入江昭『歴史を学ぶと言うこと』

入江昣??津??を妣??と言うこと』(講談社現代新書)

アメリカ外交史の泰斗・入江昭氏が、自分がどんなふうに歴史を学び、研究を志してきたかをふり返った一冊です。入江昭氏というと、1953年にアメリカに留学し、その後、ハーヴァード大学の大学院に進み、日本人ながらアメリカ外交史の研究者として、長くシカゴ大学、ハーヴァード大学などで教鞭とってこられた方です。
全体は3部構成。第1部「歴史と出会う」は、入江氏がどんなふうに歴史と出会い、どういうきっかけでアメリカへ留学することになったのかから始まって、大学院での修業時代、教職を求めてアメリカ大陸を西へ東へと渡り歩いたことなど、その半生をふり返っています。第2部では、「歴史研究の軌跡」と題して、入江氏の研究のあゆみを紹介。第3部「過去と現在のつながり」では、歴史を学ぶとはどういうことか、歴史認識とは何かなど、入江流歴史観を論じています。

読後の感想は、さすが、高校3年生で単身留学し、大学・大学院で、アメリカ人に伍して、アメリカ外交史を専攻し、見事、研究者として活躍してきた入江氏ならでは、の一語に尽きます。アメリカの大学・大学院の勉強は日本と比べてかなりハードだということは、よく言われることですが、それも入江氏の手にかかると、「死にものぐるいでがんばった」という言葉で、きれいにおさまるあたり、やっぱり天才は違う、としか言いようがありません。(^^;)

それだけ、アメリカに憧れも希望も持っていたであろう入江氏にとって、9・11以後のアメリカの政治的軍事的なやり方は、やりきれないものに違いありません。最近、日本のメディアに書かれるものを読んでいると、あからさまにそうとは書かれないけれど、そういう深い嘆息が聞こえてくるような印象を持っていました。

なので私としては、本書にも、そうした9・11以後のアメリカ社会への深い批判を期待したのですが、その点については、ちょっと期待外れの中身に終わっていました。もちろん、入江氏がブッシュ大統領のやり方に賛成している、などということではありません。しかし、シカゴ大、ハーヴァード大と、民主党の影響の強いところで生活してこられたからか、はたまた歴史研究者の間でも民主党に近い研究者が多いからか、入江氏は、いまのようなアメリカのあり方だけがアメリカなのではなく、それに批判的な流れもしっかりと存在していて、いつか必ず“揺り戻し”があるはずだと確信されている――そのこと自体は、何も批判すべきことじゃないのですが――結果、ブッシュ流のアメリカのあり方への批判というものが前景からしりぞいてしまったからだと思います。まあ、そういう“政治的”な興味関心から本を読む僕の方が悪いのですが…。

【書誌情報】著者:入江昭/書名:歴史を学ぶと言うこと/出版社:講談社(講談社現代新書1811)/発行年:2005年10月/定価:本体720円+税

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