日米首脳会談についての社説

日米首脳会談について、地方紙の社説を眺めてみました。

日本の主体性が見えぬ(北海道新聞)
沖縄を捨て石にするな 基地負担軽減の欺瞞(沖縄タイムス)
首相は外交戦略示し得たか(河北新報)
アジア安定に役立つのか 日米同盟強化(西日本新聞)
緊密ぶり誇示には懸念(中国新聞)
同盟強化は打ち出の小づちか(愛媛新聞)
対等な関係といえるのか(東奥日報)
安保と軍事だけの同盟強化は危うい(南日本新聞)
首相に重い説明責任(高知新聞)
同盟に依存しすぎる心配も(福島民友)
同盟強化の先に何がある(神戸新聞)

社説 日米首脳会談*日本の主体性が見えぬ(北海道新聞 11月17日)

 小泉純一郎首相の対米追従の外交姿勢が如実に表れたブッシュ大統領との会談だった。
 日米両国が目指す「同盟の深化」とはこういうことだったのか、とがくぜんとさせられる。
 象徴的なのは共同記者会見の冒頭で首相が述べた言葉だ。
 「日米関係が良ければ良いほど(日本は)中国、韓国をはじめ世界各国と良好な関係が築ける」
 そこにのぞくのは、日米関係至上のいびつな世界観だ。
 首相の靖国神社参拝で関係が悪化している中国や韓国からは、米国の後ろ盾を得て足元を見られないようにしているともとられかねない。
 今回の会談の目的は同盟の強化を確認することにあった。この方針に沿って首相は、十二月十四日に期限切れを迎える自衛隊のイラク派遣の延長や、先に中間報告がまとまった在日米軍再編の着実な実行を表明した。
 しかし、内実は自衛隊と米軍の一体化の推進であり、米軍の任務を自衛隊に肩代わりさせようというものだ。
 首相は、米国が主導する対テロ戦争について「長くつらい戦いを覚悟しなければならない」と決意を述べたが、これも米国の忠実な「代弁者」としての発言だろう。
 一方、ブッシュ大統領も会談後の演説で「日米同盟はアジアの安定と安全保障の柱だ」と強調した。
 確かに米国にとっては、太平洋の対岸のアジアへの入り口として、また世界戦略の要石として、日本は重要な同盟国であろう。
 ところがそういう大統領自身、国内外で政治力、求心力の低下という大きな問題を抱えている。
 米軍の死者が二千人を超え厭戦(えんせん)ムードが高まるイラク問題、ハリケーンへの対応のまずさ、ホワイトハウス高官のスキャンダルなどによって、国民の支持率は不支持率を下回っている。
 イラク問題などをめぐる国連での単独行動主義が、世界の国々から批判を浴びているのも周知の通りだ。
 そんな米国に追従し、過剰な配慮を重ねる国が、国際社会で尊敬や信頼を集めることなどできない。いま日本が求められるのは、米国一辺倒ではない主体的な外交姿勢だろう。
 もう一つ、指摘しておかなければならないことがある。
 今回の会談に間に合わせるため、日米両国は強引に米軍再編の中間報告をとりまとめた。日本側は牛海綿状脳症(BSE)問題で禁輸していた米国産牛肉の輸入再開方針を固めた。
 自衛隊のイラク派遣延長表明もそうだが、いずれも重要政策でありながら、国民への説明も国会での議論も十分ではない。
 米国への配慮が民主主義に優先してしまっている。順番が逆ではないか。

社説 [日米首脳会談]沖縄を捨て石にするな 基地負担軽減の欺瞞(沖縄タイムス 2005年11月17日朝刊)

