小泉外交、孤立への道?

韓国・釜山で開かれたAPEC首脳会議ですが、結局明らかになったのは、小泉外交の孤立。

いくら御本人が、長期的には安定などと言ってみても、事実はおおい隠しようもありませんねぇ。

小泉アジア外交:中韓両国は態度硬化 孤立感漂う(毎日新聞)
APEC首脳外交/日米関係最優先の限界示す(河北新報)
『日米万能』 冷めるアジア/日韓首脳会談(東京新聞)
<小泉首相>独自の「日中友好論」展開 APEC全体会議(毎日新聞)

小泉アジア外交:中韓両国は態度硬化 孤立感漂う

 朝鮮半島で世界の大国である日米中露4カ国の首脳が、史上初めて一堂に会した今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)。各国とも活発な首脳外交を展開する中、日本は小泉純一郎首相の靖国神社参拝が障害となり、今ひとつ精彩を欠いている。小泉首相はブッシュ米大統領との親密さを振りかざして、中韓両国に「友好」の確認を迫るが、両国はむしろ態度を硬化させてしまったようだ。強気一辺倒で押す「小泉アジア外交」には、国内政局と勝手が違って当分、局面を打開する見通しもなく孤立感が漂う。
 日韓首脳会談は18日、30分で終わった。もともと韓国が日本に割り当てた時間は、議長国として他の多くの参加国首脳を迎えるのと同じ20分間。隣国のよしみとは程遠く、一般外交儀礼の範囲にとどまる待遇だった。
 会談の後半、議題が歴史認識問題に入ると、和やかな空気が「真剣なやり取り」(外務省幹部)に変わり、小泉首相は最後に年内の盧武鉉(ノムヒョン)大統領訪日を招請するあいさつも述べる余裕もなく時間切れになったという。
 なぜ参拝するのかについては、小泉首相はこれまでの説明を繰り返したが、今回、新たに「自由と民主主義、複数政党制、市場経済の価値観が共通し、米国と同盟関係にある国同士じゃないか」という論理を持ち出した。ブッシュ米大統領が16日、京都市で行った「東アジア外交演説」を踏まえているのは明らかだ。
 小泉首相は「こういう国は世界にあまりない」とも述べたという。「政治、経済、軍事のどの分野でも、米国を介した数少ない兄弟分ではないか」という理屈で説得しようという考えらしい。
 訪韓前、日米首脳会談の後に述べた「日米関係が良好であればあるほど、中国、韓国、アジア諸国や世界各国と良好になれる」という考えを、直接、盧大統領にぶつけたわけだ。
 しかし、米国の威光を背に、対中、対韓関係を好転させようという戦略は、今の中国、韓国を相手に、にわかに成果を予想しにくい。むしろ、小泉首相が最も嫌う「対米依存」の外交体質を、図らずも露呈したとも受け止められかねない。
 その証拠に、中国は韓国と外相・首脳会談で、靖国参拝反対を確認したうえで、日本との首脳会談に応じなかった。通り一遍な日韓会談と合わせ、日米中韓の4カ国で首脳外交の濃淡を比べると、小泉首相の存在が埋没し、孤立している現実は否定しようがない。
 日本が頼みの綱とする米国は、他の3カ国といずれも濃密な首脳外交を積み重ねる。しかも、ブッシュ大統領は遠まわしな表現で、日中関係のぎくしゃくぶりに懸念を示し始めている。米国の対中戦略にも得策ではないからだ。小泉アジア戦略は、ブッシュ対中戦略ともズレを来す可能性をはらんでいる。一連のAPEC首脳外交で、その一端がのぞいた。【釜山・伊藤智永】

