米コロンビア大学のジェラルド・カーティス氏が「東京新聞」11月6日付で、「靖国参拝で国益損失」と題して、小泉首相の靖国参拝を論じています。少し古い記事ですが、紹介したいと思います。
カーティス氏は、「どの国でも、国のためになくなった兵士に対し、それぞれのやり方で敬意を払っている。だから、それを日本の指導者がどのようなやり方でするかということに、外国人が口を挟むべきではないと思う」と述べた上で、「だが」といって、次のように指摘しています。
だが、靖国神社が戦死者を祭るだけの神社でないことが問題である。靖国は、戦死者を祭ると同時に、軍国主義時代に兵士たちを戦争に行かせた政府の政策を正当化しようとする特別な神社である。
8月初めに、私が訪問した際、靖国神社にある博物館「遊就館」で、「大東亜戦争」を起こした日本の軍事行動をたたえる映画を上映していた。真珠湾攻撃は自衛のための先制攻撃であり、アジア大陸で戦ったのはアジア解放のための崇高な行動だといわんばかりである。靖国神社が発信しようとする政治的メッセージに、日本の軍国主義の被害にあった国ぐにが無関心であるはずはない。日本の首相を初め多くの政治家が、どうしてこの神社を参拝するのか、その動機と目的を疑うのは当然だと思う。
そして、カーティス氏は「靖国参拝をどうするかは、日本にとっての1つのジレンマ」であるとするが、しかし「このジレンマをつくったのは小泉首相自身である」と指摘しています。10月の靖国参拝に対する中国の反応がそれほど強烈でなかったことで、日本が「首相の靖国参拝が続いても日本外交にとって大した問題ではない」と思うと「大きな誤解である」とも警告しています。
さらに、カーティス氏は、この問題が日中、日韓関係にとどまらないだろうと注意を促します。
靖国問題は今後、日中、日韓関係のみではなく、日米関係にも悪影響を与える可能性は大いにあると見るべきだ。米紙ニューヨーク・タイムズは、「思慮なき行動」と首相の靖国参拝を厳しく批判したが、このような批判は米国のマスコミに広がりつつある。小泉首相の参拝翌日に百人以上の国会議員が靖国参拝したのは、靖国の政治的スタンスの支持表明であるのか、と疑う声が米国でも多くなっている。日本がこのように疑われるのは残念である。
カーティス氏の結論は、いわゆる新しい追悼施設の問題に向かうのですが、そこで氏が次のように述べているのは、十分傾聴に値する指摘だと思います。
世界大戦の廃墟から復興して、平和国家として国際貢献している日本の国際的イメージを、靖国参拝で壊していいのか、指導者たちが自問自答すべき問題なのだ。
(以上、引用は「東京新聞」2005年11月6日付「時代を読む」から)