 「過剰な対米配慮」といわなくて、どう表現するというのか。小泉純一郎首相とブッシュ米大統領の日米首脳会談で、在日米軍の抑止力を維持するために一定の基地負担はやむを得ない、との認識で一致した。
 首相は在日米軍再編の中間報告に対し「平和と安全の恩恵を受けるためには、しかるべき負担と代価が必要だ」と述べている。
 合意した中間報告の中身に大幅な変更がないことを示し、またしても沖縄が日米軍事同盟の“捨て石”にされる可能性が強くなった。発言は「普天間」代替施設は名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部への移設案以外検討しない、と言っているのに等しい。
 稲嶺恵一知事が「絶対に容認できない」としているのを、国の力で強引に建設しようとすれば、県民の反発は火を見るより明らかだ。
 県民の要求は、普天間飛行場の即時閉鎖・返還と危険性の排除、基地負担の軽減である。それは米軍がいう「抑止力の維持」「機能強化」とは明らかに異なる。
 米軍施設を再編統合、自衛隊に管理権を与えて日米で共用する構想も県民感情を全く無視している。これこそ政府が県民に約束した負担軽減策が欺瞞だったことを如実に示していよう。
 日米の良好な関係は確かに必要だ。それについて異論はない。緊密な関係は、政治だけでなく経済問題にもいい影響を与えると思われるからだ。
 私たちが問題にしているのは、日米同盟強化の機軸となる米軍基地を国土の0・6%しかない沖縄になぜ75%、四分の三も押し付け、負担を強いるのか―ということだ。
 自民党が打ち出した憲法改正草案は、自衛隊を「軍」と明記している。これは米軍との集団的自衛権行使に道を開くものだ。それによって在沖米軍基地を日米共同の前線基地にし、補給・訓練基地として恒久化する動きは絶対に容認するわけにはいかない。
 首相はまた「日米関係が緊密であればあるほど日中、日韓関係も良好になる」と話した。だが靖国神社参拝などで近隣諸国との関係を危ういものにしながら、日米同盟強化がアジア諸国との関係改善につながるという発想には危うさを覚える。
札束で頬をたたくな
 大城常夫琉大教授は沖縄タイムス紙上で「県政、県民の問題は、日米政府に対する交渉力の力不足である。力の源泉は、県民世論の政治意思の結集以外にない」と述べている。
 一九九五年に開かれた「10・21県民総決起大会」で、私たちは基地あるがゆえの人権侵害と危険との決別、日米地位協定の見直しを求めた。
 同時に訴えてきた基地の整理・縮小、稲嶺知事が強調する「目に見える形での基地負担の軽減」は今日に至ってもうやむやにされ、今回の日米合意で反故にされたと言わざるを得ない。
 政府はすでに打開策として振興策を打ち出す構えを見せている。「アメ」による介入策である。
 私たちはいま一度「金で心は買えない」ことを、毅然とした姿勢で政府に突きつける必要がある。
 経済的支援は、沖縄が追求し続けている経済の「自立」と「自律」に不可欠なのは言うまでもない。だが「基地の引き受け」を財政支援とリンクさせる手法は、平和で豊かな島を築こうと願う県民の心を踏みにじる。
 札束で頬をたたく手法は県民を愚弄するやり方と言うしかない。
新たな基地は認めない
 普天間飛行場の移設について県民の72%はキャンプ・シュワブ沿岸部案に反対し、「84%がハワイやグアムなど米国への移設」を望んでいる。
 県民はまた、橋本龍太郎元首相が九六年の日米特別行動委員会(SACO)最終報告を伝える際、基地問題について「地元の頭越しにはしない」と述べたことも忘れてはいない。
 見過ごせないのは、元首相の発言と県民との約束を捨て去る手法が県民に対する背信行為だということだ。
 首脳会談でうたった同盟強化は、沖縄にとって基地被害がさらに広がる恐れを浮き彫りにしている。
 私たちはいま一度立ち止まり、沖縄の現実を直視して、将来を見据えた平和な沖縄県づくりをじっくりと検討すべきではないか。
 新たな基地は造らせず、北部への基地機能の統合も許してはならない。そのためにも、県民一人一人の意思と行動力が試されていることを自覚したい。

社説 日米首脳会談/首相は外交戦略示し得たか(河北新報 11/16)

