになっていると言います。したがって、若年層の格差感は大きくなっているのです。
最後の白波瀬論文は、そのSSM調査を使って、管理職、事務職、自営業、農業、熟練ブルーカラー、非熟練ブルーカラーなどの階層に分けて、階層間・階層内の格差の拡大を論じています。
あと同月号で面白かったのは、原田泰、阿部一知「なぜ就業率が低下したのか」という論文。最近、失業率が下がった、下がったといわれるけれど、全体としてみると、就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)が下がっていることについて、統計学的に分析したもの。途中の解釈を省くと、1997?2002年の5年間で、男女合わせて就業者が226万人減ったうち、景気循環要因のマイナスは83万人、ミスマッチによる失業者が57万人、トレンド(女性の就業者が増加傾向にあることなど)では逆に7万人増になるはずで、差し引き133万人分が、就業人口減少要因からは説明がつかないことが明らかにされています。つまり、「就業者の減少を説明し切れていないのは、企業が説明変数の変化以上に雇用を減少させる何らかの事情がこの時期に発生したこと」などによるというのです。著者はそれ以上断言してませんが、要するに、この時期に133万人が「過剰」に企業によって人員整理されたということです。
就業者が減少しているというと、少子化・高齢化により、定年でリタイヤする人が増えているのにたいし新卒就業者は減っているからだと思われるかも知れません。しかし同論文は、人口変化要因によるトレンドとしては、団塊ジュニア世代(とくに30?34歳)の増加があって、この時期には男性の就業人口は52万人増、女性は5万人減となっていたはずだと指摘されています。それも含めると、この間に就業者は、もっと減少していたということになります。