◇米の影響力警戒しつつ日本との「橋渡し」期待…中韓

 中国の胡錦濤国家主席は17日、プーチン露大統領らと会談したが、小泉首相との会談には「条件と雰囲気が整っていない」(中国外務省)として応じない構えだ。4年余り途絶えた日中首脳の相互訪問に代わるものとして、これまで国際会議を利用して首脳会談が行われてきたが、今回は中国の強硬姿勢が際立つ。
 その背景の一つに、日米同盟の強化をはじめ、米国がアジアでの影響力を強めている状況がある。来月の東アジアサミットに米国は参加しないが、日本が主導権を握ると米国の意向が反映されるのではないかと中国は警戒感を強めている。小泉首相の「米国最優先宣言」が、この中国の懸念を和らげたはずもない。
 その一方、「中国も対日関係をとことん悪化させるつもりはない」(外交筋)との見方がある。16日の中韓首脳会談後の共同声明では歴史問題に触れたものの、日本に対する名指しは避け、共同記者会見で胡主席は歴史問題に言及しなかった。東シナ海のガス田開発などの課題も多く、日本の出方を見極めようとしているようだ。
 韓国にとって小泉首相の姿勢は「米国一辺倒」と映る。17日の慶州での米韓首脳会談でも親密さは演出したが、実際には対北朝鮮政策の違いが顕著なだけに、「日米蜜月」への視線は複雑だ。
 小泉首相の10月の靖国神社参拝以来初めての日韓首脳会談を、韓国政府高官は「公式会談ではなく、簡単な面談だった」と言い切った。外交儀礼的な30分の「面談」の中で盧武鉉(ノムヒョン)大統領は、テーマを靖国、歴史認識、竹島(韓国名・独島)の3点に絞り「日本の考え方は、決して受け入れられない」と強く迫った。
 とはいえ盧大統領は、日韓関係を今のまま放置できないという気持ちも強いようだ。17日の会談でブッシュ大統領に日韓の歴史問題を訴えたのも、小泉首相を説得してほしいというメッセージだったと言える。日韓共通の同盟国である米国に「橋渡し役」を求めざるを得ないところに韓国のジレンマがある。【釜山・成沢健一、堀信一郎】
毎日新聞 2005年11月19日 1時50分

APEC首脳外交/日米関係最優先の限界示す

 小泉純一郎首相はブッシュ米大統領との会談で「日米関係が良ければ良いほど中国、韓国などと良好な関係を築ける」と強調した。だが、その言葉とは裏腹に、日本のアジア外交は深刻な行き詰まりをみせている。その現実を浮き彫りしたのが今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)を舞台にした首脳外交だった。
 首相が10月に靖国神社に参拝し、1段と冷え込んだ日中、日韓関係。韓国の盧武鉉大統領はAPEC議長国として儀礼的な会談に応じたが、中国は首脳だけでなく外相も会談を拒否する異例の対応だった。
 日韓首脳会談で盧大統領は、首相の靖国参拝は「韓国に対する挑戦」と批判し参拝中止を求めた。小泉首相は従来の参拝理由に加え「両国とも米と同盟関係にある。友好関係を促進する考えに変わりはない」と説明したが、来月の大統領訪日には双方とも触れずに終わった。
 APECを境に日本と中韓の対立は首相の思惑とかけ離れた方向に進んでいる。
 日米首脳が京都で会談した日、ソウルでは中韓首脳が会談し、靖国問題に共同対処する考えで一致、歴史問題が「北東アジアの協力と発展に否定的影響を与えてはならない」と表明した。二国間問題から「北東アジアの地域問題」へと格上げすることで、日米同盟を後ろ盾に強硬姿勢を崩さない首相に再考を促す狙いとみられる。
 ブッシュ大統領は、米の国益にも悪影響が及ぶと心配したのだろう。盧大統領には韓国や日本などアジア主要国が良好な関係を維持するよう望むと伝え、小泉首相には日中関係の見解を尋ねている。
 北朝鮮の核問題を平和解決するには、6カ国協議での日米韓の緊密な連携が欠かせない。日米と韓国間には立場の違いが目立ち、さらに日韓の冷却化が進めば3カ国の連携はおぼつかない。北朝鮮を利するだけだ。
 中国の台頭により域内主要国間のバランスが変化する中、米は日本に「中国を国際社会のメカニズムに加える積極的な役割」を担ってほしいと期待している。しかし、首脳同士が会って話すらできない状況では、この役割は望むべくもない。
 首相は「靖国参拝は心の問題。外国が干渉すべきではない」と反論してきた。だが、今や「個人の問題」が「国際化」しつつあることを認めないわけにはいかないだろう。首相は日米会談で「日米関係は最も重要。国際協調にもう少し比重を移せという議論があるが、賛成しない」とも述べた。このままだと、いずれ米の東アジア戦略ともずれが生じよう。
 APEC後のアジアの重要な外交日程は来月14日、マレーシアで開かれる東アジア首脳会議。共同体構築を視野に入れた初めての会議だ。米は参加せず、日本の構想力と指導力がじかに問われる。「日米関係最優先」の方針が「米一辺倒」と受け止められては参加国の支持は得られまい。主導的な役割を果たすには、アジア外交の再構築に取りかかるしかない。
[河北新報 2005年11月19日土曜日]