 小泉純一郎首相とブッシュ米大統領が京都で会談した。米産牛肉の輸入は年内再開の見通しがつき、普天間飛行場の移設問題で難航した在日米軍の再編協議も先月末、中間報告の取りまとめがなった。当面の懸案がなくなった両首脳は、日米の緊密な関係をアピールした。
 小泉、ブッシュの両政権が良好な日米関係を保ってきたのは、個人的な信頼関係によるところが大きい。大統領は3年の任期を残すが、首相は既に表明した通りなら後1年足らず。関係の再構築が間近に迫る。首相は政権の総仕上げとして次期政権に引き継ぐ外交戦略を語り得たのだろうか。
 両首脳は、中国の台頭や北朝鮮の核問題などの不安定要因を抱える東アジア情勢に共同対処する決意を示した。在日米軍の再編協議を加速し、来年3月の最終決着を目指す。
 中間報告は司令部機能の統合や役割分担を明記し、自衛隊と在日米軍の一体化を一段と進めた。米には世界展開する米軍の後方支援を日本が拡大することへの期待があり、日米安保体制は大きな転換点を迎えている。
 米の世界戦略に組み込まれ日本は補完的な役回りを担うことにならないか。海外での武力行使や集団的自衛権の行使につながる恐れはないのか。米軍再編の本質で首相は議論を煮詰めることができたか、会見からはうかがい知れない。
 基地再編により沖縄、神奈川両県などの関係自治体は反発を強めている。負担増という住民に直結する要因もあれば、基地の恒久化、機能強化への不安、地元説明がなかった政府への不信感もある。
 「日本の立場をよく考えてもらいたい」との首相発言を住民はどう聞いたか。一般論でなく、負担増を納得しうる根拠を聞きたかったに違いない。
 イラクで活動する自衛隊の派遣期限が12月14日に迫る。首相は「国際社会の一員として日本も一緒にやっていく」と派遣延長の方針を明確にした。
 ブッシュ政権は、同盟国や親米国でテロが頻発し「テロとの戦い」の行き詰まりを示し、イラク情勢の泥沼化で支持率低迷にあえぐ。アフガニスタン攻撃以来、米支持でぶれることのなかった首相に期待するところは大きかったろう。
 イラク南部の治安を受け持つ英、オーストラリア軍は来年5月に撤退の意向とされる。首相は大統領に治安状況の展望を確かめたのか、また、日本の出口論を示したのだろうか。
 「ポスト小泉」に備えるなら、小泉・ブッシュの信頼関係に頼るだけでなく是々非々を明確にする姿勢を示す必要もある。日本がなし得ることをはっきりさせ、真摯(しんし)に助言することが大切だろう。
 日米関係は緊密化の一方で中韓など近隣諸国との関係は冷却化するアンバランスな日本外交。「世界の中の日米同盟」にアジア外交をどう位置付けるのか、日本の国益をどう実現するのか。首相は今後の国際舞台で外交戦略を明確に打ち出してもらいたい。 (2005年11月16日水曜日)

社説 アジア安定に役立つのか 日米同盟強化(西日本新聞2005/11/16)

 小泉純一郎首相とブッシュ米大統領による首脳会談で日米同盟関係の強化を再確認したのは、中国の軍事、経済的な台頭や北朝鮮の核開発問題など先行き不透明な東アジアの安定のためには日米の共同対処が不可欠との認識からだろう。
 小泉首相は会見で「日米関係が良ければ良いほど中国や韓国、国際社会との良好な関係を築ける」と強調した。
 だが、対米、対アジア関係の両立はそれほど単純な構図にはない。むしろ日本は「一心同体」ともいわれる日米同盟の深化に伴って、これまでにない重い課題を背負ったことを忘れてはなるまい。
 小泉首相は中国などアジア諸国に対して日米同盟強化をてこに地域の平和と安定にどう貢献するのか、明確な外交ビジョンを提示する必要がある。
 ブッシュ大統領が日米の二国間関係をより重視する姿勢を鮮明にしたのは、影響力を強める中国への対応と、東アジアサミットなど米国排除の地域機構創設の動きにくさびを打つ狙いもあろう。
 米国が世界規模で展開した米軍の変革・再編の狙いは一義的には「テロとの戦い」にあるが、中国の軍事増強に対峙(たいじ)する布石でもあり、日米同盟をその中核に位置付けている。
 一方で、米国の対中政策はこのところ、軍事的な安全保障戦略と同時に、中国に国際社会の中で責任ある役割を果たすよう協力関係を築いていく外交戦略を着実に展開している。
 封じ込め政策を取らず、北朝鮮の核開発をめぐる六カ国協議に代表されるように中国の影響力をどう地域安定に活用するかに腐心しているのだ。
 米国が同盟強化に伴って日本に求めているのは、対アジア外交の「回路」としての役割だ。ブッシュ大統領も会談後の政策講演で「自由は日米の友情の基礎で、アジア関与の基盤だ」と指摘した。
 大統領が訪日前のインタビューで、小泉首相の靖国神社参拝で険悪化した日中、日韓関係の改善を促したのもそうした戦略に基づく発言だろう。
 日本がアジア、とりわけ四年近くも首脳の相互訪問が途絶えた中国との関係修復を果たせずに米国の期待に応えられなければ、同盟関係は揺らぎかねない。そんな危うさもはらんでいる。
 もう一つの懸念は、小泉政権がアジアを含む外交戦略を明示しないまま、米国の安全保障戦略に傾斜した対米協力姿勢を取っていることだ。
 日米同盟の重要性は言うまでもない。だがアフガニスタンやイラクへの自衛隊派遣など対米関係を最優先する日本は、アジア諸国の目にどう映っているのか。
 対米一辺倒、アジア軽視の外交姿勢では日米同盟は「アジア地域の安定と安全保障の支柱」にはなり得ない。日本は米国、アジアとの距離を測り直し、柔軟な外交戦略の立て直しを急ぐことが必要なときである。

