東大の松原隆一郎氏は、「朝日新聞」で、「野党は対立軸鮮明に」と題して、次のようにコメントしています。
新自由主義こそ小泉首相の掲げる理念。それがはっきりした。市場化を進め、大企業や大銀行中心の世界を目指している。郵政事業は道路公団と異なり、国民の間に「公共財」という意識があると思う。……
一方の野党だが、首相が唱えた「市場化万能論」は米国にも、経済学者にも支持者が多く、強い対立軸をうちださないと対抗できない。……この点、岡田代表の描く理念はよくわからない。大企業をある程度規制した市場競争主義を目指しているようだが、福祉も強調した。「市場を生かすための最低限の公共財」という位置づけならばわかりやすいが、政策ごとの理念がばらばらだ。強い「自由党」になった小泉自民党に対抗できなかった。
むしろ、郵政民営化反対論は「大銀行のためだけにやっている」と単純化した志位委員長の主張に説得力があった。共産党の主張は昔と変わっていないが、かつて中間層にも配慮した自民党の政策が、大資本に傾き始めたからだ。ただ、安全保障に関する議論が弱いため、全体的に説得力が落ちてしまった。(「朝日新聞」8月30日付4面)
安全保障問題はさておき、小泉政治が大企業・大銀行中心の政治であると、ずばり指摘されたことは大賛成。
この点では、同じ「朝日新聞」の「9・11総選挙なにが論点」で、阪大の堤修三氏が、「給付の削減は社会基盤崩す」として次のように指摘されているのが、松原氏の指摘と噛み合って興味深い。
実は、国民負担率が上がると経済成長に悪影響をおよぼすという学問的な証拠はない。徹底的に無駄を省いたとしても、少子高齢化で給付の増大は避けられない。無理やり経済成長の範囲内に抑えれば、社会保障の機能は限度を超えて損なわれ、社会の安定と統合が危うくなる。
……払った分に応じて給付の見返りがある保険料は、税とは違って、本来国民負担として単純に合計できないはず。
もう1つ、松原氏のコメントで注目したのは、小泉首相の政治手法を批判したこのくだり。
政治手法も問題だ。首相は郵政以外の問題は、すべて審議会などに丸投げする姿勢を示した。だが、正当性がはっきりしない審議会を重用し、議会は反対すれば解散するという。永田町が政策に関与しなくなった分、どこで決めているのか、という疑問がわいた。
「正当性がはっきりしない」というのは、国会なら選挙で選ばれた議員だという正当性があるのにたいし、政府の審議会の委員は、いちおう国会で人事案件の承認が行なわれるとはいえ、平たくいえば政府が勝手に人選しているわけで、「選挙で選ばれた」というような正当性はないということ。小泉政権になって、自民党の政策関与の比重が軽くなってしまったことは間違いない。
で、「永田町が関与しなくなった」政策の意思決定は、どこでやられているのか? 結論から言えば、これが、小泉政権のやることが、大企業・大銀行直結政治だといわれる所以で、財界・大企業とのツー・カーで、よりストレートに政策的な意志決定がやられるようになったといえるのではないでしょうか。
毎年「骨太方針」を出している経済財政諮問会議には、民間議員として、奥田碩・日本経団連会長と牛尾治朗・経済同友会終身特別顧問がくわわっているし、もともと同諮問会議は「民間有識者の意見を政策形成に反映させつつ、内閣総理大臣がそのリーダーシップを十分に発揮することを目的」にして設置されたもの。日本経団連の政策提言と経済財政諮問会議の「骨太方針」と小泉首相の政策・施策を3つ並べてみると、小泉政治の正体が非常によくわかると思います。
ピンバック: 【借用書の達人】
ピンバック: 本質追求本部