厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(通称:毎勤統計)の2005年度確定値が発表されたということで、「正社員、9年ぶり増加」などというニュースが流れています。
正社員9年ぶり増加、給与もプラス転換 05年度勤労統計(FujiSankei Business i.)
しかし、毎勤統計でいう「一般労働者」は正社員ではありません。政府の別の統計では、2005年に「正規の職員・従業員」(いわゆる「正社員」)が前年比36万人減、「パート・アルバイト、派遣社員、契約社員等」(いわゆる「非正社員」)は69万人増という結果も出ています。統計を読む場合は、それぞれのカテゴリーの定義を確認して、正しく用いることが大切です。
ちなみに、毎勤統計でいう「一般労働者」とは、「常用労働者のうち、次のパートタイム労働者以外の者」のこと。で、「常用労働者」とは、「事業所に使用され給与を支払われる労働者(船員法の船員を除く)」のうち、「<1>期間を定めずに、又は1ヵ月を超える期間を定めて雇われている者」あるいは「<2>日々又は1ヵ月以内の期間を定めて雇われている者のうち、調査期間の前2ヵ月にそれぞれ18 日以上雇い入れられた者」のいずれかに該当する者のことだとされています。
「一般労働者」という場合は、もちろん<2>は該当しませんので、要するに「期間を定めずに、又は1ヵ月を超える期間を定めて雇われている者」のことになります。で、この定義に従えば、たとえば3ヵ月契約のアルバイト、派遣労働者だって、毎日8時間働いていれば、「一般労働者」に分類されるわけです。
だから、さすがに「FujiSankei Business i.」も記事本文では、「正社員など一般労働者」と書いているのですが、問題は見出しです。見出しで、明らかなごまかしをやっているわけで、本文でわざわざ訂正しているというところから推察すれば、このごまかしは意図的と言わざるを得ません。こういう報道には気をつけましょう。
正社員9年ぶり増加 給与もプラス転換 05年度勤労統計
[FujiSankei Business i. 2006/5/19]厚生労働省が18日発表した2005年度の毎月勤労統計調査(確報値)によると、正社員など一般労働者数は0.6%増と九年ぶりに増加した。
これに伴い平均給与も押し上げられ、残業代などを含めた現金給与総額は0.7%増の33万4991円と5年ぶりに増えた。
フルタイムで働く一般労働者がプラスに転じる一方、ここ数年は4.5?6%台で伸びていたパートタイム労働者が今年は0.4%増と頭打ちとなった。
景気回復で雇用過剰感が解消しつつあり、社員を賃金の安いパートやアルバイトに切り替える動きにもブレーキが掛かったようだ。
所定内給与は0.3%増の25万3440円で、七年ぶりに前年度を上回った。残業代など所定外給与は2.1%増の1万9435円、ボーナスなど特別給与は1カ月換算で2.0%増の6万2116円だった。
また1カ月あたりの労働時間は前年度と同水準の150.6時間。所定内労働時間が0.1%減の140.1時間となる一方で、所定外労働時間は1.6%増の10.5時間となった。
で、これが、厚生労働省の発表記事。ちなみに「一般労働者」が0.6%増えたというのは、発表記事の「時系列表第4表」です。
→毎月勤労統計調査(2005年度分結果確報)
で、毎勤統計のカテゴリーの定義は、こっちで見ることができます。
→「毎月勤労統計 調査の説明」(PDF形式)
2005年に正社員が36万人減って、非正社員が69万人増えたという政府統計は、総務省統計局の「労働力調査詳細結果(2005年平均)の概要(速報)」です。
→「労働力調査詳細結果(2005年平均)の概要」(PDF形式)です。
(単位:万人) | 2002年 | 2003年 | 2004年 | 2005年 |
---|---|---|---|---|
就業者 | 6,319 | 6,304 | 6,316 | 6,343 |
雇用者 | 5,337 | 5,343 | 5,372 | 5,407 |
役員を除く雇用者 | 4,940 | 4,948 | 4,975 | 5,007 |
正規の職員・従業員 | 3,489 | 3,444 | 3,410 | 3,374 |
非正規の職員・従業員 | 1,451 | 1,504 | 1,564 | 1,633 |
パート・アルバイト | 1,053 | 1,089 | 1,096 | 1,120 |
労働者派遣事業所の派遣社員 | 43 | 50 | 85 | 106 |
契約社員・嘱託 | 230 | 236 | 255 | 278 |
その他 | 125 | 129 | 128 | 129 |
で、「労働力調査詳細結果」でいう「パート・アルバイト、派遣社員、契約社員など」というのは、次のようになっています。こっちの方が実態を反映しているといえるでしょう。
<雇用形態>
会社・団体等の役員を除く雇用者については、勤め先での呼称によって、「正規の職員・従業員」、「パ?ト」、「アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」、「契約社員・嘱託」、「その他」の6つに区分している。
(出所:http://www.stat.go.jp/data/roudou/9_2.htm)
ちなみに、毎勤統計は、事業所を対象にした調査で、調査対象は「常用労働者5人以上の約190万事業所(平成13年事業所・企業統計調査)から抽出した約33,000事業所」。それに対し、労働力調査は、全国約2,900調査区の約4万世帯について、その世帯員を対象とした調査。雇用状態については、世帯員のうち15歳以上の者を対象とし、その数は約10万人とされています。