社説 日米首脳会談 緊密ぶり誇示には懸念(中国新聞 ’05/11/17)

 二年ぶりに来日したブッシュ米大統領と小泉純一郎首相の会談が、秋の古都、京都迎賓館で行われた。お互いに日米同盟の重要性を再確認したことを、演出してみせるイベントに終わったようだ。
 一時間半の会談は、日米で前もって合意した在日米軍再編についての中間報告の着実な実行や、牛海綿状脳症(BSE)問題で禁輸が続く米国産牛肉の輸入再開早期実現など、予想された方向でまとまった。しかし、いずれも日本では、地元や国民の合意がきちんと得られたとは考えにくい重要問題である。政府間だけの合意を押しつけようとする演出には納得できない。しかも、会談後の小泉首相の記者会見の発言には、主として二つの点で懸念が残る。
 一つは、日米同盟をより緊密にすることで、対中国や韓国、アジア諸国、世界とも良好な関係が築けると強調したことだ。「日米関係はほどほどに」との一部の意見を「私は取らない」と公言する。こうした日米共同行動の強調ぶりは、超大国・米国の「虎の威を借る」日本―と他国の目には映ってしまいそうだ。確とした自主性の見えない国が、他の信頼を得ることができるだろうか。
 米国にとっても、自らが不可能なことを、別の切り口でやってくれる友人こそ、真の友人だろう。米国が壁にぶつかったとき、米国べったりで他の選択肢を持たない日本では、頼りないに違いない。
 二つ目は、地元と協議らしい協議をすることなく、日米閣僚級の安全保障協議委員会(2プラス2)で合意した米軍再編問題への発言である。小泉首相は、安全保障については総論には賛成でも、各論には反対になってしまうのが基地問題、といった意味のことを指摘する。それは確かであろう。だからといって、地元の意向を無視しておいて、「政府一体となって実現に最大限努力」すればいい問題ではなかろう。それでは、米国の圧力には従っても、自治体や住民の声は力で抑えてしまえ、との強権的姿勢にみえる。
 こうした地元を軽視したやり方に高い支持率を背負った小泉政権や与党の「おごり」を感じる。BSE問題にしても、米国の脅しに近い圧力に、結局屈したのではないか。国民が納得しているとは言い難い。
 「イエスマン」は都合のいい存在ではあっても、決して尊敬すべき友人にはなりえない。強い者に向かっても、言うべきことはきちっと言う存在こそ持つべき友人である。米国にとって日本はそんな友人たりえているか。
 答えは、日本やドイツなど四カ国(G4)の国連安保理常任理事国入りを目指す動きに対する米国の態度に示唆されている。日本の常任理事国入りを支持しながら、G4の決議案に米国は明確に反対した。現在、日本一国では常任理事国に入れる環境にはない。それを見越しての米国のリップサービスが、今回の会見でのブッシュ大統領の「米国は一貫して賛成している」との発言だろう。本音は反対にあるとみるのが外交の常識ではないか。
 日米関係は重要ではあるが、適切な距離を置いておかないと、自らも世界も見失うことになる。

社説 日米首脳会談  同盟強化は打ち出の小づちか(愛媛新聞 2005/11/17)

