自民・公明は、衆議院に憲法特別委の設置を強行し、憲法改正に向けて「国民投票法案」の審議を開始するとしています。前に「愛媛新聞」の社説を紹介しましたが、ほかにも慎重審議を求める社説がいろいろ出されているので、集めてみました。
改憲派が鬼の首を取ったかのようにもちだす「立法不作為」論について、北海道新聞は「これまで国民投票法がないために改憲ができなかったわけではない。国民の間に『改憲の必要はない』という共通認識があったからだろう」とずばり批判しています。河北新報の社説は、国民投票の手続きを定める法律は必要だという前提に立つものですが、「国民投票運動や報道の在り方は最大限に自由でなければならない。首長選や議員選とは全く異なる。公選法の規定に準じて規制することなどは論外と言うしかない」という指摘は、問題の本質をずばり指摘したものといえます。
国民投票法案*なにも急ぐことはない(北海道新聞 10/10)
国民投票法案/「報道の自由」が大前提だ(神戸新聞 10/7)
国民投票法案 腰を据え丁寧な論議望む(熊本日日新聞 10/7)
国民投票法案・本質部分の論議が先だ(琉球新報 10/3)
憲法特別委/国民投票法案は先走らずに(河北新報 10/3)
拙速な審議は願い下げだ 国民投票法案(西日本新聞 9/25)
社説 国民投票法案*なにも急ぐことはない(北海道新聞 10/10)
護憲派は守旧派だ、とでもいわれかねない雰囲気が漂いだしている。憲法改正手続きを定める国民投票法案の審議が、衆院の憲法調査特別委員会で始まった。
国民投票法の論議は、改憲を進めることとは別問題であることをまず確認しておきたい。「改憲ありき」で法を整備するわけではないのだ。
与党と民主党は既にそれぞれ国民投票法の素案をまとめているが、重要な部分でいくつも深い溝がある。与党案には、メディア規制という民主主義の根幹にかかわる重大な問題もある。
議論の時間を惜しんではいけない。急ぐことはないのだ。
憲法九六条は、改憲には国民の過半数の賛成が必要――と定めている。
特別委はそのための国民投票法案を審議する場として設けられた。自民党は常設の常任委にしたかったが、一気に改憲の発議にまで走りかねないと懸念する民主党や公明党が反対し、会期ごとに設置する特別委になった。
当然だろう。憲法は国の基本法である。そこに手を入れる必要があるかどうかは、あらためて慎重に議論しなければならない。いまはまだ国民投票のあり方をじっくり話し合う段階だ。
例えば投票権者を二十歳以上とするか、十八歳以上とするか、改憲案全体を一括して国民投票に付すか、条文ごとに賛否を問うかなど、与党案と民主党案で意見が割れている問題は多い。
与党案に盛り込まれたメディア規制は、投票予想の公表や偏った報道などを禁じるものだ。
国の基本法を変えることの是非を問う国民投票の実施に際して、報道や言論の自由が保障されることは極めて重要である。それを封じ込めかねない規制はあってはならない。
特別委の初日の論議では自民、民主両党の委員が来年の通常国会を視野におき、声をそろえて国民投票法の早期制定を訴えた。
自民党の委員は、法の整備をしてこなかったのは「最大の立法の不作為」とまでいった。本当にそうだろうか。不作為とは「当然しなければならないことをわざとしないで済ます」(新明解国語辞典)ことだ。
これまで国民投票法がないために改憲ができなかったわけではない。国民の間に「改憲の必要はない」という共通認識があったからだろう。
そもそも、ここしばらく国会で改憲の熱気は薄れていた。衆院選でもほとんど争点にはなっていない。
案じられていたことではあるが、いま自民党内には、衆院選に圧勝した勢いで改憲も、というムードが出ている。民主党の代表に改憲に前向きな前原誠司氏が就いたことも拍車をかけた。
国民投票法制定はそうした流れの中で進められようとしている。ここはひと呼吸おいて冷静に考えるべきだ。[北海道新聞 2005/10/10]
社説 国民投票法案/「報道の自由」が大前提だ(神戸新聞 10/7)
この特別国会に設置された衆院憲法調査特別委員会が、きのう初めて開かれた。憲法改正のための手続きを定める国民投票法案の策定について検討するのが目的だ。
