公調委の存在理由が問われる裁定

諫早湾干拓事業で、公害等調整委員会(公調委)が、漁業者側の申請を却下する裁定を下しました。

しかし実は、3日前に、調査を依頼された専門委員らが、潮受け堤防の閉め切りと諫早湾の赤潮発生、ノリ不作との因果関係を強く示唆した報告書が出されていました。つまり、専門委員から因果関係が強く示唆されていたにもかかわらず、漁業者側の申請を棄却した訳で、公調委の存在理由そのものが問われる裁定と言わざるを得ません。

事実、公調委の棄却理由は「漁業被害と干拓事業の因果関係を、高度のがい然性をもって肯定するに至らなかった」という苦しいもの。しかし、誰が見たってはっきりしているほど「高い蓋然性」があるときしか裁定を下さないような機関なら、そんな機関にわざわざ専門調査を申し立てる必要もないはず。公調委は、自身の無用・無能ぶりを、自ら証明したと言われても仕方ないでしょう。

諫早湾干拓事業で被害、漁業者側申請を棄却 公調委裁定(読売新聞)
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党首討論会にたいする識者のコメント

東大の松原隆一郎氏は、「朝日新聞」で、「野党は対立軸鮮明に」と題して、次のようにコメントしています。

 新自由主義こそ小泉首相の掲げる理念。それがはっきりした。市場化を進め、大企業や大銀行中心の世界を目指している。郵政事業は道路公団と異なり、国民の間に「公共財」という意識があると思う。……
 一方の野党だが、首相が唱えた「市場化万能論」は米国にも、経済学者にも支持者が多く、強い対立軸をうちださないと対抗できない。……この点、岡田代表の描く理念はよくわからない。大企業をある程度規制した市場競争主義を目指しているようだが、福祉も強調した。「市場を生かすための最低限の公共財」という位置づけならばわかりやすいが、政策ごとの理念がばらばらだ。強い「自由党」になった小泉自民党に対抗できなかった。
 むしろ、郵政民営化反対論は「大銀行のためだけにやっている」と単純化した志位委員長の主張に説得力があった。共産党の主張は昔と変わっていないが、かつて中間層にも配慮した自民党の政策が、大資本に傾き始めたからだ。ただ、安全保障に関する議論が弱いため、全体的に説得力が落ちてしまった。(「朝日新聞」8月30日付4面)

安全保障問題はさておき、小泉政治が大企業・大銀行中心の政治であると、ずばり指摘されたことは大賛成。

この点では、同じ「朝日新聞」の「9・11総選挙なにが論点」で、阪大の堤修三氏が、「給付の削減は社会基盤崩す」として次のように指摘されているのが、松原氏の指摘と噛み合って興味深い。

 実は、国民負担率が上がると経済成長に悪影響をおよぼすという学問的な証拠はない。徹底的に無駄を省いたとしても、少子高齢化で給付の増大は避けられない。無理やり経済成長の範囲内に抑えれば、社会保障の機能は限度を超えて損なわれ、社会の安定と統合が危うくなる。
 ……払った分に応じて給付の見返りがある保険料は、税とは違って、本来国民負担として単純に合計できないはず。

もう1つ、松原氏のコメントで注目したのは、小泉首相の政治手法を批判したこのくだり。
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