 「日米関係が良いほど中国や韓国をはじめアジア諸国、世界各国との良好な関係を築ける」―これはきのう、京都で行われたブッシュ大統領との日米首脳会談後の記者会見で、小泉純一郎首相が述べた言葉だ。
 日米関係の重要性は言うまでもない。日本にとって米国はさまざまな面で最も大切な国だ。しかし、ここまで言い切るのはいかがなものだろうか。
 日米同盟がまるで日本外交の「打ち出の小づち」のように聞こえる。首相の靖国神社参拝で悪化している中国、韓国との関係をどう改善するのか、全く展望を見いだせない中で、日米関係だけを強調するのでは「対米一辺倒」「アジア外交不在」との批判が出ても仕方がない。
 首相自身も会見で、その辺りを意識してか「日米関係が良すぎることへの批判もあるが」とも述べている。イラクへの自衛隊派遣や郵政民営化などで「過剰な対米配慮」と首相への批判は根強い。今回の首脳会談の前に、政府の専門調査会が米国産牛肉の輸入容認の答申を出したことにも同様の批判がある。
 小泉首相の主張には、ブッシュ大統領も「日米関係は死活的で、強固な関係だ」と同調し、アジア外交の政策演説では「日米同盟はアジア地域の安定と安全保障の柱」と指摘した。
 両首脳が日米同盟を強調するのは、北朝鮮の核問題や、経済・軍事面での中国の台頭など不安定な東アジア情勢に共同で対処しようという狙いがあるとみられる。特に米議会では、中国の軍事力拡大への脅威論が強まっているからだ。中国側もこれらの動きに警戒を強めている。
 日米同盟の証しとして会談では、来年三月までに在日米軍再編を決着させるため調整を加速させることで一致した。また小泉首相は自衛隊のイラク派遣期限の延長を事実上表明した。
 在日米軍再編は、東アジアの新情勢をにらんだ米軍と自衛隊の関係強化という側面がある。ブッシュ政権のアジア戦略に深くかかわりながら、冷え込んだ中韓関係をどう修復するのか。東アジアの平和と安定にどう貢献していくのか、首相は具体的な道筋を説明する必要がある。外交努力がなければ、「刀やヤリ」だけでは、国の安全保障は成り立たないはずだ。
 同じ日に開かれた中韓首脳会談では、「正しい歴史認識」が地域安定の基礎になるとの認識で一致した。両国が小泉首相の靖国神社参拝中止で連携する姿勢を明確にしたことで、日本の対アジア外交はさらに厳しい対応を迫られそうだ。
 あすから韓国・釜山でアジア太平洋経済協力会議がある。絶好の機会なのに、日中首脳会談は開かれそうにもない。中国とは四年も首脳の往来がないという異常な状況が続いている。
 小泉首相は十月末の新内閣発足時に外交方針として日米同盟と国際協調を挙げ、国際協調の課題で「中国、韓国などとの関係」を強調した。複雑な国際問題の荒海を渡るには「複線、複々線」が基本だ。隣国との協調にぜひ力を入れてほしい。

社説 日米首脳会談/対等な関係といえるのか(東奥日報 11/18)

