山中恒さんの『アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか』(岩波書店)をようやく読み終えました。全体で600ページを超える大著ですが、はまりこんで夢中になって読み進めることができました。
本書が対象としているのは、主要には、1931年の「満洲事変」から1945年の敗戦までのいわゆる15年戦争ですが、話は、明治維新直後の「国軍の創設」から始まり、日清・日露戦争から、孫文の辛亥革命、そして1914年の「対華21カ条条約」と、明治以来の日本の朝鮮・中国侵攻の歴史全体に及んでいます。
参考までに、目次から章題をかかげると
- 第1章 日清・日露戦争
- 第2章 辛亥革命
- 第3章 21カ条条約
- 第4章 満洲事変前夜
- 第5章 満洲事変
- 第6章 満洲事変と国際連盟
- 第7章 満洲国がもたらしたもの
- 第8章 中国幣制改革
- 第9章 暴走する軍部
- 第10章 河北分離工作と抗日運動
- 第11章 盧溝橋事件
- 第12章 聯銀券と北支開発
- 第13章 天津租界問題とノモンハン事件
- 第14章 東亜新秩序建設
- 第15章 日独伊三国同盟
- 第16章 松岡外相とハルノート
- 第17章 太平洋戦争
- 第18章 敗北への急傾斜
- 第19章 降伏・敗戦
目次からも分かるように、たんに日本側の戦争の動きを追ったのではなく、辛亥革命いらいの中国側の動き(その中には、蒋介石が対共産党の思惑から抗日を渋ったといったことがらも含まれる)や、幣制改革など経済問題が詳しく取り上げられているので、日本の軍部がこうした中国の動きを理解しようとせず、自分勝手な要求を中国に押しつけていったかがよく分かります。
また、満洲事変→河北分離工作→盧溝橋事件→中国への全面的な侵略とその泥沼化→対米開戦へ、というように節目となる事件を中心に展開していっているので、侵略戦争の大きな流れがつかめるようになっています。
さらに、要所要所で、1943年の国民学校教科書『初等科国史』が、あの時代に、たとえば満洲事変をどう書いていたか、盧溝橋事件をどう描いていたかが取り上げられています。それを読むと、昨今の「つくる会」や靖国史観派の主張が、あの時代の主張と少しも変わっておらず、時代錯誤もいいところだということがよく分かります。
ほかにも、当時の軍部の見解や政府の声明、雑誌や新聞の記事などもふんだんに取り上げられていて、このあたりは、『ボクラ少国民』シリーズを発表された山中氏ならではの、いい意味での“読み物”になっていると思います。
アジア・太平洋戦争の歴史について、これからよく勉強したいという人には、是非お薦めします。
【書誌情報】書名:アジア・太平洋戦争史――同時代人はどう見ていたか/著者:山中恒/出版社:岩波書店/出版年:2005年7月28日/定価:本体4000円+税/ISBN4-00-022029-2
はじめまして。最近、ここを見始めました。すっごい勉強になります! 前から、あの戦争の歴史を、ちゃんと学びたいなと思っていて、本屋さんでもこの本を手にしてパラパラ立ち読みしていたので、すごく参考になりました。侵略戦争を歴史的事実を押さえつつ、侵略される側の動向に目を配りながら学ぶってすごく大切ですよね。ついつい、日本人の視点から考えがちですから。ぜひ、入手して読んでみたいと思います。