見たい見たいと思っていた写真展「VIET NAM ベトナム―そこは、戦場だった。」を、最終日になってようやく恵比寿の東京都写真美術館に出かけ、見てきました。
この写真展の特徴は、米軍に従って南側から入り込んだカメラマンたちが撮った写真とともに、北ベトナム側の写真が一緒に展示されていること。北の写真には、いかにも「社会主義」の宣伝用というものも並んでいますが、しかし、ある写真では、米軍の爆撃でハイフォン市の労働者街が灰燼に帰した様子が映されていましたが、その中で、瓦礫の中から顔や手、脚だけが、破壊された壁や屋根と同じ無機物であるかのように見えているのに、思わず立ち止まってしまいました。
最終日だったからなのか、それとも日曜日だったからなのか、会場はけっこう混み合っていました。そのなかで、年配のお客さんが多かったことが意外でした。それも、ベトナム反戦デモなどをやっていた“団塊の世代”よりもさらに上の世代――60代とか70代、あるいはそれ以上と思われる人が目立ちました。その中でも、杖をついたり、腰の曲がったお婆さんが食い入るように写真を眺め、解説を読み、年表に見入っていらっしゃるのが、とても印象的でした。
もちろん、サイゴン解放後に生まれたであろう若い人たちも、たくさん来ていました。カメラをさげた人も多かったのは、やっぱり、写真というものの「訴える力」という点で、ベトナム戦争時代の戦場写真の迫力が大きいのかも知れません。
写真としては、他にも、南ベトナム解放戦線の協力者をみなされて公開処刑(銃殺)される高校生の写真をはじめ、川を泳ぎ渡る家族を写した、有名な沢田昭一の写真や、同じくピュリッツァー賞をとったナパーム弾に焼かれ避難する全裸の少女の写真など、厳しい戦争の“現実”が再現されています。石川文洋氏の写真もいくつかありました。1968年に米軍の第1次撤退が始まったときに帰還する米兵の笑顔にたいし、1975年4月30日、サイゴン陥落の日に、最後の米軍機に乗り込もうとするベトナム人とそれを押し返そうとするアメリカ人の形相の物凄さの対比も強烈でした。大統領宮殿に突入する北ベトナム軍の戦車の写真もありましたが、それを見て、当時高校生だった僕は、テレビのニュースを見ながら「大学に入っても、ベトナム反戦デモができなくなったなぁ…」と妙な感想を持ったことを思い出したりもしました。
ただ、今回の展示では、日本との関係がほとんど触れられていなかったことが残念でした。そもそも1945年の8月革命自体、戦前の日本の占領支配からの独立宣言だった訳ですし、ベトナム戦争の最中には沖縄や本土から多くの米兵がベトナムに向かい、壊れた戦車などの修理も日本でおこなわれたのですから、日本との関わり抜きにベトナム戦争は考えられないのではないでしょうか。
それからもう1つ残念だったのは、帰りに、図録を買おうと思ったら売り切れてしまっていたこと。先週、岡本太郎の写真展を見に来たときにはまだ売られていたから、あのとき買っておけばよかった、う〜む… (^_^;)
ちなみに、今回の写真店の解説は、中野亜里さんが書かれていました。ということで、帰りに新宿のジュンク堂で、昨年、彼女の編著で出版された『ベトナム戦争の「戦後」』(めこん、3500円+税)を買ってきました。解放後のベトナムの歴史も、確かに、研究課題ですからねぇ。
追伸>
マジで図録がほしいので、今回のベトナム写真展の図録をお持ちの方、ぜひお譲りいただけないでしょうか? 定価+送料実費をお支払いします。譲ってもいいよという方、ぜひご連絡をお願いします。m(_’_)m