 ブッシュ米大統領が約二年ぶりに来日し、小泉純一郎首相と京都迎賓館で日米首脳会談を行った。
 会談では日米の「蜜月」関係が強調され、世界の中での日米同盟強化を確認した。
 しかし、同盟とはいえ米側からの一方的な要求が目立ち、とても対等な関係とは見受けられなかった。首相は日本の国益を守るため、もっと毅然(きぜん)とした態度をとるべきだ。
 「日米蜜月」を見守る東アジア、なかでも中国、韓国などの目は厳しい。「蜜月」に浮かれてはいられないのである。
 両首脳の国内事情は異なる。小泉首相の自民党総裁としての任期は来年九月まで。「改革の本丸」である郵政民営化で争った先の総選挙に大勝。ポスト小泉の人材を競わせ、小泉改革の総仕上げに向かう。
 一方のブッシュ大統領。二期目に入ったばかりで、任期は長い。しかし、泥沼化したイラク戦争、ハリケーン対策の不手際、側近の不祥事などで支持率は30%台。危険水域にいる。
 首脳会談では、米側の要求に押されタジタジという感じだ。イラク復興支援のための自衛隊派遣期間延長、在日米軍再編、米国産牛肉の年内輸入再開などだ。米国産リンゴ輸入もある。
 十月、日米閣僚級安全保障協議委員会が在日米軍再編の中間報告をまとめた。国内に数多くある米軍基地の街がその負担を分け合う形になる。沖縄県などは同県内の基地移設に猛反対している。
 沖縄に駐留する米海兵隊について、後方支援要員など七千人を削減する。沖縄・うるま市にある第三海兵遠征軍司令部をグアム島に移転する。
 見逃せないのが移転費用数千億円だ。全部日本側の負担になる。法的な根拠もなく膨大な血税を使うことになる。米側の言いなりになるのではなく、日本の国情、米軍基地の状況など米側にきちんと説明し、国民に納得してもらう努力が必要だ。
 米国産牛肉の輸入問題も米国側ペースである。肉牛の牛海綿状脳症(BSE)は全頭検査が原則だったはずだ。
 米国畜産業界の対日輸出圧力が見て取れる。日本側の食品安全委員会プリオン専門調査会が、条件付きながら年内に米国産牛肉の禁輸を解禁する見通しとなった。
 輸出の条件は、肉牛の危険部位を除去し、月齢は「生後二十カ月以下」。それを米側は早くも「生後三十カ月以下」に緩和してほしい、と日本側に圧力をかけている。
 リンゴの輸出もそうだ。リンゴの病気・火傷病。日本では前例がなく、検疫で侵入を防いでいる。
 米側は世界貿易機関(WTO)に提訴、日本側は敗訴し、検疫が大幅に緩められた。近く米国産リンゴが日本に入る。本県リンゴ関係者は戦々恐々だ。
 日米同盟は重要である。しかし、東アジアの安定のため日中、日韓関係はどうでもいい、というものではないはずだ。
 「蜜月」もいいが、対米一辺倒、対米追随とみられるのではなく、近隣諸国、周辺諸国ともっとバランスのとれた付き合い、外交をしてほしい。

社説 【日米首脳会談】安保と軍事だけの同盟強化は危うい(南日本新聞2005年11月17日 朝刊)

 小泉純一郎首相は2年ぶりに来日したブッシュ米大統領と京都で会談した。両首脳は、日米同盟関係のさらなる強化が、国際社会の平和と安定にとって極めて重要であることをあらためて確認した。
 会談後の会見でも、小泉首相は「過去も現在も将来も日米関係の重要さは変わらない」と、重ねて強調した。日米の結束の固さを内外に示し、とりわけ中国や韓国など東アジアの近隣諸国との関係悪化に対処しようという狙いである。
 小泉首相の靖国神社参拝に反発する中国や韓国が、日本との外交に距離を置いている現状からすれば、米国との連携を一段と強めて、対アジア外交の難局を乗り切りたい首相の真意は明らかだ。
 一方、アジアにおける米国の経済、安全保障面での役割の低下を懸念するブッシュ大統領にとっても、日米同盟の強化は不可欠の要素である。首脳会談での認識の一致を歓迎するのは当然だろう。
 同盟強化の証しとして日本側に突き付けた重大な課題が、来月期限を迎える自衛隊イラク派遣の延長と、米軍普天間基地の移設を含めた在日米軍再編である。
 自衛隊派遣について、首相は派遣延長を事実上表明した。撤退時期は明確にしなかったものの、来年5月に引き揚げる予定の英豪両国の動きに合わせられず、1年延長を決めた米軍中心の多国籍軍に同調する形を取りそうだ。いくら人道支援活動といっても独自の行動が取れないのでは「過剰な対米配慮」と批判されても仕方ない。早急に時期を示すべきだ。
 在日米軍再編でも、首相は実現に最大限努力すると強調し、大統領も首相のリーダーシップに期待を寄せた。米国に気に入られたい思惑があるとしても、この判断はあまりに現実的でない。
 なによりも米軍基地の移設に沖縄県はじめ該当する地方自治体の理解がほとんど得られていない。地元の意向を無視して、政府主導で強引に進められる問題ではないし、地元が納得できる解決策を模索するのが政治の責務というものだ。
 米国産牛肉の輸入再開問題にしても同じことがいえる。大統領は早期再開を求めたというが、安心と安全を確認できないことには軽々しく要求に応えられる性格のものではない。
 日米同盟関係が重要度を増すことはやむを得ないとしても、安全保障と軍事面の強化ばかりが目立つようでは危うい。貿易や金融といった経済面などの連携にも力を入れて、アジアの一員として米国との関係強化を目指す努力が必要だ。