『日米万能』 冷めるアジア/日韓首脳会談

 十八日行われた日韓首脳会談。小泉純一郎首相は自らの靖国神社参拝をめぐり、韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領から厳しく追及され、釈明に追われた。首相は先の日米首脳会談で、盟友・ブッシュ米大統領に、日米同盟関係が強くなればなるほど、中韓両国などアジア近隣諸国との関係はうまくいくと自説を披露したが、そうした楽観論は早くも打ち砕かれた形だ。(韓国南部の釜山で、政治部・高山晶一=首相同行)

■自信

 「(日韓両国は)共通の価値観を持ち、両国とも米国と同盟関係にある。こういう国は世界にあまりない」
 「ブッシュ大統領と会談し、日米韓三カ国が一層緊密に対応していこうという話をした」
 首相はこの日の会談で、二日前に京都迎賓館で会談したブッシュ大統領や、日韓両国の米国との同盟関係の話をしきりに持ち出し、日韓のきずなの強さを訴えた。
 韓国政府は首相の靖国参拝に猛反発しており、首相サイドは、十月十七日の参拝から一カ月後の今回の日韓首脳会談でも、韓国側から追及される予想はしていた。
 ただ、靖国参拝は首相の持論であり、韓国側の言い分を素直に受け入れるわけにもいかない。
 双方の妥協点が見つからないまま、首相は韓国側の矛先を少しでも鈍らせようと持ち出したのが、米国との同盟関係だった。
 首相は十六日の日米首脳会談で「日米関係が強いからこそ、中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)すべての国とよい関係が維持される」と大見えを切り、それを早速、試してみたのだ。
 「(韓国の理解は)得られると思います。長い目で見なきゃいけないと」
 首相は日本出発の際、記者団にこう自信を示していた。

■誤算

 しかし、現実はそんなに甘くはなかった。会談前半は、首相が文化交流の推進などを呼び掛けたのに対し、盧大統領が賛意を示すなど和やかなムードで進んでいた。
 しかし、大統領が首相の靖国参拝問題に触れ始めると、雰囲気は一変。
 大統領は「参拝は韓国への挑戦」「日本は過去に戻るのではないかと懸念がある」などと、厳しい口調で首相を追及。歴史教科書や竹島問題まで持ち出して、これら三つの問題の解決を迫った。
 これに対し、首相は「二度と戦争をしないという決意から参拝している」「戦争の美化というのは誤解だ」などと防戦一方。懸案となっている大統領の十二月の訪日についても切り出せないままだった。
 韓国以上に厳しい対日姿勢をとっているのは、「反靖国参拝」で韓国と共同歩調をとる中国だ。
 日本側は中国に対し、今回のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の期間中、首相と胡錦濤国家主席との日中首脳会談開催を呼びかけているが、中国側は拒否する姿勢を崩しておらず、実現の可能性は低い。
 首相はAPEC首脳会議の全体会議でも「日米友好は確固としたものになっており、日中友好も大事だ」と中国側にメッセージを送ってみたものの、応じる気配はない。
 米国との関係さえ良ければいいと言わんばかりの首相の言い方が、中韓両国の反発を増幅させた可能性も否定できない。
 年内にはマレーシアでの東アジアサミットや、実現は難しくなったが、盧大統領の訪日が予定されている。そうした機会に少しでも前進させなければ、来年九月までの首相任期中に、近隣外交をめぐる「失点」を取り戻すのは難しくなる。