実は、過去にも国民投票法案が国会に提出されかかったことがある。吉田内閣時代の一九五三年のことで、当時の自治庁が法案を作成し閣議にかけたが、反対意見が多く見送った。
そのころに比べ、憲法改正に対する国会の空気は大きく変わった。今年五月には衆参の憲法調査会が最終報告を提出し、一応改憲の方向を打ち出したのをはじめ、今秋に結党五十年を迎える自民党は憲法改正草案を準備しているし、民主党も前原誠司代表が改正に前向きな姿勢をみせている。そんな中での議論スタートである。憲法改正問題は「新たな段階に入った」とみるべきなのだろう。
憲法九六条は、衆参両院の総議員の三分の二以上の賛成で改正を発議し、国民に提案して、「この承認には特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票において、その過半数の賛成を必要とする」と規定している。
それなのに、具体的な手続きルールがないのはおかしい、というのが自民党などの主張だ。民主党も基本的には変わらない。しかし、これまでの議論の中には懸念せざるを得ない内容が含まれていることを指摘しておかなければならない。
その代表格は「メディア規制」である。昨年十二月に自民、公明両党が与党協議で合意した法案骨格には、新聞・雑誌の不法利用の制限、虚偽報道の禁止、予想投票の公表禁止―が盛り込まれている。
不法利用とは「新聞・雑誌の編集局長や経営者、大株主らが地位を利用して、国民投票の結果に影響を及ぼす目的で報道したり、報道させる」ことだそうだ。虚偽報道の中には「事実をゆがめて報道すること」も含まれている。これでは、いくらでも拡大解釈ができ、都合の悪い報道はすべて規制できることになる。
憲法は国の基本法である。国民は自由に多様な情報を得て、判断することを保障されなければならない。民主主義の大原則を踏みにじる規制は論外である。
投票資格を何歳からにするか、投票を一括方式にするか条文ごとの個別方式にするか、過半数の定義など、論点は多い。自民党は年内にまとめ、来年の通常国会に法案提出を主張しているが、改正ありきの拙速審議では国民の納得は得られないだろう。まずはメディア規制を削除することだ。[神戸新聞 2005/10/07]
社説 国民投票法案 腰を据え丁寧な論議望む(熊本日日新聞 10/7)
衆院憲法調査特別委員会の国民投票法案に関する論議が六日スタートした。
憲法論議が、改正手続きの具体的検討という新しい段階に入ったことを意味するのは事実だが、初日の各党見解を聞くまでもなく、すべてはこれからである。単なる改正の手続きではなく、国民が憲法問題にどうかかわっていくのか、根幹に相当するテーマであり、まずは腰を据えた丁寧な論議を求めておく。
憲法九六条では、改正手続きについて「衆参両院議員の各三分の二以上の賛成で国会が発議し、国民に提案して承認を経なければならない。その承認には国民投票などで過半数の賛成が必要」と定めているが、国民投票に関する具体的な規定はない。
このため、与党は昨年十一月に法案の骨格をまとめ、先の通常国会への提案を目指したが断念。今特別国会も見送って来年の通常国会で成立させたい意向だ。
ただ、国会論議は始まったばかりだ。六日の各党見解でも、制定に賛成する自民、公明、民主、国民新党と「急ぐべきではない」と表明した共産、社民との違いが際立ったが、内容についても精査すべき課題は少なくない。
与党案の骨格などをもとに論点を整理すると、まず投票権者の年齢である。与党案では二十歳以上の国政選挙の有権者としているが、民主党は十八歳以上を検討課題にしている。「過半数」のとらえ方も議論のあるところだ。「有効投票数の過半数」に対し、「全投票権者の過半数」といった別の意見もある。
また、改正事項が複数の場合、一括して投票にかける「一括方式」か条文ごとに問う「個別方式」か、この投票方式の在り方もおろそかにできない。与党案では発議の際に別の法律で規定するとなっており、「一括も個別も可能」という考え方のようだが、個人でもテーマによって賛否が異なる場合がある。そこを想定しない一括方式なら、問題ありと言わざるを得ない。
