30年前ならば、裁判所は認めたか?

ドミニカ移民訴訟で、東京地裁は、国の責任を認めるものの、除斥期間が過ぎたとして原告の請求を棄却する判決。

最近、種々の裁判でしばしば見られるこの論理。もちろん、国の責任を認めないよりは認めた方がよいのだけれど、逆にいえば、国が実際に賠償するのでなければ、いくら国の責任が認められても虚しい。

遠く海外の地にあって、国を訴えることができるということさえ伝わらなかった人びとに対し、移住したときから請求権の除斥期間が始まるというのは、あまりに非人間的な論理ではないだろうか。もし30年前に訴訟が起こされていれば、はたして裁判所は国の責任を認めた判決を下しただろうか。裁判所も国の一機構なのだから、自らの責任を含め、国策による被害の救済を考えるべきではないか。

ドミニカ移民訴訟:請求棄却 国責任認めるも 東京地裁(毎日新聞)

ドミニカ移民訴訟:請求棄却 国責任認めるも 東京地裁
[毎日新聞 2006年6月7日 11時16分 (最終更新時間 6月7日 13時12分)]

 1950年代に中米のドミニカ共和国へ移住した日本人と遺族ら170人が「『優良農地を無償配分』などとした日本政府の誇大宣伝にだまされ劣悪な環境での生活を強いられた」として、31億円余の賠償を国に求めた訴訟で、東京地裁(金井康雄裁判長)は7日、国の法的義務違反を認めながら、請求権が消滅する除斥期間(20年)が過ぎたとして、請求を棄却した。日本弁護士連合会が人権侵害と認定するなど「戦後最悪の移民政策」と指摘されたドミニカ移民について、判決が国策の誤りを指摘したことで、国は原告ら移住者救済への対応を迫られる。原告側は控訴する。
 移民募集などの事務は外務省傘下の財団法人「日本海外協会連合会」(海協連、現・国際協力機構)が担当。国が「海協連が主体的に募集選考した」と主張したことから、国の関与や賠償責任が最大の争点になった。
 判決はまず「当時重要な政策と位置づけていた日本国民の海外移住政策の一環として、外務省と農水省が企画立案し、海協連に指示して実施した」と、移住を国策だったと認定。そのうえで「国は、農業に適した土地を確保するよう配慮する職務上の法的義務を負っていた」と判断。入植地の農業適性や面積、所有権の有無などについて「現地調査や情報提供をする義務を尽くさなかった」と、国家賠償法上の賠償責任を認めた。
 しかし、原告の賠償請求権は移住した56?59年に発生したと指摘。「20年間を過ぎた時点で消滅した。除斥期間の適用が著しく正義、公平に反するとは言えない」として訴えを退けた。【高倉友彰】

 ▽原告・弁護団の話 移住者は文字通り「棄民」であったことがさらに明らかになった。国策だったことに判決は触れたが、控えめな評価しかできない。移住者の無念や苦しみに「時効」はない。判決の不当性は明らかで、ただちに控訴する。

 ◇ドミニカ移民訴訟=戦後の引き揚げ者対策で56?59年にドミニカ共和国に移住した249家族1319人のうち、現地に残留した141人が、生活苦のため自殺者や他国への再移住者が相次いだのは国の責任などとして00?01年、東京地裁に提訴。01年には61?62年に集団帰国した29人も加わった。1人当たり約350万?3000万円の賠償を請求している。「戦後最悪の移民政策」と言われ、南米など他の国への移民を巡っては同種の訴訟はない。03年に訴訟を支援する超党派の国会議員連盟が発足。小泉純一郎首相は04年3月「不手際を認め、しかるべき対応を考えたい」と参院予算委で答弁していた。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください