地方オケの現況

「東京新聞」27日付に、「次世代につなぐオーケストラ 札幌交響楽団と“3つの改革”」という特集記事が掲載されています。

記事の前半は、存続が危ぶまれる事態となっていた札幌交響楽団が事務局長に宮澤敏夫氏を迎えておこなった3つの改革についての紹介。<1>演奏の質の向上、<2>教育への貢献、<3>社会への貢献――という「3つの改革」は、誰にも文句のないものでしょう。

で、後半は、大阪の4つのオーケストラ(大フィル、関西フィル、大阪シンフォニカー、大阪センチュリー)について、関西経済の低迷や大阪府などの財政難の中で、統廃合の声が上がっているという話。とくに1989年に大阪府が設立したセンチュリー響の存続が最も懸念されているそうです。

しかし、クラシック音楽はもっと身近にあってよいはずのもの。何とか前向きに打開されることを期待します。

次世代につなぐオーケストラ 札幌交響楽団と“3つの改革”
人材招き「やる気」 聴衆、社会に還元
[東京新聞 2006年5月27日]

 練習を終えた名指揮者、スクロヴァチェフスキは上機嫌だった。今月2日、札幌市の札幌コンサートホール。まずホールを「素晴らしい」と言い、初めて指揮する札幌交響楽団(札響)には「反応が実によい」と賛辞を贈った。翌日に行われた本番も優れた出来栄え。名匠の指揮にしっかりと応え、整った、しかも優美なモーツァルトを奏でるオーケストラには、数年前に存亡の危機が懸念された陰りはまるで感じられない。

 1980年代、高い演奏水準を誇った札響。故武満徹に映画「乱」の音楽の演奏を任され、在京オケを悔しがらせた逸話もある。北海道や札幌市の補助金も着実に伸び、1996年度は計3億6000万円と20年前の水準の3倍以上に達した。しかし、経営の甘さから98年度以降は赤字となり、道経済の低迷で補助金も2000年度から次第に減少。03年には5億円を超す累積赤字を抱え、存続が危ぶまれる事態となった。こうした状況の中で、オケの生命線である演奏能力も次第に低下していった。
 楽団員の給与や退職金、ボーナスのカット、基金の取り崩しなどの結果、04年までに累積赤字は解消した。だが、このままでは未来への展望がない。この年、音楽監督の尾高忠明の依頼で事務局長に就任した宮澤敏夫は、楽員と事務局が力を合わせて「道民に愛されるオケ、北海道の誇りとなるオケ」を目指して、3つの改革に乗り出す。<1>演奏の質の向上<2>教育への貢献<3>社会への貢献――だ。
 <1>の改革を端的に表す例が、東京都響で活躍していた優れたトランペット奏者、福田善亮の入団だった。中央のトップオケからのスカウトは、札響の「やる気」を楽団の内外に示した。<2>では「音楽教室」などの回数を増やし、幼いころから札響に親しんでもらうとともに、将来の聴衆をより積極的に育て始めた。<3>では、楽員による小編成のアンサンブルが老人施設や駅、街頭での演奏などを盛んに実施している。宮澤が「“おれたちは芸術家だ、芸術だけやっていればいい”と思いこんでいた。次の世代を育てる活動をしていなかった」と評するかつての札響は、大きく変貌していった。
 05年度にはさらに思い切った手を打った。定期公演の2回公演化だ。従来は月に1度、夜に行っていた演奏会を原則として金曜日に固定し、翌土曜の午後3時から同じプログラムでもう一度開くことにしたのだ。「観客動員は大丈夫か」と心配する声をよそに、それまで年間11回公演で1万人台半ばだった入場者が、05年度は年20回で2万6000人を超した。約1000人だった定期会員も、今年は1947人を数える。
 こうして札響で内部からの改革が続くうち、大阪では大阪フィルと関西フィル、大阪シンフォニカー、大阪センチュリー響と四つあるプロオケに、外部から激震が見舞った。関西経済の低迷や大阪府などの財政難の中で、「このままでは支えきれない」と、オケの統廃合を促す声が経済人らから上がったのだ。
 老舗格の大阪フィルをはじめ、どの楽団もそれぞれ特色を持ち、学校での公演を積極的に行うなど聴衆の拡大や経営の安定化に努めているが、いずれも将来への見通しは不明だ。ことに、大阪府が一九八九年に設立したセンチュリー響は、行く末が最も懸念されている。
 芸術の分野にも“経済効率”が求められ、「大切な文化活動だから」と安閑としてはいられない時代になった。すでに東京では01年、新星日響が東京フィルへの吸収合併という形で消えた。この先、各地のオケはどうやって支持を広げ、生き残るのか。
 その点、札響の改革は成功しつつあるように見える。だが、かつて大阪フィルで首席コントラバス奏者や事務局長として活躍した宮澤は「まだ何もできていない」と意外なことを言う。「楽員の給与やボーナス、退職金のカットで収支が均衡しただけで、これでは楽員がかわいそう。本当の改革はこれからだ」といい、同じ札幌を根拠地とするプロ野球の日本ハムファイターズ、サッカーJリーグのコンサドーレ札幌との提携など、新たな手を探っている。
 「自治体の補助が難しいなら、その上を行く方法を考えなくては。次の世代のためにも、オーケストラはつぶせない」。札響生き残りを目指す宮澤の決意だ。(文中敬称略、三品信)

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