メディア規制の問題も大きな論点だ。与党案では(1)虚偽報道(2)予想投票の結果公表(3)買収されての報道などを禁止している。もちろん、虚偽報道などは許されるものではないが、報道に関する是非判断は原則的にメディア側に委ねられるべきだ。多種多様な情報を提供していくという責務もあり、正当な言論活動が損なわれることがあってはならない。
国民投票法案の原点は、国民の意思がきちんと反映される制度にすること、この一点に尽きる。[熊本日日新聞 2005/10/7]
社説 国民投票法案・本質部分の論議が先だ(琉球新報 10/3)
国会で憲法改正に向けた動きが一段と加速している。9月下旬に設置されたばかりの衆院憲法調査特別委員会(中山太郎委員長)は6日から、憲法改正のための国民投票法案をめぐる参考人質疑を行い、論議を始める方針だ。
自民、公明両党は、論議を踏まえて民主党も交えた3党で法案をとりまとめ、来年の通常国会に提出、成立させたい考えだが、与党案には問題点が多く、拙速な論議にならないよう求めたい。
そもそも、国民投票法の与党案は「憲法改正ありき」の性格が色濃く、国民の意思を正しく反映するような中身になっていない―との指摘が少なくない。
国家の根本原則を規定した法を変えることの是非を、国民に直接問うという極めて重大な事案なのに、国民投票の方式は「改憲発議の都度決める」とし、発議から投票までの期間も「30―90日」と短い。さらに予想投票の公表禁止などメディア規制を敷き、いわゆる官製報道で改正実現にこぎ着けたい意図がありありだ。
確かに、小泉連立政権は衆院選で3分の2を超える議席を獲得、衆参両院の3分の2以上の賛成で国会が憲法改正を発議できる環境が整いつつある。野党第一党の民主党も改憲の方向であり、そう遠くない時期に改正法案が提出される可能性は否定できない。
しかし、先の衆院選は小泉純一郎首相自ら「郵政民営化選挙」と位置付けたように、最大の争点は郵政民営化の是非であり、憲法論議などは不十分であった。本紙加盟の共同通信社が1日に開いた第三者機関「報道と読者」委員会では、外部識者から「隠された争点、もみ消された争点をえぐり出せなかったか」と指摘された。
本紙は選挙戦で憲法論議にも力を入れたし、争点の一つに据えたつもりだが、指摘は重く受けたいと思う。全国的にみれば、郵政民営化でそれこそ国民投票を実施したような様相を呈し、憲法が争点になったとは言い難い。
別の言い方をすれば、憲法改正の是非は国民的論議に発展していないということになる。
自民党の衆院選小選挙区での得票率は47・8%だった。議席占有率が73・0%に達したのは現行の選挙制度の“恩恵”に浴したからであって、国民が憲法改正にまでお墨付きを与えたと勘違いされては困る。
国会も「国民投票法案を整備していないのは国会の不作為行為」(中山委員長)などという様式論に乗せられることなく、現憲法で平和主義の要とされてきた9条の「戦力の不保持」を本当に削除していいのかどうか、本質的な部分について時間をかけ、論議を尽くすべきである。[琉球新報 掲載日時 2005-10-3 9:31:00]
社説 憲法特別委/国民投票法案は先走らずに(河北新報 10/3)
郵政民営化をめぐる自民党内の混乱から、国会での取り組みが停滞していた憲法改正問題が特別国会で再び動きだす。
改正手続きを定めた国民投票法案を審議する憲法調査特別委員会が衆院に設置され、6日に初の委員会が開かれる。
現憲法は改正手続きとして、各議院の3分の2以上の賛成で国会が発議することと、国民投票で過半数の賛成が必要なことを定めるが、国民投票制度を定めた法律はない。
法体制が不備と言わなければなるまい。改憲の是非の問題とは別に、改正手続きはきちんと定めておく必要がある。
しかし、拙速は避けなければならない。与党は来年の通常国会に法案を提出する予定だが、数の力で押し通すような性格の法案ではない。国民が幅広く納得する制度内容とするために、先走らず、しっかり議論をするよう求めたい。
国民投票法案を審議する委員会は当初、与党と民主党の国対レベルでは常任委とすることで基本合意した。だが自民党ペースで改憲論議が進むことを警戒する公明党内で異論が続出し、各国会で設置の議決が必要な特別委に変更された経緯がある。
自民党は今回、公明党に配慮した形だが、もっと丁寧な議会運営が必要だろう。
