何をもって「正式」というのか疑問もありますが、ともかくイラク連邦議会によって、旧フセイン政権崩壊以降初の正式政府が承認されました。しかし、内相、国防相、治安担当相は決まらず…。
で、ほんらいなら正式政府の発足をもって政治復興プロセスは完了したはず。でも現実は、そううまくいきそうにありません。
<イラク>初の正式政府が発足 連邦議会が閣僚名簿を承認(毎日新聞)
<イラク>初の正式政府が発足 連邦議会が閣僚名簿を承認
[毎日新聞 5月20日21時29分更新]【カイロ高橋宗男】イラク連邦議会は20日、新首相に指名されたマリキ氏が提出した閣僚名簿を承認し、03年4月の旧フセイン政権崩壊以降初の正式政府が発足した。新内閣は各宗派・民族が幅広く参加した「挙国一致」の布陣で、国民融和と治安の改善を優先課題として新生イラクの建設に着手する。これで暫定政府、移行政府を経たイラクの政治プロセスは完了したことになる。
内相、国防相、国家治安相の治安担当相人事は決着がつかなかった。そのため、当面は首相と2人の副首相がそれぞれ暫定的に職務を兼務することになった。新政府は懸案を抱えたまま見切り発車することとなった。
マリキ首相は承認後の演説で「我々は国民対話を進め、暴力の根絶と反テロにまい進する」と決意を表明した。
承認された新閣僚(首相、副首相を含む)は女性4人を含む37ポスト。主要閣僚には外相・ジバリ氏(クルド人)▽財務相・ジャビル氏(シーア派)▽石油相・シャハリスタニ氏(シーア派)――など。副首相にはサレハ氏(クルド人)とゾバイエ氏(スンニ派)が起用された。先送りされた3閣僚人事については、後日改めて議会に諮る方針。
一方、イラクで20日、正式政府に反対する過激派によるとみられる3件の爆弾テロが起き警官ら少なくとも27人が死亡、68人が負傷した。AP通信が報じた。
バグダッド東部シーア派地区サドルシティーで同日朝、紙袋に入った爆弾が爆発し19人が死亡。また、北西部カイムの警察署では自動車爆弾による自爆テロが起き、警官5人が死亡した。北部のモスル近郊でも自爆テロが発生し、少なくとも市民3人が死亡した。
また、この日、バグダッドなどで殺害・遺棄されたとみられる遺体19体が見つかった。
ブッシュ大統領は「完全に合法的な政府が誕生した」と歓迎して見せたけれど、イラク駐留米軍縮小のめどは立っていない。
イラクの本格政権発足、ブッシュ米大統領など各国首脳が歓迎(ロイター)
イラクの本格政権発足、ブッシュ米大統領など各国首脳が歓迎
[2006/05/20 19:18 JST][ワシントン 20日 ロイター] ブッシュ米大統領をはじめとする各国首脳は20日、イラクの本格政権発足に歓迎の意を示した。
米大統領は「イラクは民主主義の仲間入りし、対テロ戦争の同志となった。米国と自由を愛する国々は、イラクとともにある」と強調。
また「完全に合法的な政府が誕生した。これにより、イラクの民主主義への移行プロセスは、終了することになる」との認識を示した。
ブレア英首相も、イラクの人々にとって大きな前進、と歓迎した。
<イラク新政府>ブッシュ政権にとっては「もろ刃の剣」か(毎日新聞)
<イラク新政府>ブッシュ政権にとっては「もろ刃の剣」か
[毎日新聞 5月21日18時58分更新]【ワシントン笠原敏彦】ブッシュ米大統領は20日、イラク正式政府発足で声明を発表し、「新政府はイラクの多様性を反映し、歴史に新たな一章を開くものだ」と祝福した。大統領はイラク政策に対する米国民の支持つなぎ留めに生かしたい狙いだが、駐留米軍(約13万人)早期撤退に世論の期待が高まるのは確実なだけに、ブッシュ政権にとって正式政府発足はもろ刃の剣となりそうだ。
大統領は声明で「民主化移行プロセス」の終了をうたい、「統一政府ができたことで、前進に向け新たな機会が生まれる」と強調し、「米国と自由を愛する国々はこれからもイラクと共にある」と支援継続を約束した。
イラク開戦(03年春)後の米兵犠牲者は2450人を超えた。ブッシュ政権が米世論の支持をつなぎ留めるために頼ってきたのが政治プロセスの進展だ。4月下旬にはライス国務長官とラムズフェルド国防長官がバグダッドを訪問して新政府発足を後押しした。
