稲葉振一郎ほか『マルクスの使いみち』

稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』

先日、コンサートの帰りに本屋で見つけたのが、稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅『マルクスの使いみち』(太田出版、本体1800円)。「人文系ヘタレ中流インテリのためのマルクス再入門」というコピーが気になって、ついつい買ってしまいました。(^_^;)

「人文系ヘタレ中流インテリ」というのは、「マルクス主義の資本主義批判に何らかの意義、正しさのあることを直観しながら、他方において知的体系としてのマルクス主義の正統性喪失に途方にくれている人々」(同書、18ページ)のこと。稲葉振一郎氏の命名だけれども、半分は自分たちのことを自嘲気味に?いっているのだろうと思います。

要するに、こういうヘタレ中流インテリのために、「主流派経済学〔=新古典派のこと――引用者〕の道具立てで、かつてのマルクス経済学が追究していたテーマを新たに定式化し直し、きちんと論じよう」というのが本書の立場です。その立場から、稲葉振一郎氏を中心にして、数理マルクス派の松尾匡氏や吉原直毅氏とが対談をしながら、マルクス経済学の再解釈を論じています。

いま半分ぐらいまで読んだところですが、稲葉氏が「『もうひとつの経済学』〔つまり、近経と並ぶ経済学〕としてのマルクス経済学には、おおむね未来はない」という割に、たとえば故・置塩信雄氏の大学院ゼミ出身の松尾匡氏の発言など、論じられている中身自体は結構まともです。

僕自身は、マルクスはいまでも有効だし、その有効性をこうした数理派の議論もふくめてあきらかにしてみたいと思っているので、ここでいうような「ヘタレ中流インテリ」には当てはまらないと思いますが、置塩さんの議論を勉強したり、スラッファの議論に興味を持ったりしているのと、問題関心は割と共通しています。そういう意味で、いろいろ勉強になります。

太田出版web:『マルクスの使いみち』

【書誌情報】書名:マルクスの使いみち/著者:稲葉振一郎、松尾匡、吉原直毅/出版社:太田出版/発行年:2006年3月/定価:本体1800円+税/ISBN4-7783-1010-1

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【追記】
こっちに読了後の感想を書きました。
読み終えました。『マルクスの使いみち』

稲葉振一郎ほか『マルクスの使いみち』」への3件のフィードバック

  1. はじめまして。kawakitaと申します。TBいただきましてありがとうございました。
    私は数理的な経済学の教養がなく、思いっきり『マルクスの使いみち』の対象読者の「人文系ヘタレ」だと思います(「中流インテリ」かどうかは怪しいので除外いたしますw)。
    ただ本書の「はじめに」および第一章に書かれている通り、近代の外を志向する思想や反経済学では問題は解決することはないだろうということは踏まえておりましたので、新古典派経済学の中でマルクスの考えを使っていくという考え方には賛成です。
    ということで、私のBlogに書きました通り、すでに大学時代にマルクスが必読書でなかった世代にとっては大いに学びのある本だと思います。

  2. kawakitaさん、初めまして。
    実を言うと、私自身、数理的な経済学は全然ダメなのです。(^_^;)
    必死に故・置塩信雄先生の本を読んでみたものの、数式部分は結局読み飛ばしております。その意味では、文字通りのヘタレです。ということで、こちらこそよろしくお願います。m(_’_)m

  3. 拙エントリのご紹介、ありがとうございます。ぼくもちょうどローマー編纂の”Analytical Marxism”や森嶋通夫の『マルクスの経済学』を読んでいるところだったので、当然のように購入しました。ぼくとしては、この本で稲葉さんが述べているように、旧態然とした「マルクス主義」では到底立ち行かない、と思うものですが、資本主義経済体制に関するマルクスの視角やそのゾルレン的理念に関しては引き継ぐべき洞察がある、と考えています。

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