改憲に全面反対する共産、社民両党は、特別委の設置、国民投票法案審議に反対しており、自公民三党が法案策定で合意できるかどうかが焦点となる。
自公両党が昨年末に合意した法案の骨格は(1)投票権は20歳以上(2)過半数の基準は有効投票数(3)投票用紙の様式や投票の方法は発議の際に法律で規定(4)国民投票結果に関する予想公表の禁止―などだ。
民主党は4月、党憲法調査会の提案として示した。投票権は18歳以上、過半数の基準は総投票数、改正条項ごとに賛否を問う個別投票方式、国民投票運動の規制・罰則は必要最小限にとどめるなどとする。
与野党の相違は、改憲のハードルを低くするか、高くするかの違いと言える。憲法観や改憲イメージともかかわり、いろいろな考え方があり得る。
ただし、国民投票運動や報道の在り方は最大限に自由でなければならない。首長選や議員選とは全く異なる。公選法の規定に準じて規制することなどは論外と言うしかない。自公両党には、規制の在り方に関して強く再考を求めたい。
改憲に賛成する自公民三党は、衆参両院で発議に必要な議席をはるかに超す。世論調査でも改憲賛成・容認派が半数を大きく上回る。
しかし改憲の具体的中身となると、各党の内部でも意見は異なる。世論も大きく分かれている。自民党の改憲草案もまだ最終的にまとまっていない。全体として議論の盛り上がりにも欠けているのが現状と言える。
国民投票法案の策定を契機として、広範な憲法論議につなげていくことが必要だろう。衆院に比べて参院の動きが鈍いが、参院でも早急な対応が求められる。[河北新報 2005年10月03日月曜日]
社説 拙速な審議は願い下げだ 国民投票法案(西日本新聞 9/25)
自民・公明の与党は、先の通常国会で見送った憲法改正に関する「国民投票法案」を、今国会に提出するという。
現行憲法が憲法改正に関し、衆参両院それぞれ三分の二以上の賛成による国会発議と、それに対する国民投票での過半数の賛成を規定している以上、投票手続きなどを定めた法律を制定することに異議を唱えるつもりはない。
しかし、自公両党が昨年十二月に合意した法案の内容にさまざまな疑問点があることを、ここであらためて指摘しておきたい。
私たちがまず懸念するのは、賛否をめぐる「投票運動」に対する規制の在り方だ。与党案は、虚偽・歪曲(わいきょく)報道の禁止や予測投票の公表禁止など、実質的なメディア規制を盛り込んでいる。
虚偽・歪曲報道が許されないのは当然にしても、規制条項を拡大解釈すれば、賛否に関する自由な論評すら許されなくなる。
市民団体などからは、与党案が特定の公務員や外国人の投票運動を禁止していることにも、異論が出ている。
日本ペンクラブが今年三月、「過度に広い範囲の規制が及ぶ危険性が否定できない」として法案の白紙撤回を求めたのも、投票運動規制が、国民の基本的権利の一つである表現の自由を侵害しかねないからだ。
与党案の規制条項は、公職選挙法の選挙運動制限規定をモデルにしたという。だが、人を選択する選挙と違って、政策の是非を問う投票は本来、利益誘導型の不正行為の懸念は小さいはずだ。
しかも、国家の姿を定める憲法に関する投票となれば、規制は最小限にとどめ、できるかぎり自由な運動と発言を保障すべきだろう。
もうひとつの懸念材料は、与党案が投票方式について「(国会の)憲法改正発議の際に別の法律で定める」として、あいまいなままにしている点だ。
憲法に対する現在の国民意識は、「改憲」か「護憲」かの二者択一で割り切れるほど単純ではない。
例えば、戦争の放棄を定めた九条の改正には反対だが、時代の変化に対応した「新しい人権」には賛成する人もいれば、その逆の人もいるだろう。
改憲案に対し一括賛否を問うのか、条文ごとに判断を求めるのかで、投票行動が大きく違ってくるのは間違いない。
「一括か条文ごとか」は、国会の改憲発議の在り方にも連動する。これをあいまいにしたまま、国民投票法が制定されることに、大きな不安を感じる。
会期が残り四十日足らずの今国会中に、こうした疑問点に関する審議を尽くせるとも思えない。
最終的には、与野党の枠を超えて賛同できる内容にしないと、国民は納得すまい。数次の国会にまたがる継続審議も視野に、慎重な審議を重ねてほしい。[西日本新聞 2005/09/25]