米議会調査局のケネス・カッツマン上級研究員(中東)は「新政府発足はブッシュ政権に一時的な追い風になるかもしれないが、米国民は新政権が治安改善に役立たないことを間もなく知るだろう」と予測する。イラクではこれまで比較的情勢が安定していた南部でも治安が悪化している。イラク治安部隊の信頼度も不透明なだけに、駐留米軍削減を模索する米国には困難な情勢だ。
ハスタート米下院議長は声明で「イラク政府が統治能力を高めるのにしたがいイラク人が自衛力を整え、米軍が帰還するのが我々の望みだ」と述べ、米軍早期撤退への国民の期待感を代弁した。
イラク駐留米軍の縮小は約束できない=国防長官
[ロイター 5月18日10時39分更新][ワシントン 17日 ロイター] ラムズフェルド米国防長官は17日、上院歳出小委員会で証言し、イラクに展開している13万3000人の米軍部隊について、一部を年内に撤退させると公約できないが、撤退が実現することは希望していると述べた。
同じく同委員会で証言したペース統合参謀本部議長も、今後3カ月以内は、米軍がイラク領内のどの地域からも撤退せず、治安維持の任務をイラク部隊に移譲することはないとの認識を示した。
イラクでは3年間戦闘が続き、2450人前後の米兵が死亡しており、長官と議長は、イラク駐留米軍の規模縮小時期などについて議員から質問を受けた。
他方で、「北海道新聞」は、イラクでの武装攻撃を想定した米軍ルイジアナ州フォートポークの統合準備訓練センター(JRTC)での対テロ訓練をリポート。イラクの現実が決して甘くないことを事実をもって示しています。
米軍のイラク派遣兵訓練 混乱と恐怖、テロ再現 「本物はもっとすごい」(北海道新聞)
米軍のイラク派遣兵訓練 混乱と恐怖、テロ再現 「本物はもっとすごい」
[北海道新聞 2006/05/20 08:28]さく裂する自動車爆弾。逃げまどう住民。死傷者の搬送に追われる米兵?。イラクでの武装攻撃を再現した実戦訓練が、米国内の米軍基地内で連日行われている。イラクやアフガニスタンに派遣される米兵は、ここで「失敗」を経験し、不意の攻撃の恐ろしさを知って任地に赴く。米ルイジアナ州フォートポークの統合準備訓練センター(JRTC)で、対テロ訓練の現場を見た。
マツ林の奥に、モスクからコーランが流れる集落があった。反米勢力が潜む人口250人の仮想の町「モサラ」。補給品を積んだ米軍の車列を、どう安全に通過させるかが訓練兵に与えられた課題だ。
車列の中心部が町にさしかかったその時、道路脇の仕掛け爆弾(IED)が爆発した。自動小銃を手に林の中の敵に向かおうとする米兵に、「ジュンディー、ヤラ、ヤーラ(兵隊さん、早く早く)」と、アラビア語で叫ぶ女性が救助を求めてすがる。
住民役は訓練を受けたスタッフたち。実際に片足のない男性が、傷口に血のりを塗って迫真の演技を見せる。混乱の現場に到着した町の救急車が実は自動車爆弾。模擬爆弾とはいえ、爆音は全身が震えるほどの衝撃だ。米軍車列は完全に分断されてしまった。
約1時間の訓練終了後、監督役のジョン・バン・フック少佐(38)は「周囲の安全確保が不十分。医務兵の安全を考えて」と、兵士たちにアドバイス。訓練はやり直しとなった。2度のイラク派遣経験がある戦車部隊所属のジャスティン・ブラウン特殊技官(22)は「IEDの爆発を実際に目撃したが、本物はもっとすごい」と打ち明けた。
イラクでの米軍の死者はすでに2400人を超える。その多くがこうした不意の攻撃の犠牲者。訓練はイラクに向かう兵士に、交戦技術だけでなく、住民との意思疎通により重要な情報を聞き出す大切さを教える。
10日間の訓練メニューには、司令官が地元指導者の家を訪れ、米兵が起こした誤射事件を謝罪する交渉訓練もある。マイケル・マーティン大尉(32)は、米兵の処罰と見舞金で示談をまとめ、「無理な要求は断って、誠実な態度に心がけたのが良かった」と笑顔を見せた。
1993年の開設当時、JRTCの訓練は冷戦型の武力対決に重点を置いていたが、現在はテロリストを敵とした「情報戦」重視に様変わりした。作戦訓練を統括するデニス・スミス大佐(40)は、「武力か、情報か。比重はいつも変わる。しかし片方だけでは不十分だということは、いつの時代も変わらない」と、この訓練の重要性を強調した。(フォートポークで、西村卓也、写真も)