市民運動家が、立川市内の自衛隊官舎にビラを配布したことを「住居侵入」とした事件で、東京高裁が、一審の無罪判決を破棄して、罰金刑の有罪判決。
一般論としては、「表現の自由」を理由にして他人の住居や敷地内に立ち入ってよいという訳にはいかないというのは言うまでもないこと。しかし、禁止の張り札をしているとはいっても、日常的にピンクチラシその他商売向けのチラシが配られていても放置されている状態で、なぜ、イラク派兵反対のビラ配布だけが住居侵入罪として「軽微ではない」とされるのか。
検察は、住民の平穏が侵害されたというが、別に各戸を回って、直接、官舎住人に抗議活動をおこなった訳でもなく、新聞配達員や宅配業者、それに商業チラシ配布などで、通常、外部の人間が立ち入っているのと同じように立ち入っただけで、なぜ、それが平穏の侵害になるのか。その点の具体的な立証が必要だ。
それから、もう1つ。自衛隊官舎に自衛隊のイラク派遣反対のビラをまくのは「いやがらせだ」というけれど、官舎には自衛隊員以外だって生活している。自衛隊員の家族だからといって、イラク派遣に賛成だとは限らない。ビラを受け取るか受け取らないかを決める権利は、個々人が持つものであって、それを管理者が一律に排除するのは、国民の「ビラを受け取る自由」を侵害するものである。
立川反戦ビラ配布 市民運動3人に逆転有罪
[東京新聞 2005年12月9日夕刊]自衛隊イラク派遣反対のビラを配るため、東京都立川市の防衛庁宿舎に無断で立ち入ったとして住居侵入罪に問われ、東京地裁八王子支部で無罪判決(求刑懲役六月)を受けた市民団体のメンバー大洞俊之(48)、高田幸美(32)、大西章寛(32)の三被告に対する控訴審判決が九日、東京高裁であった。中川武隆裁判長は「ビラによる政治的意見の表明が言論の自由で保障されるとしても、宿舎の管理権者の意思に反して立ち入ることはできない」と述べ、一審の無罪判決を破棄し、大洞、高田両被告に二十万円、大西被告に十万円の罰金刑を言い渡した。三被告は判決を不服として上告した。
中川裁判長は、宿舎に関係者以外立ち入り禁止の表示がありながら、三被告がビラの投かんを繰り返したと指摘。
「被害の程度が軽微だったとはいえず、罰することができる違法性がないとはいえない。表現の自由が尊重されても、他人の権利を侵害して良いことにはならない」と述べた。
一審判決は「立ち入り行為は住居侵入罪の行為に該当するが、刑事罰に処するほどの違法性は認められない。ビラ投かんは憲法の保障する政治的表現活動」として、三被告に無罪を言い渡した。
検察側は控訴審で「居住者はビラで不安感や不快感を抱いていた。思想を外部に発表する手段でも、他人の権利を害することは許されない」と主張した。弁護側は「三人の起訴は公訴権の乱用」と無罪を求めた。
判決によると、三被告は昨年一月、自衛隊宿舎の敷地に入り、各戸の新聞受けにビラを投かんした。大洞、高田両被告は同年二月にも投かんした。
立川のビラ配布事件以降、警視庁管内では少なくとも六人が、政治的なビラを配布して住居侵入容疑などで逮捕されている。