郵政民営化への批判

今日の「毎日新聞」の論点「『小泉政治』どう評価」で、京都大学の佐伯啓思教授が、郵政民営化について次のように書かれています。

 たとえば、350兆円にのぼる郵貯の資金を「民」に流し、市場競争にさらせばどうなるか。政府は、これを市場に供給することでいっそう効率的な運営が可能になる、という。しかし、現状で、市場が望ましい結果をもたらすという理由はどこにもない。特に、今日のグローバル化した金融経済においては、これらの資金は海外に流出する可能性は高く、また国内においては資金の過剰供給によって金融市場の混乱は避けがたい。(「毎日新聞」2005年8月27日朝刊6面)

 小泉改革の経済的な意味は、一言でいえば、日本経済をグローバルな競争市場へと結びつけ、アメリカ型の競争市場へと変質させようというものであった。90年代の「構造改革」は、それがアメリカからの要請として始められたように、日本経済を、展望のないままに、アメリカ主導のグローバル経済へと投げこむものであった。そして、このことは、アメリカの経済的覇権主義と中国経済の台頭という現実のなかで、この両者にはさまれた日本経済を大きな混乱に陥れている。人口減少のもとで低成長経済へ移行せざるを得ない日本にとっては、アメリカとも中国とも異なった将来の社会像を描き出すことこそが緊急の課題なのであり、その意味では、小泉改革は、本来の仕事を放棄しているというほかなかろう。(同前)

佐伯啓思氏というと、どちらかというと保守的で、改革賛成のイメージだったのですが、この指摘は、さすが経済学研究者という見識あるもの。郵政民営化で350兆円のお金が湧いてでて、景気が良くなるかのような自民党政権公約のノーテンキぶりを真正面から批判しています。

小泉改革の展望のなさ、日本にいま求められている将来の社会像は何か、総選挙でぜひともじっくり考えたい論点です。

郵政以外だって、大事な争点はたくさんある(1)

郵政民営化に賛成か反対かだけがクローズアップされていますが、こんどの総選挙は、ほかにもっと大事な争点があります。その第1は、憲法改正問題。自民党は、すでに新憲法草案第1次案を発表し、11月の党大会で新憲法案を発表します。民主党も、来年には改正案をまとめる予定。そうなると、こんどの総選挙で選ばれた議員によって、国民投票の発議がおこなわれることになります。

だから、各党が憲法、とりわけ憲法9条について、これを守るのか、それともどう変えようとしているのか、きちんと見定めておくことが大切です。

自民党
第2章「戦争の放棄」の章題を削除。自衛軍の保持を明記。自衛軍は、「国際社会の平和及び安全の確保のために国際的に協調して行われる活動」に参加する。(「新憲法草案第1次案」8月1日)
民主党
自衛権を憲法上明確に位置づける。国連主導の集団安全保障活動への参加を明確に規定する。(「民主党『憲法提言』の策定に向けて」4月25日)
公明党
憲法第9条第1項、第2項を堅持した上で、自衛隊の存在や国際貢献等について、「加憲」の論議の対象として検討する。(公明党マニフェスト)
共産党
憲法に自衛権を明記することは、日本を「海外で戦争する国」に変質させるもの。憲法改悪に反対する全ての人々と力を合わせ、憲法をまもりぬく。(選挙公約)
社民党
憲法の理念を現実に生かす。憲法改悪につながる国民投票法案には反対。(選挙公約)

郵政民営化 民主党のホンネは

民主党は、郵政民営化について、今年4月7日に経団連本部で日本経団連と懇談したとき、「本筋は縮小・廃止」と言っていました。

五十嵐文彦ネクスト総務大臣
郵政改革の金融事業の民営化は、能力のない民間金融機関を作り、不良債権を生み出すことにつながる。本筋は縮小・廃止であり、決して民営化ではない。金融事業を縮小し、その後ナローバンクをつくるか、廃止するかは、後で選択すればよい。

日本経団連と民主党との懇談の様子は、日本経団連が公表しています。→日本経団連:民主党と政策を語る会 (2005-04-07)

ちなみにこの懇談会は、日本経団連の政策評価のために開かれているもの。日本経団連は、政策評価にもとづいて、会員企業に政党への政治献金の斡旋をおこなうことになっています。

この議事録からは、他にも、いろいろと民主党のホンネが見えてきます。

【消費税について】
民主党は、いわゆる「財政再建プラン」で、第1期(政権獲得後3ないし4年以内)に、年金目的消費税(現行5%に3%分を年金目的として上乗せする)を導入することを明らかにしています。しかし、この懇談会では、それだけでなく、その後について「年金目的以外の使途についても今後考えたい」(野田佳彦ネクスト財務大臣)と発言しています。つまり、政権獲得後3ないし4年目以降に、大幅な消費税増税もありうるというのです。

【憲法9条について】
総選挙のマニフェストでは、「憲法の空洞化」を克服し「国家権力の恣意的解釈を許さず、立憲主義を基本に据えた、より確かな憲法の姿を追求していきます」「民主党は、過去ではなく、未来に向かって創造的な議論を推し進め、日本国憲法が高く掲げる『国民主権』『基本的人権の尊重』『平和主義』の3つの基本原則をさらに深化・発展させます」としか書かれていません。
しかし、懇談会では、「専守防衛のための自衛隊を憲法上明確化し、国際協調主義により国連の枠組みの下で実力行使的行動にも関与することを書き込みたい」(仙谷政調会長)と発言。憲法9条の戦力保持の禁止を否定して自衛隊を明記するだけでなく、海外での「実力行使的行動」――早い話が戦闘行為――もできるようにするということです。
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