1999年刊の本ですが、最近、仕事の関係で話題にのぼったので、あわてて買い込み読んでみました。
この本の特徴は、地球持続の技術を、地球規模での物質のライフサイクルという角度から考えていること。さらに省エネがどこまで可能かも、輸送、分離、成型・加工など「素過程」に分けて理論値を考え、そこから技術的に到達可能な限界を推測しています。
たとえば水平方向の輸送は、ちょっと意外ですが、理論的にはエネルギー消費はゼロ。もちろん、これは摩擦ゼロ、ブレーキで発生する熱は全部回収し再利用する、などという理想状態でのことですが、そこから逆に、実際にはそれがゼロにならないのは、たとえばタイヤの摩擦によるロス(熱となって逃げる)、エンジンがガソリンのエネルギーを全部移動のエネルギーに変換できず、排ガス・廃熱となっているからだとか、ひとつずつ詰めていく訳です。
また、鉄やアルミは、鉄鉱石やボーキサイトから新しく生産するより、クズ鉄や廃アルミを回収して再利用した方が、はるかにエネルギーの節約になること。しかも鉄もアルミも、年々生産量が増え、地上に固定される量が増えると、当然、それがスクラップにされて回収される量も増えていくはずで、どこかで回収量と新規需要がバランスするはずです。そうなれば、もはや新しく鉄鉱石を掘り出して鉄を生産する必要がなくなり(現実には、質の問題などがあって、完全にゼロにはならないでしょうが)、資源の枯渇や、廃棄物によって地球が埋まっていくことを心配しなくてます。エネルギーの大幅な節約も可能です。
第4章「『日々のくらし』の省エネ技術」では、ヒートポンプによる暖房が非常に効率的である(これも、あくまで理論値ですが)ことが明らかにされています(ヒートポンプは、電力で、直接室内を暖めている訳ではなく、フロンを圧縮して循環させるポンプを動かすために使われているだけなので)。なんとなく、これまでエアコンで暖房するというのは、ものすごく電気を無駄にしているように思っていたのですが、とんだ勘違いでした。(^_^;)
マクロで省エネや省資源を考えるというのは、なかなか面白い視点だと思いました。
ところで著者は、こんなふうに理屈を立てて詰めてゆき、そこから、地球持続のための「ビジョン2050」というのを明らかにしています。<1>エネルギーの利用効率を3倍にする、<2>物質循環のシステムを作る、<3>自然エネルギーの利用を2倍にする、というのがそれ。著者は、2050年にこういう状態が実現しているかどうかが、地球と人類の将来にとって、大きな岐路になると指摘します。
で、著者は最終章「技術は社会とどう向き合うか」で、こんなふうに指摘しています。
環境やエネルギーの問題のように、徐々に損なわれていく文明の基盤に対して人類全体が長期的な対応をしなくてはならないという状況において、市場はうまく機能するであろうか。そうは思えない。市場原理への予定調和的期待は、短期の視野で企業が対応する限り、成り立たないのではないだろうか。(本書192ページ)
だから、市場の誘導が必要だというのが著者の結論です。
実は、この本はある会議で話題になったもの。市場経済化をすすめている中国が、社会主義への方向性、社会主義らしさを発揮するとしたら、どこで、何によってか、という議論をしているときに、その1つとして、地球環境問題にたいする技術の開発に成功するかどうかではないか、ということが指摘され、それとの関連で本書が話題になりました。
科学的社会主義の立場からも、資本主義の歴史的限界性を示す問題の1つとして地球環境問題が指摘されていますが、その解明が、地球環境工学の研究者(現在は、東大総長)の結論と一致するところが、とても興味深く思われました。
【書誌情報】書名:地球持続の技術 (岩波新書、新赤版647)/著者:小宮山宏/出版社:岩波書店/発行:1999年12月/価格:本体740円+税/ISBN4-00-430647-7