靖国問題が世界で話題になればなるほど…

今日の「朝日新聞」のオピニオン欄で、米コロンビア大学教授のジェラルド・カーティス氏が、靖国問題について論じています。同氏の考えについてはあとで論じたいのですが、注目したのは、同氏が、「靖国問題の解決抜きに日中関係が改善するとは考えにくい」として、次のように述べていること。

 ただし、靖国問題の解決抜きに日中関係が改善するとは考えにくいのも事実である。そればかりではない。靖国問題が世界で話題になればなるほど、日本のイメージが悪くなることも否定できない。参拝に反対する理由を理解できないと小泉首相は言う。もっと説明すればわかってくれると他の政治家は言う。だが、遊就館が描いている歴史観や、A級戦犯が合祀されていることを説明すればするほど、国際的な反応は日本の国益に反するものになってしまうのが世界の現実なのだ。(「朝日新聞」5月20日付朝刊、東京12版)

なぜ靖国問題が世界に知られれば知られるほど、日本のイメージが悪くなるのか。それは、靖国神社・遊就館のかかげる歴史観が、あの戦争を「自衛のための戦争」「アジア解放の正義の戦争」だったとして正当化しているからに他なりません。そのような考え方は、世界に向かって決して通用しないのです。小泉首相や首相の靖国参拝をすすめようという人々は、まずそのことに考えてみるべきでしょう。

さて、話はもどって、カーティス氏の主張について。カーティス氏は、初めに、靖国問題の背景に「もっと深い問題」があるとして、次のように指摘しています。

靖国の背景にはもっと深い問題がある。今まで、日中両国がともに大国であった時代はない。今、初めてそういう時代に入ろうとしている。この新事実をどう受け止めるか、相手のパワーをどう受け入れるか、大国同氏が共存できるためにどういう戦略をとるべきか。こうした問いに、日本も中国も答えていないのが日中問題の本質ではないだろうか。

中国側については分からないが、日本についていえば、指摘されるとおり、日中関係をどうするのかという戦略がないことは紛れもない事実。より根本的な解決のために、日本の対中国、対アジア関係の総合的な戦略が求められていることは、私も同感です。

そして、これに続けて先述の靖国問題を論じたあと、カーティス氏は、中国は「日本に圧力をかければかけるほど日本の反発を呼び、逆効果になるのがわかっていない」と指摘しています。そして、「中国はジャパンバッシングをやめることだ」と提案されています。しかし、「バッシング」というのが、自分の利益を押し通すために道理のない主張を持ちだして相手国を非難することだとすれば、中国側の主張を「ジャパン・バッシング」とはいえないでしょう。

氏は最後に、日中関係を打開するために、「中国政府は体制維持のために反日ナショナリズムを必要としているのだから、歴史カードは捨てない」という日本側の見方が「間違っている」と分からせるような行動をとるべきだと、中国に向かって提言されています。「体制維持のために反日ナショナリズムを利用している」などという誤解を受けないような理性的な対応が求められていることはいうまでもありませんが、問題解決のためには、まず日本政府や政治家が、靖国史観を支持しているかのような誤解を与えないよう、みずからの行いを正すところから始めるべきでしょう。カーティス氏が、中国側への要望とともに「日本は関係改善のための積極的な姿勢」をとるように主張しているのも、そのことを差していると思います。「いつでも会う用意がある」と言っているだけでは、何もしていないのと同じということです。

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