社説 【日米首脳会議】首相に重い説明責任(高知新聞 11/17)

 日米同盟の結束の固さを内外にアピールすることが最大の狙いであった日米首脳会談は、ほとんど意見の食い違いもなく、両首脳には満足のいく会談となったに違いない。
 中国の急速な台頭などで、アジアの政治、経済、軍事的バランスが変容していく中で、わが国が米国との関係を良好なものに維持していくことの重要性はいうまでもない。
 日米同盟を「アジア地域の安定と安全保障の柱」と評価するブッシュ大統領に対して、小泉首相も「世界の中の日米同盟」と応じた。北朝鮮の核や拉致問題で、日米連携の強化や懸念の共有を確認したのも、首相には成果だろう。
 ただ、今回の首脳会談は、大きな懸案とされていた米軍再編問題や米国産牛肉の輸入再開問題について、一定の合意や方向づけがなされるなど、事前に懸案の処理が進められていた。
 両首脳が友好的に会談できる環境が整えられていたわけで、後は双方が緊密な同盟関係をアピールするだけでよかったともいえる。
 しかし、首脳会談前に、急ぎ取りまとめた米軍再編の中間報告に沖縄県をはじめ、関係する自治体が激しく反発、また米国産牛肉の輸入再開に関しても、安全性に対する疑問は解消していない。
 首相は米軍再編に「最大限の努力」を約束した。このツケは国内の政治的課題として、小泉内閣に重くのしかかるだろう。国民や関係自治体に対して、納得できるだけの十分な説明が必要だ。
 首相の強調する「世界の中の日米同盟」が具体的に何を意味するかも知りたいところである。
 首相は会談で事実上のイラク派遣延長表明を行った。ブッシュ大統領も日米は「死活的で強固な関係」と言い、国際社会の諸問題に共同で取り組むことの重要性を指摘した。
 懸念されるのは日米の軍事的一体化だ。インド洋やイラクへの自衛隊派遣、米国のミサイル防衛(MD)への参加など、集団的自衛権の行使に抵触する恐れのある決定が次々になされているという現状がある。
 「世界の中の日米同盟」がこの方向に傾斜していくとすれば、当然、憲法との整合性が問われる。このことへの説明責任も重い。
 さらに、もう一つの日本外交の柱である国際協調との均衡をどう取っていくか。「一国主義」を突き進むかに見える米国一辺倒になることへの危惧(きぐ)がここにある。

社説 日米首脳会談/同盟に依存しすぎる心配も(福島民友11月17日)

 「日米関係が良ければ良いほど、中国、韓国をはじめ世界各国との良好な関係を築ける。過去も、現在も将来も日米関係の重要性は変わらない」(小泉純一郎首相)
 「日米関係は死活的で、強固な関係だ。自由と民主主義を広めるという意味で、良き友人で、協力し平和を維持する作業にあたれる」(ブッシュ米大統領)
 京都で行われた日米首脳会談で、両首脳はこのように「日米同盟」の緊密さを内外に誇示してみせた。
 会談で小泉首相は「在日米軍再編の実現に最大限協力」するとともに「自衛隊のイラク派遣延長を事実上約束」した。これに対しブッシュ大統領は「日本の国連常任理事国入りを支持」し「小泉政権の構造改革路線を評価」したという。
 日米関係が緊密で良好なことが両国民の利益であることは言うまでもない。両首脳が言うように日米同盟は両国が国際社会で生きていくうえでの基礎となっているからだ。
 しかし、この会談では、日米同盟へ依存する姿勢が際立った。日米同盟さえしっかりしていればあとのことは大丈夫だ、というような。
 日米同盟を基軸にして、両国が国際社会の現実に関して認識と意思を共有し、国際協調を心掛けながら国際貢献していく、というような姿勢があまり見えなかったのは、両国民にとってきわめて心細い。
 周知のように、日米同盟から視野を足元に戻せば、日本の「中国、韓国をはじめ」アジア近隣諸国との外交が良好だとはとても言えない現実がある。
 その一因が小泉首相の靖国神社参拝という「心の問題」であるだけに、日米同盟を持ち出せばどうにかなるというものではない。
 より大きな、しかも目に見えない問題として「9・11米中枢テロ」以来の米国を中心とした「対テロ戦」体制が揺らぎ始めたという現実がある。震源地は中国とロシアだ。中ロ両国は対テロ戦という枠組みでの米国との協調姿勢から少しずつ身をずらそうとしているようだ。
 ことしは中央アジアのキルギスタンやウズベキスタンなど旧ソ連諸国で、旧ソ連以来の独裁的政権が次々に崩壊した。これらの国々には、アフガニスタンやイラクの戦争などをきっかけに米軍が「対テロ戦のために」駐留している。ロシアはこれらの国々での政変を米国の影響力の浸透の結果と見て反発を強めた。
 日米同盟に依存する日本へ向けたロシアの視線も冷却化。八月には、かねて日本と中国とが競合してきたシベリア原油パイプライン問題で、プーチン大統領が「中国ルートの優先」方針を発表し、日本は外交的かつ経済的な敗北を喫している。
 中国ではそれに加え、急速な経済成長に伴う米国との貿易摩擦が切実な問題となってきた。米中関係も表面上は良好だが、内実はそうとう、ぎくしゃくしている。
 中ロ両国はこうした情勢から接近の度合いを強め、ことし七月の中ロ首脳会談では「外部による社会政治モデルの押しつけに反対する」と、暗に米国の一極支配をけん制するような共同宣言を出している。そして八月には両国は最大規模の共同軍事演習にまで踏み切った。
 中国はこれに加えて北朝鮮、ベトナムなど隣接諸国への経済援助に乗り出し、関係を強化しつつある。
 日米同盟のほうが国際社会から孤立する、という事態すらあり得ないことではないのだ。京都の日米首脳会談にその答えはなかった。

