自民党が新憲法草案を発表

自民党が、来月の党大会で採択する「新憲法草案」を発表しました。8月に発表した「新憲法第1次案」に若干の修正を施したものです。

注目の9条ですが、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という現行の条文を、第1次案では、「戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わないこととする」と修正し、章題を「安全保障」とすることとあわせて、憲法から「戦争の放棄」という文言を放逐してしていました。しかし、これがよっぽど不評だったのでしょう。今日発表された案では、9条1項は、そのまま無修正で残すことになっています。

しかし、だからといって、「戦争放棄」の立場が守られたわけではありません。「戦争放棄」のために「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」「国の交戦権は、これを認めない」と、戦力不保持・交戦権の否定を定めた9条2項を削除。代わりに、自衛軍の保持を明記し、自衛軍は「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」ができるとしています。

「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」というと、国連の平和維持活動への参加・協力のように思うかも知れませんが、そうではないのです。たとえば、イラク戦争のように、国連が賛成しなくても、アメリカとイギリスが「協調」して始めれば、これだって立派な「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」になるのです。この憲法改正が成立すれば、いまイラクで米軍や英軍が行なっている「武装勢力の掃討作戦」に、自衛隊も参加できることになります。それが、この9条改憲の一番のねらいなのです。

こんなふうに、自衛隊が米軍と一緒になって、実際に海外で戦闘行為をおこなう――これのどこが「戦争の放棄」でしょうか? 9条2項を削除し、自衛軍の保持を明記すれば、9条1項はまったくの空文になってしまうのです。

ほかの特徴はというと、やっぱり前文ですね。第1次案では省略されていたので、今回初めて自民党案が示されたわけです。事前には、「アジアの東、太平洋の波洗う……」などという、時代錯誤な中曽根流の前文になるんじゃないかという情報もあったのですが、発表されたものは、至極あっさりしたものに。しかしその中で、「国民主権と民主主義、自由主義と基本的人権の尊重及び平和主義と国際協調主義の基本原則は、不変の価値として継承する」として、憲法の基本原則として、自由主義なるものを持ち込んでいます。いまの憲法には自由と民主主義はあるけれど、「自由主義」はありません。自由と「自由主義」は、似て非なるものです。「勝ち組」「負け組」、優勝劣敗が「自由主義」。しかし、それでは、すべての人の自由は保障されません。だからこそ現行第22条1項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」として、「職業選択の自由」とあるけれど、広く経済活動全般について、「公共の福祉」による制限を認めているのです。

経済活動は、一般には、対等平等な契約にもとづいて、自由にやってよいことになっています。しかし、いまのように巨大企業が経済的に大きな力を持ち、経済活動にかかわる様々な情報についても独占しているような状況では、契約は形式的には対等平等だといっても、実際には、個々の国民や消費者の方が圧倒的に不利なことは言うまでもありません。だからこそ、大企業などが、その巨大な経済力にものを言わせて、国民に不利益を押しつけるようなことがあったときは、この条文を根拠にして、企業の経済活動の自由に一定の制限を加えることができる。これが、現在の日本国憲法の仕組みなのです。

ところが、自民党案は、この第22条1項から「公共の福祉に反しない限り」という一節が削除され、経済活動の自由は、絶対不制限に保障されることになっています。こうなると、大企業などの経済活動にたいして、社会的な規制をおこなう根拠がなくなってしまいます。なるほど、これは「自由主義だわ」などと妙な納得をしている場合ではありません。こんな重大な改悪を、こっそり潜り込ませるやり方は絶対に許されません。

ほかにも書くべきことはいっぱいあるだろうけれど、とりあえず今日はここまで。

※自民党「新憲法草案」の全文は、新憲法制定推進本部のホームページから見ることができます。

【追記:2007/10/16】
自民党の「新憲法制定推進本部」のホームページはなくなってしまいました。
自民党「新憲法草案」の全文は、こちらから見ることができます。PDFファイル、110KBが開きます。

自民党が新憲法草案を発表」への4件のフィードバック

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  3. ピンバック: メフィスト賞受賞者津村巧のテレビ・世相日記

  4. ピンバック: 医療制度改革批判と社会保障と憲法

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