本書は、田原総一朗氏が1998年7月から2000年10月まで、『SAPIO』に連載したもの。親本は2000年11月に小学館から出ています。御本人が「全くの素人として、5年にわたって、まるで迷路を歩くように、太平洋戦争勃発までの軌跡を辿りました」(文庫版あとがき)と書かれているように、いろいろな研究者に取材などもしながら、調べたり考えたりしながら書かれたもののようです(5年というのは、連載以前に何年か取材をしてきたということでしょう)。
目次は、こんな感じ。
第1章 富国強兵――「強兵」はいつから「富国」に優先されたか
第2章 和魂洋才――大和魂はそもそも「もののあはれを知る心」だった
第3章 自由民権――なぜ明治の日本から「自由」が消えていったか
第4章 帝国主義――「日清・日露戦争」「日韓併合」は「侵略」だったのか
第5章 昭和維新――暴走したのは本当に「軍」だけだったか
第6章 五族協和――「日本の軍事力でアジアを解放」は本気だった?
第7章 八紘一宇――日本を「大東亜戦争」に引きずり込んだのは誰か
たとえば第4章では、田原氏は、「伊藤博文は韓国を併合する意図はなかった」という想定で書いていますが、しかし、それを裏付ける資料は見つからないと書かざるをえなかったように、この想定は破綻していると言えます。
それでも、全体として、僕は、わりと真摯に歴史を調べ、書いたものだと思いました。ただ、独立を奪われた側、侵略を受けた側がどう思ったか、どう感じたかという問題がほとんど出てこず、したがって、先の戦争は、もっぱら日本はどうしてあんな無謀な戦争につっこんでしまったのか?という角度から取り上げあられることになっています。
しかし、その中でも、田原氏が、あの戦争は「失敗」だったことを明確にして、その立場で一貫されていることは、注目に値すると思います。
そのことは、たとえば「まえがき」でこんなふうに書かれています。
なぜ、戦争を始めたのか。なぜ、負けたのか。なぜ、日本は、明治の時代から西欧を懸命に追いかけてきて、その果てになぜ『悪』の国家として糺弾されるようになったのか。
疑問はいくらでもあった。
……
一体近代日本は、何に成功し、何を、どの地点で失敗したのか。それとも近代日本は明治維新の最初から誤れる暴走を続けて来たということなのか。
……
そして、気がつくと、日本の昭和の戦争を肯定し、積極的に評価する論文がどんどん出るようになって来た。
あの戦争が“失敗”だったと実感しているわたしは少なからず困惑した。
たぶん、田原氏がここに書かれている「近代日本は、何に成功し、何を、どの地点で失敗したのか」という疑問は、誰もが共通して感じる疑問だと言えます。それにたいして、これまでの歴史学研究もいろいろと答えてきたと思うのですが、それでもなお、こうした疑問に十分答え切れていなかったとしたら、やっぱり、それはこれからの歴史学研究の課題としてうけとめる必要があると思いました。
【書誌情報】書名:日本の戦争/著者:田原総一朗/発行:小学館(小学館文庫)/出版年:2005年1月(親本は2000年刊)/定価:本体714円+税/ISBN4-09-4005002-7
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