佐川急便が、労働者派遣法違反の「偽装請負」で厚労省から指導を受けていました。取引業者に集配業務をやらせるときに、業務委託の形をとって従業員を出させておきながら、実際には、佐川急便が、それら従業員に直接指揮・命令を出していたということです。
業務請負の場合は、業務を一括して請け負わせているのだから、従業員にどういうふうに仕事をさせるかは、請負元の業者が決定し従業員に指示します。佐川急便が直接従業員に指示を出してはいけないのです。で、佐川急便の側で指示を出して、その指示に従って働かせたい場合は、労働者派遣を受けなければなりません。
派遣の場合は、佐川急便の側に従業員の労働時間の管理義務や労災防止の責任が生じます。しかし、業務請負にすれば、従業員と雇用関係にないので、労災が起きても保障する必要もないし、労働時間を管理する義務もありません。そこで、業務請負の形をとっておきながら、実際には、現場で直接業務上の指示を出すなどということが横行するわけです。これが「偽装請負」といわれるものです。
「下請け」実は「派遣」、佐川急便が偽装請負
宅配便大手「佐川急便」(本社・京都市)が荷物の集配業務で、実際には取引業者から労働者の派遣を受けていたにもかかわらず、業務委託の形で下請けに出したように偽装した契約を結んでいたとして、厚生労働省から労働者派遣法に基づく是正指導を受けていたことが、22日わかった。
こうした契約は「偽装請負」と呼ばれ、発注側には人件費削減などのメリットがある一方、労務管理の責任があいまいになることから同法で禁じられている。厚労省の調べでは、偽装請負は、同社の全国259か所の配送センターで行われていた。大手企業による全国規模の偽装請負が明らかになったのは異例。
同社の偽装請負が発覚したのは昨年8月。
同社の関東支社(東京)は、東京都杉並区の配送センターの集配業務を人材派遣会社など取引業者数社に「委託する」という契約を結んでいた。しかし実際には、関東支社から割り振られた人数の従業員を、取引業者が配送センターに派遣していたことが、東京労働局の調べでわかった。
業務委託の場合、現場で働く従業員は取引業者の指揮・命令を受けて働く。しかし配送センターでは、従業員は佐川急便の指揮・命令を受けて働いており、東京労働局は業務委託を装った労働者派遣だったと判断した。
こうした偽装請負が行われると、労働基準法や労働安全衛生法に定められている労務管理や労災発生時の責任が、佐川急便側にあるのか取引業者側にあるのかがあいまいになる恐れがあり、労働者派遣法で禁じられている。このため東京労働局は佐川急便に対し、偽装請負を解消するよう指導した。
また、同労働局などが同社に対し、全国333か所の配送センターについて契約状況を調査するよう要請。今年2月に同社がまとめた調査結果によると、259か所の配送センターで偽装請負が行われていた。
これらの偽装請負は、労働者派遣法が施行された1986年当初から、約20年にわたって続いていたといい、同社は先月、本社を管轄する京都労働局に「改善計画書」を提出した。
ただ、関係者によると、現在も都内の配送センターの一部では、偽装請負状態が解消されていないという。
厚労省の是正指導について佐川急便は、「長年、労働者派遣法に抵触していることに気付かなかった。今後、同様の指摘を受けないようにしたい」と話している。◆コスト増嫌う?◆
厚労省などによると、景気低迷の影響で近年、正社員の代わりに派遣社員に業務を行ってもらう企業が増えている。しかし労働者派遣契約を結ぶと、派遣社員の就業時間の管理や、安全衛生面での管理を正社員並みに行わなければならず、新たに安全管理者や衛生管理者などを置かなければならない。
こうしたコストを嫌って、偽装請負を行っている企業も多く、昨年度、全国の労働局が偽装請負について行った是正指導は1024件に上っている。
労働者派遣法では、偽装請負で従業員を受け入れていた企業に対し、厚労省が是正指導を行う。改善されない場合は勧告を行い、それでも従わない場合は、企業名や経緯の公表措置が講じられる。
一方、派遣した側の業者は、従業員の雇用形態によって異なるが、指導や改善命令などに従わない場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる。[2005年9月22日14時43分 読売新聞]
新聞折り込み求人などで、「仕事は、○○(大手企業)の工場での組み立て作業です」なんていって募集しておいて、じつは「業務請負」だった、などという詐欺まがいの求人がありますが、そのさい、現場で企業側から直接指示を受ければ、完全な「偽装請負」になります。そんなときは、労働基準監督署に相談しましょう。