■歴史問題妥協せず 韓国大統領、訪日不透明に

 韓国の盧武鉉大統領は小泉首相との会談で、靖国参拝、歴史教科書、竹島(韓国名・独島)問題を例示し、「日本の立場は受け入れられない」と明言した。今年、日韓関係冷却化の要因となった歴史問題の三つの課題で妥協せず、是正を求めたことで、年内に予定される大統領の訪日はさらに不透明になった。
 盧大統領はAPEC期間中に、歴史認識について再三言及した。中国の胡錦濤主席との会談後の記者会見では、「東アジア地域・国家の協力と発展に、否定的な影響を与えるべきではないとの認識で一致した」と述べた。名指しこそ避けたが、小泉首相の靖国参拝を意識した発言だ。会談後の会見は事前に両国が内容のすりあわせをするのが通例であり、胡主席も大統領の発言に理解を示したことになる。
 盧大統領は米韓首脳会談後の昼食会でも、「朝鮮半島と東アジアでの侵略の歴史と、歴史認識問題について詳しく説明した」(韓国大統領府)という。日米両国が同盟関係を強化する動きを意識し、ブッシュ大統領に、韓国の置かれている立場と不満を説明したとみられる。(釜山・山本勇二)
[東京新聞 2005年11月19日朝刊]

<小泉首相>独自の「日中友好論」展開 APEC全体会議

 【釜山・伊藤智永】アジア太平洋経済協力会議(APEC)の21カ国・地域の首脳がそろった18日の全体会議で、小泉純一郎首相は議題と関係なく独自の「日中友好論」を展開した。中国に胡錦濤国家主席との会談を断られたが、胡主席も列席する国際会議の場で、一方的に自分の立場を主張してしまう政治パフォーマンスだった。
 「全体会合で、皆の聞いてる前で、私が発言したんだ」。18日夜、同行記者団が盧武鉉(ノムヒョン)韓国大統領と会談した感触を尋ねたところ、小泉首相は質問をよそに、全体会議での発言について約10分間、身ぶりを交えて熱弁を振るった。
 米中タイ3カ国の冒頭発言後、各国数分ずつ順に発言。小泉首相は議題の経済問題を外れ、唐突に日中関係を論じた。
 「一つの意見の違いとか対立で、全体の友好関係を阻害してはならない。中国、韓国と政治的首脳の交流は途絶えているが、他の関係は良好だ。どんなに批判しても結構だ。私は何らわだかまりを持ってない」
 ブッシュ米大統領、プーチン露大統領の来日について紹介。ペルーのトレド大統領と「フジモリ問題」があっても握手したことなど、円卓を囲む各首脳との関係を引き合いに持説を強調。中国の会談拒否を当てこするかのような論法だったが、会議後、何人かの首脳から「いい話だった」と声を掛けられたという。
 胡主席は反論できず、議長の盧大統領も聞き役に回るしかない状況。小泉首相は記者団に「してやったり」の表情で高揚感を隠さなかった。2日間にわたるAPEC首脳会議の全体4時間半のうち、小泉首相が発言したのは、この時と鳥インフルエンザ対策を述べた2度だけで、計10分足らず。「日中友好演説」が、APEC外交のハイライトだった。(毎日新聞) – 11月19日20時19分更新

でもって、西日本新聞や高知新聞がこんな社説をかかげています。

社説 「手詰まり感」が深まった 小泉アジア外交(西日本新聞)

社説 「手詰まり感」が深まった 小泉アジア外交(西日本新聞)