社説 日米首脳会談/同盟強化の先に何がある(神戸新聞 2005/11/17)

 ブッシュ米大統領が二年ぶりに来日し、秋が深まる京都で小泉純一郎首相との日米首脳会談が行われた。
 二人のトップ会談は十二回目で、親密な間柄はいまや内外に知られる。今回も会談に先立って金閣寺を散策して紅葉を楽しみ、会談後の記者会見では、お互いに日米同盟の重要性を強調した。あらためて蜜月ぶりをアピールした形だ。
 日米関係は日本外交の基軸である。首脳同士の強い絆(きずな)も大いに意味がある。 だが、抱える問題は問題として率直に意見を述べ合い、ときには衝突もする。それでこそ首脳会談であり、信頼感も増す。そうした対話がどこまで交わされたのか。
 たとえば、焦点の一つだった在日米軍の再編問題である。先に政府間でまとめた中間報告には、沖縄県など関係自治体の反発が強い。そうした地元の声が、会談にどう反映したのだろう。ただ、首相が重い「宿題」を負ったことは間違いない。
 米国産牛肉の輸入再開問題でも「日本政府は調査会で研究し、安全と判断してくれた」という大統領発言は、日本の消費者の懸念が視野にないかのようだ。
 一方で、首相はイラクへの自衛隊派遣の期限延長を事実上、表明した。米国内でも米軍の早期撤退を求める声が高まる中、大統領には心強い申し出だったろう。
 こうした会談内容からうかがえるのは、これまでも指摘されてきた小泉首相の「対米偏重」といえる外交姿勢である。
 首相は「日米関係がしっかりすれば、中韓をはじめ各国と良い関係が築ける」と言い切ったが、道筋は明確ではない。
 東アジアはいま、中国の台頭や北朝鮮の核など不安定要因を抱える。そんな情勢の下、日米同盟が強化される動きに対し、むしろ中国などは警戒感をのぞかせている。当面の課題として、冷え込んだ日韓、日中関係の修復につながるかどうか。
 アジアに比べて米国への配慮が際立つ小泉外交に対し、懸念する声が絶えない。しかし、首相は会見で「それで日本が方向性を見失うとは思わない」と述べた。
 日米同盟の重視は、郵政民営化と同様に首相の信念なのだろう。ならば一層、自らの考えを国民に明示する必要がある。
 ブッシュ政権が進めるアジア戦略に日本が深く関与することが、この地域の平和と安定にどう貢献していくのか。ひいては、わが国の国益にどうかなうのか。
 しっかりした見通しや根拠を示すべきだろう。国民が抱いている疑問や不安、反発を置き去りにしてはならない。

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