 韓国・釜山で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)でホスト役の韓国はじめ米中ロなど各国が精力的な首脳外交を展開する中、小泉純一郎首相の存在感の希薄さが際立った。
 背景には、小泉首相自らの靖国神社参拝が引き起こした中国、韓国との関係悪化がある。
 首相はブッシュ米政権との緊密な関係をてこに事態打開を狙ったが、中韓両国は逆に態度を硬化させ、「小泉アジア外交」は手詰まり状態に陥った。
 十八日の日韓首脳会談では、小泉首相が靖国神社参拝を「不戦の誓い」という自らの信条を説明したが、盧武鉉(ノムヒョン)大統領は「韓国への挑戦」と厳しく批判した。
 大統領が六月の首脳会談で求めた国立の戦没者追悼施設の検討にも応じようとしない小泉首相への失望感といら立ちが険しい表現につながったのだろう。
 結局、小泉首相は大統領の年内訪日を招請する余裕もなく、会談は時間切れになった。隣国でありながら一般の外交儀礼の範囲にとどまった会談しかできない関係は正常ではない。
 中国との関係もそうだ。日中首脳間の相互訪問が約四年も途絶え、APECなど国際会議の機会につないできた首脳会談も中国側の意向で見送られた。
 小泉首相は釜山APEC首脳会議のスピーチで日中関係について「全く心配はいらない」と強調した。アジア・太平洋地域の首脳を前にあえて異例の発言をすること自体、日中のいびつな関係を露呈させた形だ。
 首相は先の日米首脳会談後の会見で、自らの外交方針に自信を見せていた。
 「日米関係が緊密であればあるほど、中国、韓国、アジア諸国との良好な関係を築ける」と。
 しかし、小泉首相が得意とする「一点突破」の手法で乗り切れるほどアジア情勢は単調ではない。
 米国頼みの日本の外交姿勢はアジア諸国に反発を招く恐れがある一方、この地域では経済、軍事的に台頭する中国への警戒感がくすぶっているのも事実だ。
 ところが、釜山APECで首相はタイ、マレーシアなどの首脳とは立ち話だけだった。東南アジア諸国連合(ASEAN)は日本に複雑な視線を向けている。
 十二月には東アジアサミットが開かれ地域統合への動きが加速する見通しだ。
 アジアの首脳と腹を割った意思疎通もできない状況で、日本はどのように関与し、主導権を発揮できるのか。
 北朝鮮の核開発、拉致問題に関しても日本と中韓との連携はしっくりとはいっていない。
 ブッシュ米大統領も日中韓の関係悪化に対し懸念を表明し始めた。米アジア戦略の阻害要因になるとの判断だろう。
 首相が偏狭な外交姿勢を続ける限り、日本はアジアだけでなく国際社会の中でも地位低下を招く危うさがつきまとう。

社説 【歴史認識】目をアジアにも広げて(高知新聞)

社説 【歴史認識】目をアジアにも広げて(高知新聞 11/18)

 中国の胡錦濤国家主席と韓国の盧武鉉大統領が、「正しい歴史認識」が北東アジア安定の基礎との認識で一致した。直接の言及は避けているものの、小泉首相の靖国神社参拝を念頭に置いている。
 日中、日韓という2国間の色彩が濃かった参拝問題が、地域的な広がりをはらんできたことは注視する必要がある。小泉首相の言葉とは裏腹に、近隣諸国の理解が進んでいないことも浮き彫りになった。
 世界の成長センターといわれるアジアでは、経済発展をてこに地域連携を強化する動きが始まっている。その障害となりかねないのが日本と近隣諸国との関係だ。こうした情勢を踏まえた歴史認識の再構築が日本に求められている。
 小泉首相が靖国神社に参拝するたびに、中国、韓国は強く反発してきた。日中間では首脳同士の相互訪問が途絶えるなど、外交への影響が出ている。小泉首相は、参拝の真意を理解してもらうと繰り返し述べているが、中韓の首脳、要人の厳しい態度は、理解とは程遠い状況にあることを示している。
 そうした反発も国単位にとどまっていたが、今回の首脳会談はこの問題が2国間から北東アジアの地域問題の様相を呈してきたことを物語る。京都でブッシュ米大統領と会談した後、小泉首相は「日米関係が良ければ中韓などと良好な関係を築ける」と強調したが、現実はそうなっていない。
 中韓が歴史認識で「共同戦線」を張るといっても、両国の対日政策には微妙な差異がある。強硬姿勢を崩さない中国に対し、北朝鮮の核問題などで日米との連携を維持したい韓国は強硬一辺倒にはなりづらい。
 こうした温度差はあるにせよ、参拝問題がアジアの地域連携、日本のアジア外交に水を差しかねないことは看過できない。
 先日は北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議が開かれ、きょうからはアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が始まる。12月にはマレーシアで第1回東アジア首脳会議が予定され、東アジア共同体構想が大きなテーマになる。
 一国の価値観は大切だが、同時に幅広い視点が欠かせない時代だ。日本は太平洋戦争を経験しただけに、国家として生まれ変わったことを歴史認識でも明示する責務がある。
 外国からの批判うんぬんではなく、アジアにおける日本の立場をわきまえた主体的な対応が必要だ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください